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第三話:胸騒ぎの正体(レティセラ)

*本話は、レティセラ視点のお話です。


「影魔獣がいたのでまさかと思いましたが……ダンジョンとつながるとは……」

オズマが額に手をあて天を仰ぐ。


「どういうことです?」

ベルクートが問いかける。


「影魔獣はダンジョン近辺で目撃されることが多いんだ。

 守護をしているとか、湧き出ているとか……そんな噂が立つ程にはな」

「影魔獣を倒した時に『喜んでいられない』って言ったのは、そういう意味ですか」

オズマの言葉にベルクートが同調する。

そういえば言ってたね……ん?という事はつまり……


「つまり影魔獣が沢山居る可能性がある?」

「そういう事だ……」

私のつぶやきをオズマが肯定する。

えぇ、何それ怖い。危険地帯の真ん中に居るじゃない。


――――。


「?」

「どうした、レティセラ」

「いえ、なにか聞こえて……」

叫び声、いや呼び声?何かが聞こえた気がした。


「……気のせい?」

耳を澄ませるが何も聞こえない。

ただ、なにかもどかしさを感じる。

依頼を受けようと思った時にも感じた焦りのような、恐怖のような……


確かめなきゃ……

意識が向かうのは坑道、そしてその奥にある――


「……行くか、ダンジョン」

「ベルクート?」

そのあたりに散歩に行くように気軽な口調でベルクートは言う。

彼の言葉は迷う私の背中を押してくれる。


「気になるんだろ?」

「うん、行こう」

「待て待て待て二人とも、護衛隊長として許可できない!危険すぎる!」

オズマが慌てて止めに入る。


「オズマさん。安全確保の為にも調査はすべきです」

「どういうことだ?」

「まぁ、聞いてください」

ベルクートが落ち着いた声で言う。

説得は任せよう、私は後ろで応援をする。


「今から引き揚げたら夜の森を突っ切る事になります。

リスクが高いと思いませんか?」

「それはそうだが」

ベルクートの語りの落ち着きが、少しずつオズマの心をなだめていく。


「かといって、ダンジョンが危ない場合、ここにとどまることの方が危険です」

「……」

「ですから、先に、ダンジョンが危険かどうかの調査が必要なんです。

ダンジョンの安全確認をした後にどうするかを決めても、遅くないはずです」

「ベルクート君、それは……確かにそうだが……」

ベルクートの説得にオズマが揺らぐ。


「俺達もダンジョンの中を見たい欲はありますが、無茶をするつもりはありません。

確認をするだけとお約束します。」

「オズマさん、ベルクートと私にダンジョンを調べさせてください。お願いします」

私ができることは、ただお願いすることだけだ。


「……わかった、そこまで言うなら止めねぇよ。

 そのかわり言ったからには無茶はするな、危ないと思ったらすぐ帰ってこい」

「ありがとうございます!」




ベルクートと二人で坑道へと入っていく。

しばらくすると大きな横穴があった。


「これが……ダンジョン?」

「こいつは……」

目を疑った、ベルクートも言葉を失っている。


土とも金属ともつかない素材。

壁には不気味な文様が刻み込まれている。

うそでしょ……見覚えがある……


「レティセラ……気になるのはどっちだ?」

「ん……えぇと、こっち」

「わかった、ちょっと待っててくれ」

指さしたのとは反対側の道をベルクートが氷の魔法でふさいでいく。


「道を塞いでおけば帰るとき迷わないだろ?何か来たときにも分かるしな」

「ありがとう……あの、ベルクート」

「どした?」

「ベルクートごめん、私のわがままで」

やっぱりきちんと準備してから来た方が良かったのかもしれない。

今になってそんな思いが込み上げてきた。


「わがまま?あれくらいわがままに入らないさ」

「ん、ありがとう」

「どういたしまして……よしふさがった、行くか」

ベルクートが前を進む。


思えばいつも彼は前に立ってくれる。

この戦い方が慣れているせいもあるけれど。

私は彼をちゃんと支えられているのだろうか……

少し不安を覚えてしまう。


彼の後をついて通路を右へ、左へそして下へ

三十分ほど歩き続け、やがて一つの扉の前にたどり着いた。


「……なんだ、この部屋」

扉を開けたベルクートが声を上げる。


大きな窓が印象的な小さな部屋。

胸騒ぎが教えてくれる……近い。

多分この部屋の向こう側。

あの窓の向こう側……


足が前に出ない、先ほどから訳もなく体の震えて仕方ない。

ベルクートを見る。彼も動けないでいた。手がかすかにふるえている。

「ベルクート……」

「レティセラ、ここ変だと思わないか?」

「変?」


この場所自体が変すぎて変じゃない事に気づけない。

ベルクートが窓を指さす。

「地下なのに、なんで窓があるんだ?」

「……!」


確かに、言われて気付いた、地下に景色を見る窓は必要ない。

だとしたら――

ぞくりと背筋に冷たいものがはしる。


恐る恐る窓へと近づき外をのぞき込む。


窓の向こうには一回り大きい部屋があった。


壁には不気味な文様は天井まで続いている。

部屋の中心は一段盛り上がり、まるで舞台か何かのようで。


「まって、ここって……ここはまるで……」


「……あぁ、俺達が呼び出された場所にそっくりだ」


全身に震えがはしる。

あの時の熱が、恐怖がフラッシュバックする。


「ダンジョンがこれなら……こんなものが、いくつもあるって言うのかよ……」

ベルクートの声に嫌悪が混じる。

そんな気持ちを追いやる様に、ベルクートは深く深呼吸をした。


「ふぅ……逆に考えよう、これはチャンスかもしれない」

「チャンス?」

「これが俺達を呼び出した装置と同型で、何かを呼べるっていうなら

逆の機能もあるかもしれないってことさ」

「逆の機能……還す機能?私達帰れるの?」

「分からない、調べてみよう」


ベルクートが窓を割り隣室へと入って行く。

私もその後を追いかける。


「なにか……違う?」

見た目はほとんど一緒だ、壁の材質だって舞台の大きさだって


「そうだな……」

ベルクートが壁に近寄り、手を当て、耳を当てる。


「……ここは死んでいるのか」

「死んでいる?」

「壊れていて動かないって事」

「壊れてる……」

「あの時は壁の向こうで機械の動くような音がしていただろ?」


たしかに、あの時は唸るような音が聞こえていた。

動かないと聞いて、私はどこかほっとした気持ちになっていた。

本当は、帰れる手段がない事を嘆くべきなのだろうが……


ただ、このダンジョンの正体を知っても収まらないこの胸騒ぎは一体……


ボゥと炎を生み出す。

あの時の様に部屋を照らそうと隅へ投げ捨てる。


ジュッ


壁に当たる瞬間、炎が掻き消えた。


「ベルクート!」

「下がれ!」


そこにいる。


いつからいたのだろう。

忘れもしない。


あの色


「ベルクート!あれ!」

「二度と見たくなかったな。あれだけは」


部屋の隅、炎の消えた場所に『濁彩』があった。

あの男の姿はない。

だが、見間違えようのない魔力だけが確かにそこに残されている。


頭の片隅であの男の笑い声が聞こえた気がして足が震える、身がすくむ。

私が呼ばれたのはもしかして……


濁彩は、ゆっくりと広がると舞台につながるケーブルへまとわりつき。

引きちぎり、そこからあふれる黒い魔力を吸い上げ。

ぐにゃりと蠢き形を変えていく。


「……やばいな。レティセラはここから援護頼む!」

ベルクートが声と同時に、濁彩に向けて槍を投げつける。

槍は濁彩を砕いた。

だが、砕けた濁彩は、黒い魔力とまじりあい形を変え続けていた。


「くそっ、だめか!」

濁彩交じりの黒い魔力は3対の眼と6本の前足を持つオオトカゲへ姿を変える。


「腕が多いな、さしずめアシュラリザードって所か?」

ベルクートの悪態に答える様にオオトカゲ――

アシュラリザードの眼が見開かれる。

ぎょろぎょろ……目が私を捕らえた。三対の眼がばらばらに動く、怖い、気持ち悪い。

ポンと肩を叩かれる。見上げればベルクートが笑っている。


「大丈夫だ落ち着けレティセラ」

「ベルクート、どうするの?」

「初見の魔物の定石は?」

「様子見?」

「そういう事」


ベルクートが敵の足元へ走り込む。投げた槍を拾い上げ、二発、三発、槍を振る。

アシュラリザードは咆哮を上げながら腕を振り回す。

壁にあたると、大きく壁がゆがみ、衝撃が部屋全体に響く。


「私も」

ベルクートの言う様子見は、敵を眺めることじゃない、攻撃が通りそうな場所を探ること。

赤魔力が杖を通り、火球に変わる。


「とりあえず顔!」

炎の球が空気を切り裂き、アシュラリザードの顔目掛けて飛ぶ。

ボン! 顔に命中、火花が飛び、煙が立ち上る。


「うそでしょ……」

煙の中から、無傷のアシュラリザードが顔を出す。

様子見でもダイブイーグルを落とした威力の炎だ、まさか無傷だなんて……


「いやぁ、面倒な奴だ俺の氷も通りが悪い。

推測だけど、あいつの体表にある粘膜が魔法をはじく性質を持っているらしいな」

戻ってきたベルクートが独りごちる。


「魔法が効かないって事?どうするの?」

「体の中には粘膜はないはず、中に直接ぶち込もう。デカいの、喰わせてやれ」

「わかったわ!」


ベルクートが再度走り出し、アシュラリザードへ立ち向かっていく。

腕振り、噛みつき、押しつぶし――怒涛の攻撃にすべて紙一重でかわしていく。

すごいな、もう相手の攻撃をほとんど見切っているみたいだ。

だから私は安心してその時を待つ。魔力を溜めながら。


アシュラリザードが三本の前足を振る。床が割れる。

ベルクートはそれをかわしつつ、前足の付け根へ槍を深々と突き刺す。


ギャァァァァァ!


突き刺した傷口からは冷気が勢いよく漏れ出した。

ベルクートと視線が絡む。今だ――


「いけぇぇ!」

叫び声を上げるアシュラリザードの大口目掛け、炎の奔流を放つ。


ドゴン!


爆風が収まった時、

そこに動く影はなく、黒く輝く魔石だけが残されていた。


「お疲れ様、おわったな」

「えぇ、ありがとうベルクート」


私の中にあった胸騒ぎは薄れていた。

「いえ、まだすべてでは……」


ここにある脅威は去った。

ただ、底知れない何かはまだ残っている。そんな予感が心を埋めていた。


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