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第二話:商人がもたらす依頼(ベルクート)

*本話は、ベルクート視点のお話です。

「ミスリルですか……魔法金属の?」

「流石、ご存じでしたか、おっしゃる通り魔法金属です」

だよなぁ、ファンタジー定番の金属だ。

商人……ゴードンはさも当然と言った感じで驚くようすはない。


「でも、町ではミスリルで作った武器とか防具は見たことないよね」

レティセラが不思議そうに言う。

確かに町の武器屋、防具屋、鍛冶屋で、

ミスリル製品が置いてあった記憶は無い。

大体がブロンズか、鉄、鋼と言った所だろう。


「ミスリルだけの武具は無いでしょうな。

なんせミスリルだけでは武具にするには強度が足りません、基本的には混ぜ物にすることが多いです」

「混ぜ物……つまり合金ですか?」

「えぇ、合金として使うと魔力の『通し』が良くなるので、魔獣討伐を生業とされて居る方々によく売れるのですよ」

合金前提だから、どんな少量でも売れるのが良いところだ、とゴードンは付け加えた。

なるほど、大規模な鉱山を持たない商人でも、少量を集めて利益が高く売れるなら商売としては成り立ちそうだ。


「それで依頼の内容に話を戻しますけど、護衛任務でしたよね?」

「おっとそうでした、いつもでしたら我が国から連れてきた護衛に任せているのですが、先日の鎧熊の件で怪我人が出ていまして……護衛の人数が足りていないのです」

鎧熊と言えば先日ゴードン達を助けた一件だ。

怪我の大小はあるが、ゴードン一行はもれなく全員が怪我をしていた。


「あ、あの、怪我をした人は皆さんはご無事なんですか?」

レティセラが心配そうに声をかける。

「お二人が助けて下さったおかげで、みなピンピンしておりますよ。半分以上は現場に復帰できていますし、残る者達も後1週間もすれば復帰できる見込みです」

「そうですか、良かった」

「ふふふ、あなた方に会いに行くと言ったら感謝を伝えてほしいと言っていました」

安堵の息をつくレティセラ。


大事が無くて一安心だ……

この世界に怪我を瞬時に直す魔法、いわゆる『回復魔法』が存在しない。

かつて使い手がいたというが誰も継承できずに、失伝したと町医者から聞いたことがある。


町の医者や、道具屋で回復薬の販売しているが、自己治癒能力を高める程度。

『よく効く薬』止まりなのだ。


だから、『補充人員求む!』なんて依頼を、

ギルドの仕事としてみかけることが度々あった。


「人員不足分の穴埋めと言う事は、そちらの護衛と合同作業になりますよね?」

「そうなります、総指揮はうちの護衛隊長のオズマが担当します。

基本的にはオズマの指示に従っていただく事になりますが、部隊混在はせずに二部隊体制で運用すると言っていました」

二部隊運用か……たしかに、即席で混成チームアップするよりは、慣れたチーム単位で動いたほうが良いだろう。


「それらのチーム運用についても、依頼書にも明記したうえで冒険者ギルドの許可も取ってあります。どうぞ、ご確認ください」

ゴードンがギルドのサインが入った契約書を取り出す。

ご丁寧に俺達を名指しの依頼書だ。

準備の良い事だ、この根回しの良さからやり手の商人であることが伺える。

と、何だこれ……


「この、『採掘場所は秘匿する事』と言うのは?」

依頼文の中の気になる一文を指さした。

仕事を行う場所については秘匿する事の記載があった。


「行き先は、貴族が管理していない坑道、つまり廃坑です」

「廃坑……」

「まず基本的には坑道は貴族が管理しています。

そして管理の際には、魔獣の襲撃に備えて常駐の守備兵士を置く必要があります。

常駐の守備兵を置く程のコストと見合わなくなった廃坑。

そこが今回の目的地です」

守るリソースの問題か。確かにそれはありそうだ。

コストが合わないだけならば、少量の目的の鉱石も残っているのだろう。


「なるほど、秘匿の理由はその場所が周知されると商売敵が増えるから、ですか」

「その通りです。ご理解いただけましたか?」

「えぇ、充分に」


「それで、仕事の期間は?」

「丸二日を予定しています。

明日の朝出発、昼頃に到着したら、鉱夫6名の交代体制で夜通し採掘を行い、

明後日の昼には作業を終えて戻る予定です」

なるほど、行くからには短期で素材を最高効率で採掘して持ち帰ると……


泊まりの依頼は今まで受けた事が無い。

だが、ゴードンたちはすでに実績のある経験者。

報酬は内容の割には割り増しされている、口止め料込だろう。

リスクとリターンが絶妙だ、なるほど商売人の持ってくる依頼らしい。

後はこちらがやる気になるか……だな。


「ベルクート、私この仕事受けてみたい」

レティセラが言う。

珍しい、大体俺からどうする?と聞いてから判断することが多いのに。


「危険はあるぞ、それでもいいのか?」

「うん、それでも何となくこのお仕事は、受けたほうがよい気がしているの」

気がするか……そう言う直感は大事にしたいと思う。


「……なるほどな。では、ゴードンさん、僕らの総意でこの仕事をお受けします」

「ありがとうございます!感謝いたします。」

依頼の受諾を受け、ゴードンは喜びの表情を浮かべるのだった。



町を出発してから二時間

丘を越え、森を抜け、問題なく目的の坑道へとたどり着く。


「ここが坑道ですか」

山と言うより片面がくりぬかれており、もはや崖に等しい。

いくつか穴が開いており、ゴードンが手早く炭鉱夫を割り当てていく。

一時間、二時間と何事もなく過ぎていき、三時間が経とうとしたその時……

炭鉱の目の前の森の中から奇声が聞こえる。


「おいでなすった!魔獣だ、迎撃するぞ!!」

ゴードンの護衛隊隊長オズマの怒声が響く。


「右は俺達にまかせろ、二人は左を頼む!」

「わかった!」

オズマは大剣を抜き放ち右の魔獣へと向かっていく。

狼型の魔獣:アイアンウルフ、鉄をも貫く鋭い牙と地を這うような素早い動きが特徴だ。

オズマの部隊は3人。オズマが大剣で最前衛、残る二人の剣士と斧戦士がオズマの背後を陣取る。


お互いの死角を補い合いながら、素早く動くアイアンウルフに対応していた。


「対してこちらの相手はと……」

上を見上げると大きな影がこちらを睨みつけている。

大型の猛禽類な魔獣:ダイブホーク。

上空からの素早い動きと鋭いカギ爪が脅威の魔獣だ。


「コイツ相手じゃ、近距離組は相性悪いよな……」

オズマは迷いなく対戦相手を指定していた。

俺たちならダイブホークを何とかできると信頼しての采配だろう。


『期待に応えなくちゃだな』

「ベルクート作戦は?」

「いつも通りいこう、俺が動きを止める。レティセラはとどめをよろしく」

「わかった!」

返事をしながらレティセラが魔力を高める。


魔力の高鳴りに反応したダイブホークが上空からレティセラ目掛けて襲い掛かる。

「させねぇよ!」

迎撃の槍を振る……が、ダイブホークの素早い動きに翼を掠めるにとどまる。


「『カスった』だけで十分だけどな」

槍の穂先には氷の魔力を載せてある。

ダイブホークの傷口に冷気が集まり小さな氷を生み出す。

寒さで翼の動きが途端に鈍くなる。


「いまだ!」

「炎よ!」

レティセラの振る杖から炎が渦を巻いて吹き出しダイブホークを包み込む。

断末魔を上げながら、焼け焦げた魔獣は地面へと叩きつけられた。


「オズマさん」

「どぉりゃぁぁ!」

オズマたちの方を向けば丁度アイアンウルフへとどめを刺した所だった。

鉱山へついてから約2時間、魔獣が襲い掛かってきたが危なげなく撃退する事が出来た。


「お疲れ様です、オズマさん」

「ふぅ、そっちの方が早かったか流石だな!」

汗をぬぐいながら、オズマが帰ってくる。


「こちらのは素早いだけで耐久力のない相手でしたからね」

「その素早いのを捕らえるのが大変なんだよ、うちの連中が全員無事だったら何とかするんだがな……」

オズマの部隊で怪我をしたのが、弓遣いと魔法使い。

代わりの後衛の補充として、ゴードンが魔法を使える近頃評判の冒険者として、

俺達を選んだらしかった。


「しかし……あまり喜んでばかりはいられないかもな……」

「どういうことです?」

浮かない顔のオズマへ話をすれば、先ほど倒したアイアンウルフを指さした。


シュウシュウと黒い煙を上げ、アイアンウルフの姿が煙の様に消えてしまった。


「アイアンウルフが……消えた?」

「なんだ、『影魔獣』を知らんのか?」

影魔獣……初めて聞いた。


「初めて見ました」

「倒すと影の様に消えちまう魔獣をギルドじゃ『影魔獣』って呼んでるんだ」

「そんなのがいるんですね……」

「普通の魔獣と違って、肉も皮も手に入らないが……こいつだけが残される」

そういってオズマは黒い石を拾い上げる。


「それは?」

「コイツは魔石さ、なんでも魔力が結晶化した石とかなんとか……

まぁ、ギルドに持ち込めば買い取ってくれるぞ?

最もこのサイズだと小遣い程度にしかならんがな」

「隊長!鳥の方も影魔獣でした」

「おぅ、お疲れさん。警戒体制のまま体は休めてくれ」

「はい!」

部下の人が持ってきたのは、気持ち大きめの魔石だった。


「これはダイブホークの魔石ですか?」

「あぁ、強い奴ほど魔石が大きい、君達が倒したほうのが大物だったらしいな」

そう言って魔石を渡してくれた。


「なんか真っ黒いですね……オブシディアンみたい」

レティセラが物珍しそうにしげしげと眺めている。

確かに光沢のある質感と微妙な透け感は石というより宝石にも見える。


「その石は嬢ちゃん達がもってきな、二人が倒した獲物だからな」

「わぁ、ありがとうございます」

レティセラは満面の笑みを浮かべ、魔石を大事そうにバッグへしまい込む。


「……かわいいな」

「あげませんよ、誰にも」

「ちがわい、国に残してきた娘を思い出しただけだよ」

「……そうですか」

可愛いと言ったオズマの眼がどこか懐かしそうだったのは娘の事を思ってだったらしい。

家族と離れて暮らすか……さみしいんだろうな。


「どうしたの?」

「何でもないよ」

レティセラの頭を撫でれば不思議そうな顔をした。


「た、大変だ―!」

坑道からゴードンが慌てたようすで飛び出てきた。


「ゴードンさん、何事ですか」

「順調に掘り進めていたんだ、そうしたら急に壁面がごっそり崩れて……」

「まさか崩落?!中の鉱夫達は?」

「彼らは無事だ、だがつながってしまったんだ」


……つながった?


「つながったってまさか……」

オズマは心当たりがある様に顔色が悪くなる。

ゴードンがごくりと息をのみ、絞り出すように言葉を続けた。


「そうだ、ダンジョンに繋がってしまった……」



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