閑話:商人の報告 (ゴードン)
*本話は、ゴードン視点のお話です。
交易都市リュミエルを取り仕切る貴族、オパール家の邸宅。
応接の間には、いつもと変わらず整えられた調度品。
華美にならず質素でもない、為政者としてのセンスと性格がにじみ出ている。
扉が開く。
立ち上がり礼をして、レオンハルトを出迎える。
「レオンハルト様、ご依頼いただいた件について報告に参りました」
「報告書は確認している。想定外はあったが、無事に戻って何よりだ」
ねぎらいの言葉で出迎えるレオンハルト。
「あの冒険者達には本当に助けられました」
「彼らか……」
そうつぶやくと、レオンハルトは応接のソファに深く腰を掛ける。
「まずは依頼の報告を聞こう」
「はい、まずはレオンハルト様ご依頼のミスリルを入手いたしました。
こちらをどうぞ」
横に置いておいた包みをテーブルの上に置き、包みを開けば艶やかな鉱石が現れる。
「うむ、確かにミスリルだな。質も量も申し分ないだろう」
そういうと、革袋がドサリと音を立て机に置かれる。
中から少なくないコインが擦れる音が響く。
「ありがとうございます」
そう言って革袋を手に取る。重い。
思わず、レオンハルトを見てしまう。
「もう一つの件もあるだろう。相応だ」
なるほど。
相応か……。
「では……もう一つの件として、彼らの話を」
一連の出来事をレオンハルトに報告する。
報告をしながら改めて思えばなんとも不思議な冒険者達だ。
冒険者としてまだひと月も活動していないという。
魔石のことを知らず、影魔獣も初めて見たと言っていた。
その点は始めたばかりと聞けば納得だ。
その反面、オズマ達をしのぐ強さを持っている。
「オズマが言うには『彼らの強さは、実戦の強さではない』そうです」
「実戦ではない?」
「はい、例えるなら何年も「練習」を積み重ねた強さだと。
実戦は練習と現実を擦り合わせしているように見える。と申していました」
「実戦さながらの練習という物が存在すればの話ですがね」
そう言いながら頭を掻くオズマの苦笑いを思い出す。
「人柄について一言で言えば『良い冒険者』でした。
少々人が良すぎて心配にもなる側面もありますが。
単なるお人好しではなく最低限の線を引き、
万人に礼節をもって接する好人物です」
「ふむ……」
オズマ達とも衝突することなくコミュニケーションは非常に円滑だった。
冒険者ギルドで聞いた前評判通りの噂に違わぬ人物だった。
「……なるほどな」
報告を終えてレオンハルトが納得したような表情を見せた。
最後に一つだけ、些細なことだが報告をしておいた方が良い。
そう商人として、人としての勘が告げている事があった。
「報告書には記載はありませんが、ひとつだけ……気になることがございます」
「気になること?」
「はい……。
レティセラさんが、ダンジョンに何かを感じている様子でした。
『何か』は、本人もうまく説明できない違和感のようなものだと」
「『何か』か……ダンジョン探索を二人で行ったと言っていたな?何か報告は?」
「モンスターがいたので駆除をしたと、それだけ聞いております」
「ふむ……」
レオンハルトは考え込んだ様子だった。
「……見極めも近いな」
「……」
ごくごく小さな独り言、私は聞こえなかったふりをするしかない。
「うむ……ご苦労だった。私からの話は以上だ」
「いぇいぇ、こちらこそお時間を作って頂きありがとうございました。
また、国で商品を仕入れてお目通りさせていただきます。」
面会の時間は終わり、席を立ち。
部屋から出ようとしたところで、思い出したようにレオンハルトに声を掛けられる。
「あぁ、そうだ、以前もらった紅茶があるだろう。
ダルジア産の……銘柄を何と言ったかな」
「ダルジア連邦産のティルバス茶でしょうか?」
「それだ、あれを娘が気に入ってね。来月までに手に入るか?」
「来月ですか……たしか王都立学園への入学式がありましたね」
「そうだ、持たせてやりたいと思っている」
「かしこまりました、ご準備させていただきます」
その顔は、為政者ではなく父としてのレオンハルトの顔があった。
為政者としての厳しい面はあるが、父として夫として家族への愛情をのぞかせる。
レオンハルトは悪人ではない、少なくとも私の知る限りは。
そのレオンハルトが気にする人物達か……
思ったよりも大物と知り合ってしまったのかもしれないな……




