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第六話:魔法使いの心 (ベルクート)

*本話は、ベルクート視点のお話です。

「えい!えい!えーい!」

セレナの可愛らしい掛け声が響いていた。

その掛け声は勇ましく、彼女が狙う5m先にある的は、さわやかな初春の風を受け気持ちよさそうに揺れていた。


入学まで後1週間、少しでも魔法の訓練がしたいとのセレナの要望により、町の外へと出てきていた。

護衛任務も兼ねているので、俺たち以外は誰も居ない。


「いいね、そのまま、グルグルっとして、グッとして、ドーン!よ!」

どやっ!と胸を張るレティセラ。

お手本と称してレティセラが狙った的は、陰すら残らず先端部分が焼失している。


「はい!」

と必死で食らいつくセレナが少しかわいそうだ、レティセラの教え方があまりにも……


「……感覚派が過ぎる」

「えぇー。そういうならベルクートが教えなさいよ!」

思わず口から出た言葉にレティセラが反応した。


「そうは言っても、俺は魔法の投射ができないからなぁ……」

魔法は属性に関しては個人の資質だが、基本的にはイメージだ。


『ベルクート君の特殊な魔法だ』

先日のレオンハルトの言葉が思い起こされる。


「教えてください、ベルクートさん」

セレナのお願い、いや懇願と言ってもいいかもしれない。

あまりにできないと自信無くすもんな、わかるよ。

「そうだな、一緒に練習するか」

「お願いします」


「順番にやろう。まずは魔力を体内で循環させる、グルグルとね」

体内の魔力を循環させる、俺のイメージは血流と一緒だ。

体の芯から指先へ送り、指先から体の芯へまた戻す。


「こうですか?ベルクートさんと違うかもしれませんが」

「同じである必要はないよ。魔力が体のどこでもいいから巡ればいいんだから」

セレナは手のひらを祈る様に合わせ、体と手で出来た円に魔力を循環させている。


「巡る魔力を少しだけ手の所で留めるんだ。

完全に止める必要はない、手のひらに水を受けるように少しずつ……そうだ」


セレナの手には魔力の塊が生まれていた。

先ほどまでうまくいかなかった。


「後はそれをドーンと放出!」

「えい!」


的に向かって二人そろって手を伸ばす。

俺の手には氷が、セレナには魔力塊がある。

的は、さわやかな初春の風を受け……


「どうやって飛ばせばいいんでしょう?」

「一緒に練習しよう……」


これだ……俺は、生み出した氷が飛んでいくイメージが持てないのだ。

アニメや漫画だとよく見るシーンなのにだ。

『推力』は?なんて変な事が気になって、勝手に飛ぶイメージが沸かないのだ。


逆に、霜が付くように武具にまとわせる魔法としては使える訳だが……


(異端の魔法か……)

手にした氷を的に投げつける。

命中すれば、そこには氷の華が咲くように冷気が広がった。


魔法のことを考えていたら一つ思い出したことがある。

「そういえば、セレナ様が魔法を覚えたいのは、魔物を倒したいからですか?

それとも、誰かを守りたいからですか?」

「私が魔法を覚えたい理由ですか……

私は、町の人を護るお父様を見て、お父様を支えるお母さまを見て育ちました。

私はそんなお父様とお母様を助ける為に魔法を覚えたいです」

「なるほど……」


(とすると攻撃魔法の適性は無いかもしれないな……推測でしかないけれど……)


魔法にはイメージが影響する、つまりは精神、心の持ちようだ。

冒険者にも魔法を扱える者はいる。

彼らの魔法を見る限りでは、『魔獣を倒す』が意識の根幹にあると攻撃魔法が使え、『仲間を護る、支える』が根幹にある人は防御の魔法を扱える傾向にあった。


セレナの意識は後者、守りの意識だから、防御魔法の適性の方があるかもしれない。


「どうしたの?難しい顔して」

レティセラが顔を覗き込んでくる。そのほっぺを両手で挟み、むにむにと潰す。


「ひょ、ひゃにひゅるのよ」

召喚された俺たちの魔法は……まぁ例外だろうな、魔獣なんていない世界で育ってきている訳だし……。

そもそもレティセラが火力特化なのは昔からだ、性格は別に攻撃的ではない。

むしろ真逆で、『戦闘が怖いからとにかく早く終わらせるため』と火力を特化に育てていた節がある。


「どうやったら魔法が飛ばせるかなって考えてたんだよ」

「だったらほっぺ抑える必要ないでしょうよ、んもぅ」

「ふふふ、お二人とも仲がよろしいですね」

「か、からかわないでよセレナ様」


セレナに防御の魔法を……と思ったがやめておこう。

今後そういう専門の学校に行くわけだし。

俺は魔法の専門家ではないからな。


「はぁ……私も早くみなさんのお力になりたいのですが……」

セレナが肩を落とす。

「大丈夫ですよ、きっと使えるようになりますって」


レティセラがセレナの手を握りながら励ましていた。


「焦る必要はないでしょう、少しずつ力をつけていきましょう。

さて、雲も出てきましたし、今日はそろそろ戻りま……」


言葉を止める。

遠くから音が聞こえる。


「……これは……鐘の音?」

間違いないリュミエル市の方角から鐘の音が聞こえてくる。


「この鳴り方、警鐘?!急いで戻らないと」

慌てて戻ろうとするレティセラの手を握る。


「ベルクート?……!これって」

「レティセラ」

「うん」


二人でセレナを背後に挟む様に位置を取る。

先ほどまでいい天気だったのに、黒雲が浮かび雷撃が奔る。


その黒雲の方から飛来するモノが見えた。


「嘘だろ……」

思わず口から言葉が漏れる。


「ワイバーンか!」

大きな竜がその翼を広げこちらへと向かってくる。


「どうする?」

「いつものパターン!」


槍の穂先に冷気を集め、飛び掛かるワイバーンに向かって槍を振る。

その翼を掠める。


カスっただけで十分、冷気が侵食し動きを鈍らせる……はずが氷がすぐに蒸発してしまった。


「炎よ!」

レティセラの炎がワイバーン目掛けて渦を巻いて噴き出すが、ひらりと躱して見せた。


「ごめん、ミスった!」

「ミスじゃない、避けやがった」

なんて機動性だ、ダイブイーグルより倍はデカいのに、機動性は同等かそれ以上。

それより厄介なのは……


ワイバーンは高く飛び上がるとのど袋がぷっくりと膨れ上がる。


「……だろうな」

二人の元へ駆け寄りマントをかぶせる。


ゴォォォォ!


ワイバーンの口から炎が噴き出され直撃する。


「ベルクート大丈夫!?」

「大丈夫だ、マントに氷を纏わせた」


と言っても、その氷が全て溶ける程の火力があった。


「まいったねどうも……丘のど真ん中で隠れる場所が無い」

「この!当たれ!」

レティセラが炎を出すが、あざ笑うかのようによけて見せる。


「距離の取り方も絶妙だな、教本にしたいぐらいだ」

「冗談言ってる場合?!」

「冗談だったらよかったんだがな!」


レティセラの炎に交じって氷塊を投げつける。

そのほとんどは躱され、たまに当たってもすぐに溶けて消えてしまう。


「くそだめか」


恐らくは奴自身が炎の魔力をため込んでいるんだろう。

生半可な氷の魔法は無効化される。レティセラの炎もどこまで効果があるか……

近距離なら槍で直接攻撃を狙えるのに、距離を取って炎を吐いてくるばかりで、近寄ってこない。


打つ手がなく魔力だけを浪費していく。

相手のブレスが尽きれば勝負になりそうだが……尽きるのか?


根拠のない希望は作戦とは言えない。

こちらの消耗の方が先だろう。

もう一手、あと一手欲しい。


「くっ、ダメか」


炎を防いでいたマントがもうボロボロだ。

槍の穂先に氷を集め、炎のブレスを切り裂く。

だが、勢いを殺しきれずに腕を、脚を焦がしていく。


「くそっ」

「ベルクートさん!」

「大丈夫だ!下がってろ!」


焦げる手足の痛みをこらえ、二人を庇うように立ちふさがる。

三人とも五体満足の帰還は……無理だな……うん、腕の一本って所か。


覚悟を決める。

再度ワイバーンのブレスが放たれる。


バチィ!

「えっ?」


数メートル前で炎が弾け飛ぶ。

淡いミルク色の壁が出現し炎を阻んでいた。


「セレナちゃん?」

背後でレティセラの声が聞こえる。


「私も、せめてお役に!お二人を護らせてください!」

振り返ればセレナと目が合う。

彼女の手からミルクグリーンの帯が伸び魔法の壁を創り出している。


もうセレナは守られていただけの少女じゃない。

戦う覚悟を決めた目だ。


ゴォォォォ!

バチィ!


再度炎を防ぐ。まぐれじゃない、きちんと使えている。


「結界魔法か?」

結界に手で触れる。

柔らかい、シルクにも似たやさしい手触り。


もう一手。

望んでいたそれが手に入った……だったら。


「セレナ様、結界を出す位置や向きは、調整できますか?」

「た、多分!思った通りの形にはできると思います」

「では、アイツに向かって『道』を作ってください。

レティセラは炎を広範囲に撒く準備、目くらましを頼む」

「わかりました」

「分かった!」


ワイバーンが一度通り過ぎこちらへ向き直り、喉を膨らませ始める。

何度もブレスをしてだんだんタメが長くなっているのを見逃しはしない。


「セレナ様!」

「はい!」


薄いミルク色の結界が伸びる。

飛び上がり、結界の上をワイバーンへ向けて駆けていく。

結界の切れ目が見えた、端からジャンプしてもワイバーンには届かない。


「ってお前も思ってるんだろ?いまだレティセラ!」

「いけぇぇぇ!」


レティセラの炎が吹き上がり。俺の背を押す。

一瞬、炎が視界を埋め尽くし、炎が晴れれば眼下にワイバーンの姿がある。


「とった」


翼の付け根に槍を突き立てる。


「凍りつけ」


突き立てた槍を通して冷気の魔力を全力で注ぎ込む。

魔力の消耗が限界だ、視界がゆがむ。


だが、ここで止める訳にはいかない。

ワイバーンは体内の炎魔力を総動員して冷気に反発してくるが。

相手も限界だ、徐々に氷が増していく。


「落ちろ!」

「キュアアァァァァ!!!」


断末魔を上げながら、浮遊感と共に地面へと墜落する。

地面へ叩きつけたワイバーンの翼は、完全に凍りつきぽっきりと根元から折れていた。

だが……


「ベルクートさん!大丈夫ですか?!」

視界の端にセレナの姿が映る。


「来るな!まだ終わってない!」


ワイバーンの眼が赤く光った。

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