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第五話:帰るために、選ぶ(レティセラ)

*本話は、レティセラ視点のお話です。

今……この人は、何と言った?

レオンハルトの眼が私達を見据えている。

ベルクートは今どんな顔をしている?


恐怖で彼の顔を見る事ができない。

彼の緊張感だけは嫌と言うほど隣から伝わってくる。


「……この世界の人間ではないのだな」


レオンハルトがもう一度言う……

確認ではない、念押しをするように……


「どうして……そうだと思うのですか?」

震える声で言葉を絞り出す。

レオンハルトは、確信して私達に話をしているはずだ。

そんな相手に分かりきった言葉を言っても多分意味はないだろう。

それでも、確かめずにはいられなかった。


「まず一つ、君達の来歴が分からない点だ。

森で出会う前の事が影も形も残っていない。

まるで、その場に召喚されて出てきたように……な」

震えが止まらない……


「ついで一つ、ベルクート君の特殊な魔法だ」

「俺の魔法ですか?」

「君は魔法を武器にまとわせて戦うのだろう?」

「……そうですね」

「あの魔法コントロールは並みの人間には出来んよ。武器を壊しかねん」

ベルクートは何も言えなかった。


「最後に一つ、コレが決定的だ。

レティセラ君……君は召喚した『英雄』と共通した特徴を持っているね」

レオンハルトが私を見る。


「私が……ですか?」

「膨大な魔力量、英雄しか持てないほどの……な」

っ!


『だがな――女の方はすばらしい!

 歴代でも上位の魔力量だ。最高の素材だ』

濁彩の魔力を持つ男の声が頭の中にこだまする。


思わず自分の体を抱きしめる。


「来歴が一切分からない事。

並みの人間では扱えない魔法を軽々扱ってみせる事。

王家が召喚した『英雄』と同等以上の魔力量を持つ事。

3つの点から、君達二人が異世界から召喚された『英雄』であると判断した」


結局、私達は、私たち自身が召喚された事を証明する証であったようだ。


「……なにか反論はあるかね?」

「……」

「……」


私もベルクートも何も言えない。

言えるわけがない。


「沈黙は肯定だな」

「……俺達をどうするおつもりですか?」

ベルクートが警戒心むき出しでレオンハルトに尋ねる。


「どうするとは?」

「あなたは俺達に何をさせたいんです?

……あの男の様に、素材になれと?」

「……あの男?あの男とはいったい誰の事だ?」

レオンハルトの顔色が変わる、焦り?いや、不安?


「俺達を召喚した男です。名前は知りません、出会ってすぐに逃げ出したので」

「君達を呼んだのは爆発が起きた場所か?」

「はい、呼び出された場所です」

「なぜ逃げた?」

「怖かったんです。とっさにベルクートに逃げようと言ってました」

恐怖、それ以外の感情が全て塗りつぶされる程に怖ろしかった。


「逃げる際に男と戦闘になりました、爆発と崩落はその戦闘が原因です」

「そう言う事か、爆発の原因と大穴の正体はそれか」

レオンハルト様が手物と資料を見ながら納得したようだった。


「それにしても……王家とは別に召喚の儀式を行える者がいるのか?

どういうことだ……」

レオンハルトの眉間に皺が寄る。

まだ疑っているのだろうか?そんな思いで見ていると目が合う。


「そんな不安そうな顔をしないでくれ、嘘はついていないのだろう?」

「はい、信じていただけるのですか?」

「ここで君達が嘘をつく必要はないだろう?」

ふっ、と笑みを浮かべる。初めて会った時と同じ顔。

無条件にいい人と思えたあの時の笑顔だった。


「さて、君達の素性についてはこのくらいで良いだろう。

私が気にしているのは素性よりもその目的だ」

「目的ですか?」

「あぁ、君達はこの街で……いや、この世界で何をしたい?」

レオンハルトが問いかけてくる。


何をしたい…かそう問われて自然と言葉が出てくる。

「私達は……元の世界に帰りたいと思っています」


「私の依頼を断ったのもそれが理由だな?」

レオンハルトは得心がいったようだった。

ベルクートがうなずく。

「はい、帰る為の手がかりを探したかったんです。

ですので1年もの期間を護衛として拘束される依頼はお断りしました」

「なるほどな……」

レオンハルトが椅子に座りなおす。


「そう言う理由ならば、なおの事依頼を受けてほしい」

「それはどういうこと?」

レオンハルトの言葉に反射的に言葉が出ていた。

断ったばかりじゃない……


「セレナの護衛について、依頼の内容は覚えているかね?」

「王都まで道中の護衛と、現地での護衛任務でしたね」

ベルクートが答える、護衛と帰還の方法がどうつながるのか……


「そうだ、王都の学園内には国立図書館が併設されている。

この街にある蔵書よりも召喚に関する資料が、専門的で詳細な文書が

ある可能性が高い」

「ヒントになる書物が探せる?」

可能性でしか無いだろうけど、闇雲に探すよりはましかもしれない。


「それから……」

レオンハルトが学園入学案内にある、一つの記載を指さした。

学園を取り仕切っている貴族の名。『レクサンドラ公爵家』


「四大公爵家の一つ『レクサンドラ公爵家』学園を運営しているが、

それ以外にも、代々古代文明の遺構の調査と管理をしている家柄なんだ」

「遺構の調査と管理?」

「あぁ、君達が調べたい『召喚装置』は王都の古代文明の遺構だ。

向こうで冒険者としての名を上げれば、遺構を調査している貴族家に、

直接接触できる可能性があると言う事だ」


……うそをついているようには見えない。


「あの……」

おそるおそる声を出す。

これだけは聞いておかなくちゃいけない。


「英雄の……召喚された人の中で、元の世界に帰った人はいるのですか?」

「……」


レオンハルトは言葉を一つ飲み込んだ後で言葉を紡ぎなおした。

「元の世界に帰った事例は……私が知る限りでは無い」


「そんな……」

「言葉の通りだ、王家に召喚された英雄たちはみな死ぬまで戦わされる。

魔物との戦いに明け暮れ、文字通り命運尽きるまで……な。

……死体の見つからない英雄も多い」

「そんなのって」

人として扱われていない、まるで道具だ。

あの濁彩の男と同じじゃないか。


「レオンハルト様もそのお考えで?」

「……人は人として死ぬべきだ、道具として終わるなど許さない。

だから私は、君達が召喚された存在であれば助けたいと思ったんだ」

「助ける?」

「どうして……初対面の私達にそこまで?」


「どうして……か」

レオンハルトは地を見つめ、天を仰いだあとゆっくりと言葉を紡ぐ。

「人は、人として、死ぬべきだ」

魂が震えるような怒り、そして悲しみと苦しみが混じったような。

「……先ほども言った言葉だが、これでは不足かね?」

後悔、贖罪、そんな思いも感じられた。


「お気持ちは分かりました……

でも、だったらなんで、大事な娘さんを私達に守らせようと言うんですか?」

異世界人を救いたいと言う心は立派だと思う。


私達は赤の他人だ、その他人を救うために娘をないがしろにするのは……

気に入らない。


「娘の事を大切に思っているからこそ、君達に任せたいんだ」

レオンハルトは自嘲気味に微笑を浮かべる。


「セレナには、貴族、商人、市民、そして英雄。

そのすべてに人として接する事ができる優しい子になってほしいと願い育ててきた。

そして願いの通り優しい子に育ってくれた」

「それは……問題が?」

「優しくなりすぎた、とでも言えば良いのか、人を疑う事を知らないのだ。

そう育ててしまった……だからこそ、怖くてね」

過保護すぎたのか……少しだけ両親の事を思い出す。


といっても私の場合は、過保護というより過干渉。それも超のつくほどの。

私の意思を全部無視して勝手に道を決める。

そんな毒親と呼べる存在だったが……


「学園は、貴族社会……いや、この国の縮図だ。娘はこの国の現実を知るだろう。

綺麗なものだけではない、汚いものや、後ろ暗い事、苦しみ、悲しみを知る事になる」

レオンハルトが頭を下げる。


「君達に娘の盾になってほしいわけではない。

セレナが挫けそうな時に支えて、その心を守ってやってほしい。

それができるのは、王国の思想に染まっていない君達だからできると思っている。

かさねてお願いする。どうか娘を……」

「……一つ確認をさせてください」

レオンハルトの思いは分かった、だけど私はどうしても確かめなくちゃいけない。


「私達の護衛を希望したのは、本当にセレナ様の意思ですか?

あなたがそういうふうに誘導したとかはありませんか?」

親の引いたレールではなく、彼女が自分で選んだ事か確かめなきゃいけなかった。

立ち止まった時に、自分で選んだ道で無ければきっと……親を、恨んでしまうから。


「それは、間違いなく娘の意思だ。

娘が言っていた通り君達に会いたがっていたからね。

元をたどれば、これも私の影響かな」

「どういうことです?」

「私は元々冒険者でね、オパール家に婿入りしたのだよ。

娘が幼い頃に過去の冒険を話したらいたく気に入られてね、

寝物語によくせがまれていたものだ。

必要なら、本人に確認してもらっても構わない。」

「そんな事があったんですね……良いお父さんだったんですね」

「改めて言われると……なんだか照れ臭いな……」

初対面の時に『いい人』と感じた私の勘はどうやら当たっていたらしい。


「ベルクート……受けよう、このお仕事」

隣で静かに聞いてくれていたベルクートに私の意思を伝える。

「後戻りはできなくなるぞ?」

返事はすぐにできなかった。

それでも――小さくうなずいた。


彼はにっこり笑ってうなずく。

私の手を握る力が強くなる。


そして、レオンハルトへ向かって言った。

「覚悟は決まりました。

レオンハルト様、セレナお嬢様の護衛任務、お受けいたします」


レオンハルトが受諾の言葉をきいて頭を下げる。

ただの父親として。

「ありがとう、どうか娘をよろしく頼む」



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