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第四話:レオンハルトの依頼 (ベルクート)

*本話は、ベルクート視点のお話です。

交易都市リュミエルを取り仕切る貴族、オパール家の邸宅。

応接の間には、質が良く派手ではない調度品が並んでいる。

正直なところ価値がまったく想像できない。


なぜ俺達はこんな所に呼び出されたのか……


「……落ち着かないわ」

「俺も……」

隣にいるレティセラも不安そうだ。実際、俺も落ち着かない。


リュミエルについてから約一か月が経っていた。

いつもの通りに月並亭でオムライスを食べていたら、オパール家の執事とやらが書状を持ってやって来て告げたのだ。


「ベルクート様、レティセラ様、リュミエル領主様がお呼びです。

明日、十時にオパール家領主邸にお越しくださいますようお願いいたします」


月並亭に居た全員がポカーンとしていたのは言うまでもない。


断れるわけもなく、約束の10分前にオパール家へ訪問。

応接間に通され、上等なお茶でもてなされ、現在に至る。

応接間という事は、悪い状況ではないと思いたい。


それにリュミエル市の領主と言えば――


ゴンゴンゴン


ノックの音が響き、レオンハルトが入ってくる。

やっぱりこの人か。


立ち上がり礼をする。レティセラも慌てて立ち上がり礼をする。

「レオンハルト様、お久しぶりです。

その節は助けていただきありがとうございました。

お礼にお伺いもせず、とんだご無礼を致しました」

「す、すみませんでした」

レティセラも隣で頭を下げる。


ひと月前、森で出会って以来の再開だ。

呼び出される心当たりはこれしかない。


「……」

返答はない。


ちらり、と顔をみれば目を丸くして驚いているレオンハルト。

その隣に二人の女性がいて、そちらも驚いていた。


「くくく……その件はいい、とりあえず二人とも座ってくれ」

「はい、失礼します」

「てっきり怒られるかと思っていたので……」

レティセラ、本音に蓋をしてくれないか?


「今回呼んだのは、二人に依頼をしたかったからだ」

「依頼……ですか?」

「あぁ、まずは二人を紹介しよう、妻のフィオナ、娘のセレナだ」

レオンハルトが隣に控えていた女性達に声をかける。


「フィオナ・オパールです」

「セレナ・オパールと申します」

二人が綺麗なカーテシーをする、穏やかで聡明そうな奥方と、素直そうで可愛らしい娘さんだ。


「冒険者のベルクートと申します」

「同じくレティセラと申します」

こちらも挨拶を返せば、フィオナとセレナはにっこりとほほ笑んだ。

隣から「可愛い」と漏れる声が漏れ聞こえる。蓋して、お願い。


「依頼と言うのは、セレナの護衛を頼みたいんだ」

「護衛……ですか?失礼ながら、貴族の方にはお付きの騎士の方々がいらっしゃいますよね?

冒険者に頼む仕事の内容とは思えませんが……」

「その疑問はもっともだ、簡単に説明しよう」

そう言いながら、レオンハルトが地図を広げる。


「ここが王都、ここがリュミエル。馬車で大体三日くらいの距離にある」

リュミエルの西方。大陸の西端に近い位置に王都はあった。


「セレナの護衛についてだが、来月から王都にある学園で教育を受ける予定だ。

王都までの道中の護衛と、王都在住の間の身辺警護を頼みたいと思っている」

「……王都ですか」

「次に君達に頼む理由だが、単純に人手不足なのだよ」

「人手不足ですか……」

要人警護に人手不足などあり得るのだろうか?


「まぁ聞いてくれ、まず、この国において『軍』は、王都にだけ存在する」

「王都だけですか?では、この都市の守備兵は?」

「王都からの派遣兵だよ。貴族固有の兵力は王国法で数が定められた護衛のみだ」

「なるほど……自由に動かせられる兵が居ないと」

王国が守り、貴族が治める。なるほど合理的な造りをしている。


「派遣兵については、駐留地域の領主に命令権はある。

その命令範囲は、都市の治安維持と外敵の排除のみと明確に制限されている。

だから、王都へ向かう娘の護衛の為には用兵できないのだよ」

「なるほど、それで護衛を冒険者に依頼したいわけですか」

「あぁ、その通りだ」

護衛が冒険者である事は納得できる……が……


「……なぜ俺たちに?」

その疑問は消えない。


「私からお父様にお願いしたのです」

セレナが口を開いた。


「冒険者として一線級の活躍をするお二人のお噂はかねがねお伺いしておりました。

私と変わらぬ年齢なのにすごいです」

……ん?変わらぬ年齢?


「えぇと……セレナさまは今おいくつですか?」

「15です、春の終わりに16になります」

「若っ……」

ほぼ一回り下じゃないか……


「我々は二人とも、とっくに成人してますよ?」

「そうなのですか?あらやだ、私ったらすっかり勘違いを……」

セレナは顔を手で覆って恥ずかしがっている。

顔の作りは作った当時の年齢だからな……


「んんっ」とレオンハルトが咳ばらいをする。

「年齢の事はともかく。セレナの希望もあり、セレナの護衛と言う立場で、

君達を雇い入れたい。期間は1年。充分な報酬と待遇を約束しよう」

「1年……」

大変光栄な話ではあるが……


レティセラを見る。彼女も同じ意見のようだ。


「……折角のお話ですが、お断りさせていただきます」

「ほう、どうしてかね」

断ったことへの威圧ではない、純粋な興味として聞かれている。


「我々が冒険者をしているのは金や名誉の為だけではありません。

今回の依頼を受けた場合、1年間は他の事が出来なくなります。

それは私達の活動目的に合いません」

「活動目的を聞いても?」

「すみません。お教えすることはいたしません」

「なるほどな……」

「ご予定が合わないならしかたありませんね」

レオンハルトは納得。

セレナは少し残念そうな顔をした。


「まぁ、待ってくれ。もう少し詳しい話をしたいのだが……話だけは聞いてもらえるだろうか?」

「……」

一度断ったと言うのに何だろう?

道理の分からない人ではないと思うがまだ何かあるのだろうか?


レティセラに視線を送る。何か感じる部分があったのだろう、首を縦に振った。

「では、お話だけお伺いします」

「ありがとう。フィオナ、セレナ、すまないが席をはずしてくれ、3人で話がしたいんだ」


フィオナが一つ息をつくと立ち上がる。

「分かりました。あなた、二人に無理を言ってはダメよ?」


セレナも立ち上がりお辞儀をする。

「お会いできて嬉しかったです。ではまた」


二人を見送りレオンハルトが肩をすくめる。

「やれやれ、君達を無理やり護衛にするのではと思われているようだな……」

「違うんですか?」

「娘の安全がかかっているからな。

嫌がる者を無理やり雇うよりも、進んで協力してくれる者に頼みたいんだ」

レオンハルトの言葉は理解できる。


「それはそうでしょうが……あれ?」

娘が大事なレオンハルトは、金で動く冒険者へ依頼しようとしている。

今の状況は、レオンハルトの語る理屈に合わない。


レオンハルトを見ると、口角を少し上げ、

袖机からファイルをいくつか取り出しバサバサと机に置いた。

見ろと言うことか?


「これは……拝見しても?」

そう尋ねるとレオンハルトは黙ってうなずいた。

ファイルを手に取り、1枚、2枚とページをめくる。


「ねぇ、これって……」

レティセラの声がわずかに震える。


俺の背中にも冷たいものが流れる。

これは……俺達の調査報告書だ……


「分かったようだね、君達がこの街に来てからの報告書だ」

「……」


たしかに、この街に着いて、最初に月並亭に宿泊した時から今までの行動が記録されている。

ゴードンの報告書もある、まさかあの依頼も俺達を調べる目的が?


「あ、あの……」

「なにかな?」

レティセラが声を発する。レオンハルトは表情を崩さずこちらを見ている。


「娘さんを守りたい気持ちは分かりますけど、これはやりすぎなのでは?

私達のプライバシーが有りません」

……違う


「違うよ、レティセラ、これは娘さんの護衛の適性を見るための調査じゃない」

「ベルクート?どういう事?」


「月並亭に初めて訪れた時から記載があるって事は……冒険者になる前。

 初めてレオンハルト様と会った直後から調査されていたことになる」

「あっ!」


なぜだ……森で迷ったただの一般人だぞ?

レオンハルトを見ると、表情を崩さないままに茶を一口飲む。


「……最初に君達にあったのは、森の爆発があった時だな」

「はい」

「調査を最初に付けたのは、爆破事件の犯人……または、何らかの形で爆発に関与していると思ったからだ」

「……」

「町での君達の暮らしぶりを見て、犯人でないと結論づけたが調査は継続した」

「……なぜですか?」


レオンハルトは、カップを手に取りゆっくりとお茶を一口飲んだ。


「……『雷帝』の噂を聞いた事はあるか?」

話題を変えた?しかし、あたりの空気が一気に密度を増したように重くなる。


「……えぇ、王家が呼んだ神の使いで、英雄だと聞きました」

「アレは神の使いでも英雄でもない……」

……この人は何を言おうとしている。

レティセラが握る手に力がこもる。


「古代遺跡の力を使って、異世界から呼び寄せた『異世界人』なんだ」

「っ!?」

震えそうになる足を押さえつける。

今はっきりと『異世界人』と言った。


「……そんな、おとぎ話が?」

「おとぎ話と思うかね?」

レオンハルトの眼光が鋭くなる。


「見たのだろう?ダンジョンの最奥で『異世界人』を呼び出す為の装置を、古代文明が残した遺跡を」

「あれが、古代の遺跡……」

「あれと同じ物……いや、もっと強力な物が王都の地下に眠っている」

……え?……は?……あれが王都にもある?


「王家に伝わる秘術によって、数年おきに異世界から『英雄』を呼び寄せるんだ」

「そ、そんなことをなぜあなたが知って……」

「そんな事を王家だけでやっているとでも?

『英雄』を呼ぶのには王家以外に、上級貴族を筆頭に様々な家が関与している。

つまり国家規模で民に事実を隠蔽し、『英雄』を召喚しているんだ」


レオンハルトは、一気にグラスの茶をあおりどこかさみしそうな表情を浮かべる。

「『英雄』と称し、担ぎ上げ、文字通り死ぬまで魔獣と戦う戦力として……な」


「……そんな重要な事をなぜ俺達に?」

問いかけに、レオンハルトの口角が上がる。

「問題ないさ」


「君達も『この世界の人間ではない』のだろう?」



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