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第七話:一人、彼想う (レティセラ)

*本話は、レティセラ視点のお話です。

炎が舞う。

怒りの赤と恨みの黒の混じった黒い焔がワイバーンを包む。


炎に耐性がある?

そんなもの知ったことか、効かないわけじゃないんだ。


「だったら!動かなくなるまで焼けばいい!」

炎がワイバーンに絡みつき、その皮膚を焦がしていく。


「わぁぁぁぁ!!」

「キュアアァァァァ!!!」

ワイバーンが、炎の中でついに膝を折り、頭を垂れる。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


視界の端に、セレナが映る。

視線を向けると恐怖と涙を浮かべた顔でこちらを見ている。

良かった、無事なようだ。


「……ベルクート?」

周囲を見回すが、姿が見えない。


あの時、セレナを制止したベルクート。

ワイバーンの攻撃からセレナを庇い、彼が吹き飛ばされたのは見えた。


「レティセラ!」

吹き飛ばされながら彼が言った。彼と目があった。

誰の目が訴えていた、だから私はワイバーンへ向けて炎を放った。


セレナは座り込んでいる。

あぁ、力が入らない。

魔力がすっからかんだ……

あの時は、ベルクートが抱えてくれていたけれど。

足を引きずるようにセレナへ駆け寄る。


「セレナ、大丈夫?」

「だ、大丈夫です……」

セレナの声は震えていた。


「で、でも……」


心が凍りそうになる、嫌な予感が消えてくれない。

「……ベルクートは?」


「べ、ベルクートさんは……」

セレナは震える手で、そこを指した。

その先には、底の見えない裂け目。

光も届かず、風の音すら吸い込まれるような闇が口を開けていた。


穴へ駆け寄りのぞき込む。

大地にぽっかり空いた穴は、まるで奈落の穴のようで……


「ベルクートォォォォ!」

彼の名を呼ぶ、彼の声は帰ってこない。

手元の石が崩れて崖に落ちていく。

反響音が永遠に響いているようだ。


カチャリと手に触れるモノがあった。

彼の槍がそこに転がっていた。

「ベルクート……うそ……でしょ……」


「いやぁぁぁぁぁぁぁ」

ベルクート、いや、なんで、ベルクート、どうして……

自分の叫びなのか誰の叫びかもよくわからない。

涙があふれて止まらない。


セレナがこちらに何かを叫んでいる。

腕をつかまれ必死に引っ張られる。

体が重い、手も、足も、すべてが泥の中にあるようだ。


見ればワイバーンが煙を上げながら動いている。

生きていたのか……反撃を……でもベルクートは……

ワイバーンに向けて手をかざすが、魔力が回らない。魔法が出ない。

私は……


ワイバーンの牙が私達に届こうとしたその瞬間、

紫電が瞬き、轟音が響き、衝撃が伝わる。

ワイバーンは目の前で横たわり、煙のように消え魔石だけが残される……


「大丈夫か!?」

紫電を纏う人が、叫んでいた。


「俺は、雷帝リョウだ!こいつを追ってきたんだ、炎が見えて、怪我はないか?」


私は大丈夫、でも彼が……


「そうだ……ベルクートに……いかなきゃ……」


穴へ向かう。と二人に止められる。

「おい君!」

「レティセラさん!止まって」


「離して、私は、彼を!」


動けない、離して。行かなきゃ……

目の前の穴は深く、暗い。

私の心を映す鏡のように。

世界のすべてが黒色に沈む、音も遠くなり、誰も、何も届かない――




柔らかい光が目に入る。

テレビの音が聞こえ、スプーン片手にオムライスを頬張る彼がいる。

ほほにケチャップがついていると言えば、

慌てた様子でふき取る彼。


これは夢?

笑顔のあふれるいつもの夕食。


いつもの日常。

大丈夫、目が覚めれば、きっといつもの……




「……で、だから……」

誰かの話す声が聞こえる。


「雷帝殿、此度のワイバーンの群れ討伐への尽力感謝いたします」

「でも一匹逃がしちゃって娘さんを危険に……すみません」


何か夢を見ていたような。


「いえ、娘も無事戻りました、感謝しています」

「おれ、もっと強くなりますから!俺の役目なんで!もう誰も泣かせません」

視界の端でレオンハルトと金髪の青年が見える。

金髪の青年と目があった気がした。


「雷帝様!出発のお時間です!」

「わかりました。えっと……あの、元気出して下さい!」

金髪の青年はこちらにお辞儀をすると、迎えに来た兵士とともに部屋を後にした。


頭がまだぼんやりとしている。

ここは、見覚えがある。

オパール家の応接間……


「レティセラさん、大丈夫ですか?」

「セレ……」

セレナが私の手を握ってくれていたらしい。

うまく声が出ない


「お父様、レティセラさんが気付かれました」

セレナの声を聴いてレオンハルトがやってくる。


「おぉ……レティセラ殿、大丈夫かね」

「……?」

私は大丈夫だ、問題ない。


なんの問題もないんだ……私自身は……


でも、いつも隣にあるはずの、声が、視線が、ぬくもりが、ない。

隣だけじゃない、私自身が空っぽに感じられる。

ベルクート……

再び目に涙が浮かぶ。


「つらい所申し訳ないが、状況を聞かせてもらえないか?彼を探すためにも」

彼を探す?


あぁ、そうだ彼の所に行かなくちゃ。

立ち上がろうとしたが、足に力が入らずふらついてしまう。

とっさに支えてくれたレオンハルト様が心配そうな顔でこちらを見ている。


「レティセラ君、君は一旦休め、ベルクート君の捜索は我々が行う。

だから何があったかを話してくれ」

「あなた。起きたばかりのレティセラさんにそんなに詰め寄ってはだめよ」

……お茶の香りがした。


顔を上げれば、お茶を持ったフィオナが部屋へと入ってきた。

「フィオナ……だが、事は一刻を争うのだ」

「だからこそよ、まずは一旦落ち着いて、それから話をしましょう」


フィオナがお茶を差し出してくる。

ふわりと優しい香りが鼻をくすぐる。

「温かいうちにどうぞ」

「あ、りが……」


口も喉も乾いて声が出しにくい。

人肌のお茶、するりと体に入り胸が少しだけ暖かくなる。


「うまいなコレ」

初めてこのお茶を飲んだ時のベルクートを思い出し、また涙がこぼれそうになる。

お茶の温かさが、視界に少しだけ色を戻してくれた。


「レティセラさん、場所はわかるかしら?」

フィオナの優しい声が聞こえる。

「場所は……この辺りです」


地図を指さす。

「ここか……ここは……」

指を指した場所をみてレオンハルトが考え込んだ様子だった。


「穴の大きさは?」

「……この応接室と……同じぐらい」


「穴は暗く、底が見えないぐらい深い?」

「えぇ、そうです……」


「なるほど、私に心当たりがある。

どうか私を信じて彼の捜索を任せてもらえないだろうか?」

「お願い……します。ベルクートをどうか……」

「あぁ、任せておきなさい」

そういうとレオンハルトはすぐに部屋を出ていった。


「あ、あの……ごめんなさい!私のせいで!」

セレナが頭を下げていた。


「セレナ?どういう事?」

フィオナさんが問う。

「私が不用意にワイバーンへ近づいたから……ベルクートさんは私を庇って……」

「セレナ、それはベルクートさんに言う言葉よ。

今はレティセラさんと一緒に彼の無事を祈って待ちましょう」


彼の無事……ベルクートは本当に無事なのか?


右手を優しく包まれる。

「綺麗な手が汚れてしまうわ」


フィオナさんが私の握られた手の指をそっとほぐす。

爪が手のひらに食い込み少し血がにじんでいた。


「不安なのは分かるわ、あの人もレオンハルトもそうだったもの。

元々冒険者だったことは知っているかしら?昔、強い魔物が街に来てね、冒険者だった彼とその仲間たちが戦ったの。

その時私は医療所を手伝っていて、足を失った彼が運ばれた時にはとても冷静でいられなかった」


フィオナさんの手が私の頭を優しくなでる。

「怪我をした彼を見た私と、今のあなたの状況は少し違うけれど、大切な人を思うあなたの辛さ、少しは理解できるつもりよ」

「……フィオナさん」

「でもね、この場で彼の無事を一番願うべきなのは、あなたよ、レティセラさん」

「私は……」

「信じているんでしょう。あなたの想い人を……」


ベルクート……


左手の指輪を見る。

彼と選んだ、絆の証。


「ベルクート……」


証を胸にしまうように抱きしめる。

彼の無事を、指輪に願う。


お願い、無事でいて。


…………


彼の名に願う。


温かい……

指輪の向こうに、彼の鼓動を、ぬくもりを感じられた気がする。


理屈なんかない。


彼はきっと生きている。


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