スパー(5)
少しづつ書いてきます。
二つ並んだベッドの大きさに驚いている僕に、シンは言葉の洪水を浴びせてくる。
シンの話は、いつも興味深くて面白いけど、今日に限ってはあまりにも早口でまくし立てるものだから、僕の理解がなかなか追いついていかない。
キョウはいま、バスルームでシャワーを浴びている。
あまりに早口でしゃべって喉が渇いたのだろう。シンが勝手に冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、とても美味しそうにこれを飲んだ。僕にも一本差し出してくれた。
いいのかな、勝手に飲んじゃって。この部屋、キョウの借りてる部屋だよね。
シンの話す内容のほとんどが、サウスポー対策と自分より背の高い相手と戦った場合の作戦だった。
いま僕が一番興味のある話だ。そう、もちろんそれはチェン対策。
シンの言うことを全部理解できた訳じゃないけど、いくつか納得できる事もあった。
僕の得意技である左ミドルと同じ位に右が蹴れるようになると、サウスポー相手も苦にならなくなること。
自分よりも背の高い相手に勝つには、絶対に動き負けちゃいけないってこと。そのためには強いスタミナが必要だってこと。
あまりよく分からない話もあった。ムエタイのコンビネーションは遠い間合いの技から近い間合いの技に連携するのが基本だ。例えばミドルキックからパンチ。例えばパンチから肘や膝。でもシンは背の高い相手には、その逆のコンビネーションも有効だと言った。
(相手が思わず下がってしまうようなプレッシャーが必要条件だけどね)
言われてみれば、今日僕がキョウに貰ったキックの多くは、どんどん前にでるキョウが鬱陶しくて、いちど距離を取りなおそうと思った瞬間に喰らった感じだった。
一気にチェンの懐に入ってパンチの連打。チェンが嫌がって下がったところを得意のミドル。それも右の。うん、イメージが沸いてくる。まるで今、チェンと戦っているようだ。
今日僕がキョウにやられて嫌だったこと。それが正にチェンが僕にやられて嫌な事かも知れない。
え~と、低く構えられるのはやり難かったし、どんどん前に出てくるのも気持ち悪かった。左右の構えを頻繁にスイッチしてくるのには戸惑ったし、それから・・・
「うん、色々考えているようだね。マオイは頭がいいから。でもマオイはマオイ、キョウはキョウだ。あまり深く考えることはない。飽くまで参考程度に考えればいい」
シンはそう言うけど、僕はチェンとの再戦のことを想像すると、どうにも落ち着かない。
悔しくて恰好悪くて、自分のことが嫌になって。あの時の気持ちを思い出すと、今でも血が顔に上ってくる。でも、次はそうはいかない。
一気に前に出て、長いチェンのリーチを掻い潜る。そして顔面にパンチの連打。
嫌がって後ろに下がるチェンの体を、僕の右ミドルが追う。ロープ際まで吹っ飛ばす。チェンの顔に怯えが見える。ここぞと攻め込む僕。いいぞ。
「さあ、腹も膨れたし、今日は疲れただろう。キョウの後に俺達も熱いシャワーを浴びて、デカいベッドで休むとしよう」
そう言ってシンは一気にペットボトルの水を飲み干した。




