22、決着! 炎の四天王、閃光に散る!
闇を纏ったユミルの眼光は鋭く、敵であるピアノヴァを射抜いていた。
一体ユミルに何が起こったのか、誰にもわからなかった。
ユミルは無表情のまま、エターナルを振るった。
衝撃波がピアノヴァを襲い、次の瞬間には、ピアノヴァの右半身が消し飛んでいた。
「ガ、ガアアアアアア!!」
ピアノヴァが叫ぶ。
ピアノヴァは闇の力を纏い、ユミルに迫る。
……が、ユミルはピアノヴァが近づく前に、エターナルを振るい、ピアノヴァを切り裂いていく。
ピアノヴァは闇の力でこれまで以上の速度で再生するが、ユミルの闇の力は、その速度の更に上をいっていた。
闇の力を得たというのに、ピアノヴァはユミルに一切敵わない。
無言のまま、ユミルはエターナルの力を解放する。
金と黒の光が、エターナルから放たれる。
「死ね」
ユミルはそう呟くと、エターナルを振りかぶる。
誰もがピアノヴァの最後を予想した。
その時。
「ま……て……」
ユミル口が勝手に動き、ユミルの動きが止まる。
ユミルの意識の中……暗い闇の中で、俺は元の姿、乙女塚 涼の姿で立っていた。
するとその闇の中に、金と黒が混じったユミルが現れる。
「お前は、誰だ?」
「私はユミルよ」
目の前のユミルは、自分がユミルだと答える。
「確かに、姿はユミルみたいだが、その黒いのはなんだ?」
「これは私が与えられた力。私が存在する為の力。私が私でいる為の力」
そう言って、ユミルは自身に纏った闇の力を愛しそうに見つめる。
わけがわからない。
「どういう事か説明しろ」
「私はユミル。とはいっても、今までのユミルではない、もう一人のユミルよ」
「もう一人のユミル?」
「あなたにわかりやすく言うなら、闇のユミル、といった所かしら?」
すると隣に、もう一人の、いつものユミルが現れる。目を閉じていて、話す様子は無い。
「これは光のユミル、今まであなたと同化していたユミルよ。そして私はまた別の、もう一人の闇のユミル」
おいおい、もう一人の僕とか闇の人格とか、色々痛すぎるだろ俺! どうしてこうなった!
思い浮かぶのはあの黒髪の女性。あれは一体、誰なんだ?
「別に、深く考えなくてもいいの。あの男を倒したら、私はまた消えるから。それまでは光のユミルと一緒に、大人しくしててね」
闇のユミルが笑う。あの男……炎の四天王、ピアノヴァ、だっけか?
「どうしてお前が、そんな事をする? お前の目的はなんだ?」
「いくら敵だとは言っても、あの男はあなた達と同じ転生者でしょ? 魔物を倒すのとは違う。人を殺すのよ? あなたには荷が重い。だから、私が代わりにやってあげるの」
人を殺す。しかも相手は自分と同じ世界にいた、転生者。その言葉に思う事がないわけではない。
……だが。
「必要ない。俺はみんなを守る為なら、人を殺す事も躊躇しないって誓ったんだ。自分自身にな」
「知ってるよ、私はあなた、あなたは私だから。でもね、それでもあなたがやる必要は無い。それに、相手は闇の力を使っている。だから私も、闇の力で相手を倒す。私がやるべきなのよ」
闇の力、あいつそんな力を使っていたのか。
「どうして急にやつは闇の力を?」
「彼らをこの世界に呼んだ、暗黒神が力を貸したの」
「暗黒神? なんだそりゃ? じゃあお前のその闇の力は?」
「それは教えてあげられないの。あの人との約束だから」
「あの人って、あの黒髪の女性か?」
「それに答える気はないわ。あなたは終わるまでそこで待っていて」
そうして闇のユミルは後ろを向く。これ以上話す事は無いと言わんばかりに。
「断る! さっきも言った様に、俺は俺の意思で戦うと決めたんだ。もしお前が、本当にユミルだっていうなら」
「いうなら、何?」
「一緒にやるぞ、今までと同じ様に。俺はユミルで、ユミルは俺で、お前がユミルならお前も俺だ!」
闇のユミルがこちらを振り向く。
「言ってる事、めちゃくちゃだよ?」
「お前は俺なんだろう? だったら、俺の言いたい事、伝わってるよな?」
「……そうだね。でもね、残念だけどそれは聞いてあげない」
「な、なんでだよ!」
闇のユミルは、ゆっくりと笑う。
「私は、闇のユミルだから」
現実に戻る。
エターナルブレイカーは解除されていた。
だが、闇のユミルはそのままエターナルを振るい、ピアノヴァを切り裂いていく。
闇のユミルは戦いを楽しんでいた。
相手がただやられていく光景を楽しんでいた。
最強の力。
自分は強い、誰よりも強い。
その事に、酔いしれていた。
自分だけが最強の力を持っている。
自分だけが最強の剣を持っている。
選ばれし、最強の存在なのだ。
それが闇のユミル。
涼でもない、ユミルでもない、3つ目の人格、闇のユミルだった。
「ユミル!」
「ユミルさん!」
「ユミル殿!」
「ユミル!」
デュノス、ロミリア、ランラン、クリーナがユミルの異変を察知し、駆け出す。
だが、その行動も、振るわれた闇のエターナルの力に阻まれる。
デュノス達の前に、エターナルの衝撃が横殴りに放たれ、デュノス達は足を止める。
「近づかないで。あなた達に危害は加えないわ。少なくとも、今は」
「何を、言っているのでござる!」
「その力はなんだ? お前に何が起こった?」
ランランとデュノスが問いただすも、闇のユミルは答えない。
闇のユミルは再びエターナルを振るうと、ピアノヴァを追い詰める作業に戻った。
「話を聞いて! ユミル!」
クリーナが叫ぶが、答えない。
「こっちを向いてください! ユミルさん!」
ロミリアが叫ぶが、答えない。
「いつものユミル殿に戻って欲しいでござる!」
ランランが叫ぶが、答えない。
声が届かない。今までこんな事はなかった。ユミルはいつも、答えてくれた。どんな時にでも。
なのに、今のユミルには声が届かない。どうすればいいのか、わからない。
今のユミルはいつものユミルではない。相手を切り刻み、それを楽しんでいる。怒っているわけでもない、ただ相手を追い詰める事を楽しんでいるのだ。
ユミルに何が起こったのか、わからない。
聞きたい、ユミルに何が起こっているのか、どうしてこんな事をするのか。
しかし声は届かない。自分達の愛しい人に異変が起こっているのに、何も出来ない。
ロミリアに、ランランに、クリーナに、わずかに涙が浮か……
「いい加減にしなさい! ユミル!!!」
デュノスが叫ぶ。
すると、闇のユミルの動きが止まった。
ロミリア達も、デュノスを見る。
「あなたねえ! 一体何をしてるのよ! みんなの声に答えるのがユミルでしょう? 明るく能天気なのがユミルでしょう? なのに今のあなたは、何よ! 中二病みたいに闇なんか纏って! 恥ずかしくないの!」
デュノスが一気に叫ぶ。そのいつもと違う言葉づかいに、誰もが驚き、動けずにいた。
「それともなに? もしかして闇の力に取り込まれたとかそういう感じなの? 情けなくないの? そんな力に取り込まれて! ていうか今までそういう伏線とかもなかったのに何よいきなり! こっちは突然の展開についていけないわよ! いいから説明しなさいよ! 説明して、いつものユミルに戻りなさいよ!」
皆がデュノスを見つめる。
闇のユミルも、デュノスを見つめていた。
そしてデュノスは気づく。デュノスではなく、本来の自分で叫んでしまった事に。
「あ! い、今のはその……」
デュノスが目をそらし……再び闇のユミルに向き合う。
「と、とにかくだ! お前はそんな闇の力に負けるほど、弱くないだろう! いいからさっさと元に戻れ!」
今度はいつものデュノスだった。……いや、若干怪しいが。
そんなデュノスを見て、闇のユミルが笑った。
そしてユミルは、光に包まれる。
暗い闇の中、闇のユミルは笑っていた。
おかしかった。デュノスがあんなに取り乱すのを初めて見た。
みんなの声も届いていた。
だから、私は……俺は……私は……応えないといけない。
ユミルとして。
闇の中で最後に見たのは、楽しそうな黒髪の女性の姿だった。
光が治まると、いつものユミルが立っていた。
「ごめんね、みんな……みんなの声、届いていたのに、応えてあげられなくって。でも、もう大丈夫」
そう言って、俺は周囲に笑いかける。
気づくと俺の中の、闇のユミルはいなくなっていた。
「さて、色々話したい事があるんだけど」
俺はすでにボロボロになった、ピアノヴァを見る。
「まずはこいつを倒してからね」
俺はピアノヴァに向き合い、エターナルを構える。
「ごめんねピアノヴァ。私はあなたを倒す。私達が生き残る為に!」
俺はエターナルの力を解放する。
「恨むんなら、魔王側についた自分を恨んでね。 エターナル! 全力解放!」
エターナルが輝きを放つ。
今度は闇は無く、純粋な黄金の輝きだった。
「ア、アアアアアアアアア!!」
ピアノヴァが叫ぶ。
俺は闇に包まれたピアノヴァを見つめ、エターナルを振りかぶる。
「エターナル・ブレイカーああああああ!!」
黄金の輝きが、ピアノヴァを包み込む。
今度こそピアノヴァは、闇と共に、閃光の中に消えていった。
初めての四天王、炎の闘士、ピアノヴァとの戦いが、終わった。
純粋な、金色に輝くトリプルテールが、同じ転生者の最期を悼む様になびいていた。




