表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

第9話 一層奥

 翌朝、センターへ向かった。


 出入り口をくぐると、鈴音がいた。こちらを見て、少し目を細めた。


「また来た」


「はい」


 鈴音は短く息をついた。宍戸のことは聞かなかった。こちらも言わなかった。


---


「二層に行きます」


 受付を済ませながら言った。


「駄目」


 鈴音は即答した。


「なんで」


「一層もまともに歩き切ってない人間が、二層に行くのは早すぎる」


「でも一層のゴブリンは——」


「一層を、まだ抜けてないでしょ」


 鈴音は受付の端末を操作して、一層の簡易地図を表示した。


 見慣れた通路と分岐路が画面に出た。そこに薄く色がついている。


「これ、あなたが歩いた範囲」


 思ったより狭かった。


 入口付近と、いくつかの分岐路。一層全体から見ると、端の方だけだった。


「奥にはまだルートがある。奥の方が敵の密度も上がる。二層に行きたいなら、まずここを歩き切ってから」


 言い返せなかった。


 二層へ行きたかった。


 でも、一層の奥にまだ踏んでいない場所があるなら、そこを飛ばして二層へ行く理由がないことも分かる。


「奥って、ゴブリンスカウトが出るんですよね」


「出る。記録上は」


「通常ゴブリンの少し速いだけのやつ、ですよね」


「そう思ってるなら、なおさら行った方がいい」


 鈴音は端末の表示を閉じた。


「知ってることと、戦えることは別だから」


 少し面倒だった。


 でも、二層に行くために必要なら仕方ない。


「……分かりました」


 鈴音はそれだけ聞いて、通路の方へ歩いた。


---


 一層奥は、これまで歩いた場所とは空気が違った。


 通路が細い。壁と壁の間が狭い。発光石の間隔も広く、影が多かった。


 しばらく進むと、ゴブリンが来た。


 いつもと同じだった。踏み込んで、短剣を押し込んだ。


 黒い煙。石。


 続けて一体。また一体。どれも同じだった。


 そう思ったとき、前方の通路で何かが動いた。


 ゴブリンだった。ただし、いつものとは違った。


 体格は小柄で、通常のゴブリンより細い。短刀を片手に持ち、通路の壁際に張り付くように立っている。


 名前は知っていた。


 ゴブリンスカウト。


 通常ゴブリンより少し速いだけのやつ。


 そう思っていた。


 目が合った。


 正面から来なかった。


 壁を使って横へ走った。速い。しかも足音が軽い。気づいたとき、もう視界の端にいた。


 腕を庇った。


 短刀が腕の外側を裂いた。革鎧の袖が切れた。


 振り向いたとき、もう向こう側にいた。


「追わないで。追ったら回り込まれる」


 鈴音の声が飛んできた。


「止まって、来る方向を見なさい」


 止まった。


 ゴブリンがまた動く。今度は反対側の壁へ回った。


 速い。


 でも、見えないわけじゃない。


 足の向きを見ていた。次に曲がる直前、踵が外へ向く。


 口の端が上がった。


「いいな」


 後ろで鈴音が、また何か言った。聞こえなかった。


---


 そのまま二度、腕と脇腹を浅く裂かれた。


 でも、足の向きは分かるようになってきた。


 次の突進で、少しだけ先に動いた。半歩だけ。短剣の刃が引っかかった。深くは入らなかった。でも止まった。


 もう一度。


 今度は深く。


 黒い煙。石。


 呼吸が荒い。腕と脇腹が熱い。


 後ろで鈴音が近づいてきた。腕を見て、少し顔をしかめた。


「センターに戻る」


「もう少し——」


「戻る」


 有無を言わせない声だった。


---


 受付で処置を受けながら、登録証を見た。


 宮前 蓮 LV:2 スキル:なし


 討伐履歴の末尾に、新しい行が増えていた。


 ゴブリンスカウト。


 名前は知っていた。


 でも、登録証に載ったその名前は、昨日まで見ていた攻略情報の文字とは違って見えた。


 速かった。横から来た。最初は全然見えなかった。でも最後には、次の動きが分かった。


 霧島迅まで、まだ遠い。


 でも、一層にもまだ、ちゃんと越えるものがあった。


 それだけで、今日は十分だった。


 鈴音は隣で、処置を受ける僕を見ていた。


「……勝ったからいい、って顔してる」


 言われて、顔を上げた。


「違うんですか」


「違う」


 鈴音の声は、静かだった。


 怒っているというより、何かを抑えている声だった。


「その話は、明日する」


 それだけ言って、鈴音は視線を外した。


 僕はもう一度、登録証を見た。


 ゴブリンスカウト。


 新しい名前が、そこにあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ