第8話 事故として処理された
センターに着いて、受付へ向かおうとしたとき、職員の会話が聞こえた。
「宍戸さん、事故処理になったらしい」
「Dランクでしょ。規定外探索だって」
「遺体、まだ出てないらしいよ」
足が止まった。
宍戸。
受付の横に、簡易掲示の端末があった。最近の死亡事故の注意喚起が表示されている。近づいて見た。
宍戸 剛
Dランク冒険者
状態:死亡
死亡区分:ダンジョン内事故
備考:規定外探索の疑いあり
詳細:非公開
読み返した。
もう一度、読み返した。
字は変わらなかった。
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声がした。
「知ってたの」
振り向くと、鈴音がいた。いつもより早く来ていたらしかった。
「……少し」
「どういう関係」
「知り合いです。少し前に話した人」
鈴音は少し黙った。端末と蓮を交互に見て、何かを考えている顔だった。
「いつ話したの」
「四日前」
また黙った。
四日前に話していた人間が、今日の端末に名前が出ている。鈴音にはその意味が分かるらしかった。
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もう一度、端末を見た。
ダンジョン内事故。規定外探索の疑いあり。詳細非公開。
宍戸は四日前、「陽の周辺を嗅ぎ回る人間を、誰かが好まない可能性はある」と言っていた。
その数日後に、事故になった。
拳を握った。
「行きます」
声が出ていた。
「どこへ」
答えようとして、止まった。
言えない。鈴音は霧島迅のことを知らない。名前を出せば、鈴音まで何かに巻き込むかもしれない。宍戸が四日で消えた。それだけの話だ。
「……いえ。何でもないです」
鈴音は少し眉を動かした。信じていない顔だった。
「どこへ行くつもりだったの」
「大丈夫です」
「大丈夫かどうか聞いてない」
鈴音はそれ以上追わなかった。ただ、黙ってこちらを見ていた。
少し間があった。
「……すみません。今日は一人にさせてください」
鈴音は何か言いたそうな顔をしたが、黙った。それから短く「分かった」と言って、センターの奥へ歩いていった。
ロビーの椅子に座った。
登録証を取り出した。
宮前 蓮 LV:2 スキル:なし
弱い。
怒っていても、何もできない。
宍戸は四日前に言っていた。今のお前じゃ、霧島に会うことすらできない、と。そして今日、宍戸は事故になった。
弱いから、何も止められない。
弱いから、何も変えられない。
弱いから、また誰かが消えても、ここに座っているしかない。
しばらくして、立ち上がった。
出入り口をくぐった。
いつもと同じ空気だった。湿気。土の匂い。発光石の薄明かり。
ゴブリンが来た。
踏み込めなかった。
体は動いた。短剣も抜いた。でも、どこかが噛み合っていなかった。
ゴブリンの動きは見えている。なのに、次に踏み込む間合いが分からなかった。
一体倒した。時間がかかった。
もう一体来た。
途中で、引き返した。
理由はうまく言葉にできなかった。怖かったわけじゃない。ただ、今日はここまでだと思った。
出入り口を出た。
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帰り道、電車の中で窓の外を見た。
陽が死んだとき、理由が分からなかった。
輪郭のない怒りだけが残って、どこへも向けられなかった。
今も同じだった。
でも今回は、少しだけ違った。
宍戸が消される前に、名前を一つ渡してくれた。
霧島迅。
その名前が残っている限り、宍戸が伝えたことは消えていない。
だから強くなる。
霧島に会えるところまで、上がる。




