第7話 五家の少女とスキルなし
翌朝、センターへ向かった。
出入り口をくぐると、昨日の女がいた。こちらを見て、少し目を細めた。
「また来たの」
「はい。そちらも?」
女は少し間を置いてから「そう」とだけ言った。
なんとなく並んで通路へ入った。一緒に入ろうと決めたわけでもなかった。ただ、どちらも引き返さなかった。
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一層の通路に入ると、空気がいつも通りに変わった。湿気。土の匂い。発光石の薄明かり。
しばらく歩いて分岐路の手前まで来たとき、暗がりからゴブリンが一体出てきた。
前に出ようとした。
女が先に手を上げた。
「凍れ」
床に白い筋が走った。ゴブリンの足が滑った。体勢が崩れた。
「裂け」
何かが通った。煙が上がって、石だけが残った。
止まっていた。
あまりにも簡単に見えた。
でも、たぶん簡単なのは、この女にとってこの距離とこの相手がそうだっただけだ。
すごい、と思った。次に、悔しかった。
同じ敵を、僕はあんなふうには倒せない。
剣で、あそこまで届きたい。
女がこちらを見ていた。何か言いたそうな顔をしていたが、黙っていた。
先に進んだ。
次のゴブリンが来た。
女の方を見た。女は手を上げなかった。視線だけでこちらへ向けた。やってみろ、という顔だった。
踏み込んだ。ゴブリンの短刀が振り上がる前に、間合いを詰めて短剣を押し込んだ。
黒い煙。石。
後ろで女が何か言いたそうな気配がしたが、何も言わなかった。
その次は二体いた。一体目を先に潰して、二体目は壁際に追い込んで仕留めた。
鈴音は後ろにいた。魔法を撃たなかった。ただ見ていた。
四体目の煙が消えたところで、女が「戻るよ」と言った。
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出入り口まで戻ったところで、女が口を開いた。
「名前、聞いてなかった」
「宮前蓮です」
「御堂鈴音」
聞き覚えがなかった。
鈴音の方が少し意外そうな顔をした。
「御堂家、知らない?」
「すみません」
「……いい。珍しいだけ」
鈴音は壁にもたれて腕を組んだ。
「昨日のこと、聞いていい」
「何ですか」
「斬られながら笑ってた。あれは何」
少し考えた。
「分からないです。気づいたら笑ってた」
「怖くないの」
「怖い、とは違う気がします」
「じゃあ何」
「勝てるかどうか分からない相手だと、なぜか笑ってしまうんだと思います」
鈴音は黙った。
しばらく間があった。
「止められないの?」
「止め方が分からないです」
また黙った。今度は少し長かった。
怖がっているわけでも強がっているわけでもない、と顔に書いてあった。それが余計に判断しにくいらしかった。
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出入り口を出た。
「明日も来るの」
「来ます」
鈴音は少し困ったような顔をした。何か言いかけて、やめた。
「じゃあ、また」
それだけ言って、去っていった。
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帰り道、電車の中で登録証を見た。
宮前 蓮 LV:2 スキル:なし
御堂鈴音。
名前には聞き覚えがなかった。でも、あの魔法には圧倒された。床を凍らせて、次の瞬間には終わっていた。
同じ敵を、僕はまだあんなふうには倒せない。
剣で、あそこまで届きたい。
窓の外が暗くなっていた。




