茶番のパペットは光り輝く
気がついたら好きになっていた。
そんなことで始まる恋は味気ないに決まっている。だが、事実そうなのだから仕方がない。
辻はいつも昭穂のそばにやってくる慧の姿を目で追っていた。利発的な顔をしているのにかわいげがあって、抜けているところがあって、それでいていい匂いがする。いつも辻はそんな些細なことから恋が始まり、そして些細なことから恋が終わっていた。だから今回も受け流すつもりだった。
今年に入ってからの約3ヶ月、彼女からかけられた言葉は数える程度だった。挨拶とそれから軽口。でもあの一件で、どこか同じ輪の縁くらいには立てている自分がいると思えるようになっていた。
だが、彼女の方は昭穂にずいぶん親しげで、花が咲くような笑顔は恋をした相手にだけ見せるもののように見えた。だから昭穂に鎌をかけた。あいつが彼女を好きかどうかなんて関係ない。問題は彼女が好きかどうかだ。だから他にも明確な好意を示す行動があったのかを聞いてみた。
結果は、あたりだった。あいつは彼女から好きだというメッセージを受け取っていない。もしかしたら昭穂が疎いだけかもしれないが、それならそれで時間がかかる。その間に惚れさせるまでだ。
だから、なにか近づくことのできる代物がないか、血眼になって校内を駆け回っていた。そして見つけたのがあのノートだ。図書館の返却箱に無造作に放り込まれていたのを勝手に持ってきたそんな大層な手土産を持ってきたにもかかわらず、なぜ隣にいるのがこの老いぼれなのか、現実とは難しいものである。
「あんた、勝ち目ないぞ」
「分からねえだろ、やってみないことには」
「いや、俺も長いことこの学校に勤めとるが高校生の恋愛なんて如何に楽しいか、如何に長時間隣にいるかで決まるもんだ。現にお前の隣にいるのは俺だ。その時点で勝負あり、可能性って奴にいつまでの期待して気持ちのいい夢を見るのは勝手やが、お前が生きとるのは現実やからな。とっとと別の子を見つけたほうが有意義なもんやと思うぞ」
「好きな子をほって別の子にアプローチするなんて、恋が先行した恋愛じゃねえかよ。俺はな、あの子がいいんだよ、理由も特にはねえけど、そっちの方が運命って感じがするだろ」
ジジイは苦笑いでお茶を啜る。なんでこんな生き遅れの流木みたいな老人に恋路の相談をしているのだ。辻はなんだか悲しくなって、そしてそんな惨めな自分の姿を想像してため息をつく。
熟考していますという態度のジジイはロダンの彫刻そのもので、眉間に寄った皺が聡明な哲学者の雰囲気を醸し出す。
「だったら、お前が作ればいいんじゃないか、都市伝説を」
「作るって、一から?」
「バカ、あやかるんだよ。今この学校に広まっているカラクリ通路は名ばかりが知れ渡ってその中身は空っぽだ。だからお前がつくれ。簡単なものでいいんだ、例えば通路のたどった道がなにかを表していたりだとか、単純なほどいい。いってしまえばお前等が楽しめる舞台を作って、そこでお前が活躍すればいい。かっこいい姿を見せてやればいい。」
「茶番ですか」
「努力だ。あの娘に気づかれたっていい、踊らされる喜びもあるもんだ」
確かにいい案である。こんな長いだけの通路に何もない方がおかしい。辻の頭は早くもどんな物語を作り上げるのかでいっぱいになっていた。
フィナーレだけは決まっていた。彼女が一番可愛く写るその光景が彼にだけは見えていた。




