思わぬ出会い
通されたのは薄汚い部屋だった。犬小屋もどきには鍵があり、先ほどはロッカーに隠れて見つけられなかったもう一つの扉があった。そしてその先がこの部屋なのだが、こんなところで生活していては肺にカビが生えてしまいそうなほどジメジメとしていて、噎せ返る湿度と温度である。満員の弱冷車を乗車率200%まで煮詰めたみたいな感じだ。んでもってそこで熱いお茶を出されるものだからたまったものではない。
「粗茶だ」
「ですね」
散らかった机にわずかなスペースを見つけ、老人は湯飲みを置く。よくこんな場所で生活できるものである。プレハブの小屋に、簡易的な机とパイプ椅子。
辻は冷めるのを待つよりも早くここから抜け出したかったのでいっきにそれを飲み干した。そして開口一番に本題をぶつけた。
「じいさん、ここは闇新聞の奴らの通路なのか」
老人は愉快に笑った。
「そうだが特に重要な書類はないよ。ここは闇新聞の創設者が見つけた旧水路だ。校舎の改修工事の時も手をつけられなかったらしいが、特にカラクリなんてものはないよ」
「じゃあ、あの噂は」
「流していたのは誰だった?」
「それは…」
確か教師の誰かがカラクリ通路についてのエピソードを語っているそうだが辻はそれが誰かは知らなかった。
「まあ、いたとしても全部嘘だよ。俺はここで長いこと働いとるけど、そんな出来事があったなんて耳にしたことがねえ。いつからか急にその話題が出始めたんだ。根も葉もねえ噂ってのは時間が立つにつれて信憑性が向上していくもんだ。なんせ情報の発信源が分からなくなるんだからな。胡散臭い奴がいっていた適当な嘘も、事実に近づくことができるもんさ。オリーブの連中はここを見つけただけ。カラクリなんてものは初めからない」
つまらないものだ。ただこれが真実だろう。辻はすぐに納得出来た。自分がこんな面白いイベントに鉢合わせる事ができるわけがない。今までの平坦な人生において分かりきっていたその事実にまた直面する。
「なあ、そんなことで俺はお前を呼んだわけじゃねえんだよ」
彼は辻の空いた湯飲みに新しく茶を注ぐ。
「あんちゃん、恋してるね。あの小娘に」
辻は失笑した。なにを言い出すかと思ったら何とも下世話なジジイだ。思春期の生徒になんてことを言い出す。
「じいさん、あんた嗅覚がいいね」




