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現れたのはただの用具室であった。それもかなり狭い。通路を抜けた先は木々に覆われており、見た目は隠れ家的な感じではあったものの、特別なものは何もなかった。通路は時々トンネルのようになっていて、その度に屈んで膝と腰を痛めながら来たというのに肩透かしを食らった気分であった。
「まさかここが例の書庫じゃないよね。田舎の交番みたいな狭さしているけど」
「そうか?俺の部屋もこんなもんだけど」
「昭穂くんは人権を侵されているみたいです」
「だな。昭穂は人権を侵されている」
辻は半笑いで周囲を見渡す。散乱した工具、人1人が入るともういっぱいだ。これでは犬小屋同然である。
「まあ、噂には背びれ尾ひれがつくものだが、これはあんまりだな。それとも、あれはカラクリ通路じゃないっていうのか?」
昭穂は散らかった地面を足で払い、何か他に気になる物がないかを探る。その音に紛れて一つの掠れた音に気づくことができたのは辻だけであった。
あれはカラクリ通路だ
辻は背筋に氷水が伝ったみたいな感覚をうけた。学校という場にはそぐわないような、そんな冷たい声。静かなのに、届く声。振り返る。その草木に隠れて何者かがこちらを見ている気がした。だが、そんなことはなかった。
「おい、辻。何かあったのか」
「いや、空耳だったみたいだ」
「てことは何か聞こえたんだな」
「まあ。虫の羽音かもしれん」
とっさに嘘をつく。辻には確信があった。あれは人の声だった。しかしそれを共有してしまってはならなかった。理由は簡単。彼にとってそれが一番の利益になると確信しているからだ。辻海斗はそうやって全ての当たりくじをいつも引いてきた。百発百中。人生における選択を誤ったことがなかった。直感と言う言葉は非科学的すぎるが、確率も科学も超越した何かがそこにあることは間違いなかった。
「とりあえず、あたりを散策しようぜ。何か見つかるかもしれないしな」
そういって昭穂と慧を散会させた。木々に2人の姿が飲まれていったのを確認するとやっと一息つくことができた。
「ずっと、後をつけていたんですね」
辻は先ほど通った通路をのぞき込む。仏頂面の男爵がゆっくりと姿を現す。
「お前、気持ち悪いな」
開口一番にそれかよ
顔を出したのはとんでもねえジジイだった。




