人ならざる木
なぞなぞみたいだ。辻がなぜそれを自分に渡したのかは分からないが、解けということだろう。ちょうど現国で暇だから問題ない。昭穂は何度もその一文に目を通し、考える。こういった類いのものは基本知識がものをいうが、これもそうだろう。なんせ情報量が少なすぎる。
植える。
私を植える。
この人物は植物。
もしこれが植物の名前がついた人物が、身内に送ったものとすればもう解決は困難だ。ただそうでないとすれば…
「なーるほど」
意外にもあっさりだ。三十分、謎解きが苦手な昭穂にとっては健闘だ。
その名前に昭穂は少しだけ眉を顰めた。昭穂にこれを渡した意味、それがこの答えに関係あるとすれば、辻は少し面倒なことに片足を突っ込んでいるかもしれない。
「分かったか、昭穂」
授業終わりに辻は満面の笑みで振り返る。
「ああ、答えはオリーブの木だ。多分だけどあってるはず」
「おお、どうしてだ」
「オリーブは染色体が人間と同じ四十六本。ただそれだけだ」
これで違うのならばもう知らない。そもそも問題が悪いだろ。
「いや、いいんじゃないか」
「なあ、これはなんのなぞなぞなんだ。ただ適当にネットで見つけた問題を出したわけじゃないだろ」
辻はその言葉を待っていたかのように指を鳴らし、一冊のノートを机から取り出す。
「実はな、これの間に挟まっていたんだよ。闇新聞の取材メモ!しかもNo.1」
まさかだった。それは昭穂たちが探し求めていた過去の取材メモだった。
「つい最近さ、図書館の受付やってるお姉様方に頼まれて返却ボックスの本を書架に戻す手伝いをしていたんだ。そしたらこいつが紛れ込んでいてかっぱらってきたわけ。お前こういうの好きだろうし、情報戦のこの学校において、こういうのはテストの点数よりも欲しいだろ」
昭穂は吸い込む空気に希望の光の温度を感じた。砂浜に指で書いたようなか細い線みたいに示された道筋。ただ昭穂にはそこからの大逆転劇が見えていた。諦めなければ報われるという言葉がついに現実のものとして彼の手元で意味を持った。
そこに黛清司郎の死の真相は書かれていなかったか?
そう口にしそうになったが、あり得ない話しだ。
「辻、そいつはここでは値千金の大物だぞ」
「そう、こんな紙切れにとんでもないことが書かれている。オリーブだよな、闇新聞の組織の名前は。証明する判も裏表紙に押されているよ。きっと偽物が横行したんだろうな」
そんなものがどうして図書館の返却ボックスにあったんだ。あの時に探し回ったではないか。オリーブすらも傘下に取り入れ、そして闇新聞の発行権限すら手に入れた。それでも取材メモなんてものはどこにもなかった。
慧はこのことをどう考える。
「それよりも、慧に話していいか。このこと」
「むしろそうしてくれ。俺は慧ちゃんが喜ぶ顔が見たいんだ」
全くもって理解できない。あれだけ露骨にやって見せたのに。
有坂慧は今日も不満ではち切れそうだった。ここ最近のパフォーマンスは好調なのに、全く事態が好転する気配がない。
「よう、相変わらず空が好きだな」
こちらの燻る気持ちもこれっぽちも掬い取れないのだろうか。昭穂と、それから野球部だっけ?の辻がにこやかに机に近づいてくる。
「空なんか好きじゃないよ。せっかく、数学の小テストで満点の確信持てたのに、いつもは相互採点のところ。今日に限って自己採点だったんですよ。これって褒められ機会の喪失だよね」
「そうだな、ここに褒め上手な男の子がいるが、一つ褒められとくか?」
「結構。結局二問ミスだったんで」
「なんだそれ」
それより、と慧の不満をそのままに、昭穂と辻はにまにまと笑みをう変えて一冊のノートを突き出す。酷く汚れた、年期入りのノートだ。タイトルにはNO.1とだけ書かれている。
「これ、なに?」
「オリーブの取材メモ。原本だぞ」
まさかである。思いがけず昭穂の目を見る。彼も同じことを考えている。その証拠に瞳には久しぶりに光がともっている。眼力で、言葉で伝えるべき全ての事象を伝えた気になっている彼は、その詳細な説明を全て辻に任せて終始満足げに壁掛け扇風機の紐をいじり倒していた。
「てことで、このノートの所有者は現状俺な訳。これが欲しいならちょっとお手伝いして欲しいんだ」
「おい、さっきまでは無償で譲り渡すみたいな空気醸し出していただろ」
「お前等の反応見ている限りそんな安いもんじゃねえって気がついたんだよ。いいだろ、そんな酷な内容じゃねえから。明かしてやるのさ、今話題の都市伝説を」
都市伝説、カラクリ通路のことだろうか?辻はそんな事よりもカラオケとかボーリングとか賭け麻雀とかが好きそうな顔をしているのに、以外と気になるものなのだろうか。
「実はさっき昭穂に解いてもらったなぞなぞの答えのオリーブなんだがな、うちの学校にオリーブの木が植わっているのは複数箇所ある。その中の一つの付近に通路の入口があったんだ。コンクリ固めの用水路みたいなのが通っていただろ?あれが今は使われていなくて、学内の地図を作成していた中村派の幹部が興味本位で潜ったところ、変な通路になっていたらしい。なんとカラクリ仕掛けはなかったらしいがな」
噂の詳細はそんな具合だったのか。となれば、カラクリ通路とオリーブが何かしら関係している可能性は十分にある。もしかしたらオリーブの設立者が作った通路なのかもしれない。
これは非常に興味が湧く。最高の暇つぶしではないか。慧は自身の瞳にも昭穂と同様に光がともるのを実感した。今にも昭穂にこの喜びと、躍動する血肉の温度を伝えたかったが、彼は恥ずかしがると思うのでいつもみたいに当たり障りない本音をかすめ取って表現する。
「受けて立とう!これでもわたしは鼻が利くのよ、徳川の財宝もツチノコも、はたまた学校の都市伝説も、全て白日の下にさらしてしまおうじゃない」
「テスト近いんだからほどほどにしろよ」
そういいながらも昭穂は必ずついてくる。だから私は先走らなければ。




