トンネルの向こう
「昭穂くん、流石にそれはないでしょ」
放課後、昭穂は片手にハトを携えてやってきて。生きているハト。しかもよく食堂のテラス席でパン屑をもらっているやつ。
「洞窟とか坑道とかには有害なガスが発生するらしいからな。炭坑夫はカナリヤを連れていったという話しは有名だろ。うちにカナリヤはいないし、ハトでいくしかない」
いくしかないってなにを言っているのだろうか。慧は抱えられたハトと目が合う。ドバトかな?変に慌てることもなくおとなしいのは日頃から人間に接しているからだろうか。
「かわいそうじゃない、それって死んじゃうじゃん」
「それにあれはカナリヤだから判別できるんじゃないか?ハトってなんだかタフで鈍感そうだし。それにカラクリ通路は地下にあるわけじゃない」
「まあ、でも非常食になるかもしれん」
「置いていきなさい」
「旅路に愛玩動物がいた方がいいかもしれんし」
「ならなおさら命の危険に曝すな」
昭穂はふざけるときは、全力でふざけるのでありがたいと慧は思っている。しかしながらこれは昭穂の策略でもあり、慧のおふざけを制限するための牽制でもあった。おふざけ量保存の法則といい、慧のなかではある程度のおふざけが許されるであろう回数が定められている。それは全体の雰囲気に依存し、その絶対数が定められるのだが昭穂はこれまでの付き合いからある程度その回数が掴めていた。なので先手打ってふざけておけばその回数は少なくなる。そんなこと慧は露知らず、感心しては母親面するのである。
「お前等が想像している以上にしょぼいぞ。なんていえばいいかな、めちゃくちゃでっかいU字溝てな感じだな」
それは風情に欠ける。せめて都市伝説なら神秘的であれ。
例のオリーブの木はただ一本だけ、淋しそうに植わっていた。低木で、自信なさげ。少なくともこの木の根元になにかが埋められているとは思えないほど固い地面だ。慧は初めて訪れた場所だが、昭穂は知っているようであった。誰も周りにはいない。だだっ広い校庭の一角に過ぎないその場所に、何があるというのだ。そしてその木を右手に少し進むと、次はほんの少しだけ盛り上がった土地に一本の大きな溝が現れる。
「これのことか?」
岸壁は苔むし、蔦植物が垂れ下がる。大体の深さは1メートルいかない程度であり、横幅は慧がまたげる程度であった。田畑の用水路みたいであり、盛り上がった地面にはトンネルのように穴がくりぬかれて続いている。そのトンネルの入口にはお札やベニヤ板やらロープやら、とりあえず人を入れないための術が施されている。
「ほんとにこれが通路なの?」
「らしいけどね。もしかしたらはめられたか?」
辻は頭を掻いた。結局は噂ベースなのでこのまま解散になっても仕方ないのだが、それだと面白くない。
私はこれに賭けているとこもあるのだから。
「奥に行けば何かあるかもね。トンネルの向こうとか」
そこに行けば、本当に書庫が存在するのだろうか。黛清司郎の死の真相も、そこにあるのだろうか。




