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真白-ましろ-  作者: 格之進


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真白の帰省

真白は電車に揺られていた。


昨日の夜まで宵の明星で働いて、今日から1週間の里帰り。大きなカバンの中にはお土産にデパートで買った少し高いお菓子とトレイルランニング用のリュックとシューズが入っている。ウェアは部活で来ていたやつが実家に沢山あるから大丈夫。帰省してもしっかり練習するつもりの真白である。


定期的に連絡をしていたとはいえ、実家に帰るのは宵の明星で働くために書類にサインを貰いに行った時以来。3ヶ月ぶりくらいか。その間真白の周りの時間は目まぐるしく過ぎていき、あっという間に大学1年の前期は終わった。充実した日々だった。両親にも話すことが沢山ある。そして、宵の明星で教わった料理を振る舞ってやろうと思っている。何度も作らせてもらった野菜炒めは、マスターと灯からもお墨付きをもらった。


富士山駅まで父が車で迎えに来てくれた。母も一緒で、帰りに買い物をするらしい。


「晩御飯は何にしようか?」


母の言葉に真白は待ってましたとばかりに答える。


「今日は俺が野菜炒めを作るよ。今のバイト先のマスター直伝の」


真白の母は、息子の予想外の言葉に目をパチクリさせている。料理なんて子供の頃に手伝いで野菜の皮剥きとかをしたくらいの奴がいきなりそんな事を言ったもんだから当然の反応だ。


「分かった。じゃ今日はあんたに任せるから材料を買って帰ろう。明日は何が食べたい?」


3ヶ月前に実家に帰った際にも、母は毎日のように真白に何が食べたいか聞いてきた。宵の明星でその話をしたら灯は「定期的に実家に帰るんだよ。言ってくれたらシフトは工夫するから」と言いながら鼻を啜っていた。そして、「そんな時に"なんでもいい"なんて言ったらあたしが引っ叩くからね。ちゃんとお言葉に甘えてリクエストするんだよ」と続けた。


「うーん。コロッケ…いや、カレーが食べたいな」


ちょっと悩んで答えた真白。


「じゃあ明日はカレーで、明後日はコロッケにしよう」


リクエストを聞いた母は嬉しそうにしていた。


帰りにスーパーに寄って食料品を買って帰宅すると、妹が冷房が効いた部屋のソファーでタオルケットに包まって寝ていた。


ため息まじりに自分の部屋に行き、着替えを持って風呂へ向かった。外出して帰ってきたら、くつろぐ前にシャワーを浴びて着替えたい。一人暮らしを始めてからの習慣は実家でも変わらない。


サッパリして居間に戻ると、寝ていた妹は起きて真白の買ってきたお土産の包みをビリビリと開けていた。


「らいおんやの羊羹だ!お母さん、お兄ちゃんが凄いの買ってきたよ!」


母も好きだったらしく2人でギャーギャー騒いでいる。


「バイト先の先輩に聞いたんだ。これを嫌いな人がいたら会ってみたいって言っていた」


荷解きをしながら答えると、


「私も会ってみたい。あー、美味しー。ほら、お父さんも食べなよ」


妹は早速食べながらみんなに配っている。切り分けるタイプじゃなくて小分けのタイプにして良かったと思った。


みんなが美味しそうに食べているのを見ていると、


「これは真白が働いたお金で買ってきてくれたんだねぇ。美味しいよ。ありがとう」


と母が言った。父も"ありがとな!"と言いながら2つ目に手を伸ばしている。働いて得たお金…あぁ、そんな事考えてもいなかったけど、買ってきてよかったと思った。


登山に行った時、店のみんなでハイキングに行った時、店での日常、そして会坂との練習。この3ヶ月で撮り貯めた写真を見せた。やはり一番インパクトがあったのは会坂だった。ミーハーな日向家はみんな羨ましがった。


その後ものんびりテレビを見ながら話をしていると、あっという間に夕方。夕飯を作る時間になった。「今日は真白が作るんだって」とニヤニヤしている母。心配そうな父と妹。まぁ見てなって。ドヤ顔して台所に立ち野菜を切り始めた。


「あら、上手く切るじゃん」


横で見ていた母が意外そうに言う。灯から料理ができる男はカッコいい、包丁を使いこなせたらなおカッコいいと言われていたから、家でもたまに練習していた成果が出たらしい。


淡々と調理していく真白。フライパンも菜箸も上手く使っている。味付けも何度も練習したから分量だって体で覚えている。


「手際もいいね。こりゃ期待できそうだ」


母はそう言いながらグリルで魚を焼き始める。もう一品作るらしい。


「はい、出来た」


フライパンから大皿に移す動作も手慣れた物。ホカホカと良い匂いのする湯気が立ち昇る。その横には母が一瞬で作ったサラダが、そして人数分の鯖の塩焼きが置かれた。


真白が張り切ったせいでいつもよりもちょっと早い夕食。いただきまーすとみんな一斉に野菜炒めに手を伸ばす。


大好評だった。


3人とも美味い、美味い。と食べてくれている。この顔を見たくて頑張ってきた。真白は今、凄く満ち足りた気分だ。自分でも食べてみたが、過去最高の出来じゃないかと思うぐらい上手くいっていた。自分が本番に強いとは思わなかった。


久しぶりの家族との夕食は、真白の話をメインに賑やかなものになった。


「そういえば、あんた明日の富士登山競走を見にいくんでしょ?どうやって行くの?」


そう。このタイミングで帰省した理由の一つが富士登山競走を見るためだ。田坂との話し合いでもその話をしたらすんなり譲ってくれた。「日本最古のトレイルランニングレースかもしれない大会だからしっかり見てきなよ」と言われた。


「5号目で見るつもりだよ。だから家から走って行く」


当たり前のようにそう言った真白に家族は驚いて止めた。


「いや、いつもそれくらい走っているんだよ。水や食料も持っていけるようにリュックも用意してきたし、上まで行くわけじゃないから」


そんなもんなんだ…まぁ山慣れしてる先輩方が言うなら…と、渋々ながらも納得した。


「だから明日は5時半くらいには家を出るから、おふくろも朝起きなくていいからね」


そう言われた母は「はいはい」と笑っていた。なんか嬉しそうだ。なぜだろう。


「あんたも楽しくやってるんだね」


ポツリと呟いて洗い物をしに台所へ向かった。俺がやるからと言う真白をニコニコしながらあっちに行けと追い払った。


実家だからか、疲れていたからか、その日の寝つきは良かった。

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