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真白-ましろ-  作者: 格之進


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田坂の青春 2

メンバー発表が終わった。


田坂、東、そして3年生のエースで女子陸上部のキャプテン、県大会でアンカーを走った3年生のナンバー2、最後に名前を呼ばれたのは県大会では補欠だった2年生の計5人が内定した。


県大会を走った3年生が補欠になり、補欠だった2年生が今回はメンバーに選ばれた。オーダー発表から色々な戦略がある箱根駅伝と違ってアクシデントがない限りこのメンバーで走ることになる。


「私たちが目指すのは先行逃げ切り。ぶっちゃけ駅伝は持ちタイム以上に気持ちが勝負を決める。とにかく先手必勝なんだ。県大会でも1区の東が区間新で走って田坂に繋いで、田坂もその勢いで区間賞。それで勢いに乗ったのがでかい。でも全国で肝になるのは3区。田坂も東もちゃんと走れればトップ争いをして繋いでくるはず。3区でその流れのままトップ争いをしながら後半に繋げれば、総合入賞も見えてくると思ってる。このメンバーはここ2週間のレペティションで安定してタイム上位だっただけじゃなく、今日も純粋にTOP5。まぁ文句なしだろう。以上が選考理由だ。意義ある者は今でも後で個別にでも、帰宅してから電話でもいいから言ってくるように。私からは以上」


尾白の話が終わると静寂がメンバーを包んだ。


「はい。特にないなら体が冷える前に着替えろよ。あと補欠にまわった者も自分が走るつもりで用意しておくように。全国大会参加校では毎年何人も直前の体調不良でエントリー変更があるからな。解散」


挨拶を終えると、東が田坂のもとにやってきた。


「田坂、緊張してるの?」


オーダー発表で名前を呼ばれてから田坂の顔色が明らかに変わったのに気付いていた。


「なんか緊張してきた」


「田坂がブレーキしても取り戻してあげるって」


「いや、変なフラグ立てるのやめてよ…」


「それにね、選ばれたからにはベストを尽くさないと」


東は選ばれなかった先輩を始めとするメンバーに目をやった。3年生の当落線上にいた先輩は発表中に唇を噛み締めて嗚咽を堪えていた。解散後にはトイレに駆け込んだり、水道で何度も顔を洗ったり、部室に戻ってジャージのまま上着だけ着て足早に帰った者もいた。みんなついさっきまで自分が選ばれるためにベストを尽くしていた。でも届かなかった。彼女らの思いを選ばれたメンバーは受け止めなくてはならない。


「そうだね。弱気なこと言ってごめん」


田坂は決意を新たにした。


それから数日後の区間発表で、田坂は最長の1区、東は2区になった。メンバー発表での宣言通り、尾白は先行逃げ切りを図っている。


それから本番まではあっという間だった。幸い体調不良になったり怪我をした者はなく、エントリー通りのオーダーで当日を迎えた。


最終ミーティングで円陣を組み、全力で声を出して気合いを入れた。


スタートまで一緒にいてくれるのは、同学年の伊坂。

田坂とは中学生の頃の県大会で何度か顔を合わせていた。入部当初は田坂&伊坂で紛らわしいと尾白からよくからかわれた。


「あと15分だね。アップは十分?」


「うん。いつでも行けるよ!」


「この中で田坂が一番可愛いよ」


「なにそれ?口説いてるの?」


「可愛いは正義!2区までカメラを独り占めしてやれ!」


「バカな事いわないでよ。ありがとう。行ってくる」


田坂は防寒着を伊坂に渡してスタートラインに向かった。


スタートラインの雰囲気は田坂が今まで経験してきたものとは全く別のものだった。全国大会などの大舞台は何度も経験してきているはずなのに、空気が尖っている。そう、田坂が今まで経験してきた舞台はあくまでも個人戦。今日周りにいる選手たちはそれぞれが何十人もの選ばれなかった仲間の気持ちも背負っている。覚悟がちがう。特に1区は一番それが顕著に現れる。田坂は走り始めていないのに心拍と呼吸が速くなるのを感じた。


スタートラインに並び、少しすると会場が静まりかえった。そして号砲。


田坂は位置取りに成功して、強豪校の真後ろに着いた。調子はいい。いける。田坂は前を走る有力選手達の背中をしっかりと見据えた。


序盤からハイペースでレースは進んだ。2キロを過ぎた辺りから次々に選手がこぼれ落ちていく。


大きな動きがあったのは中間点を過ぎたあたり。区間賞候補の選手がいきなりロングスパートをかけた。


急激に上がるペース。他の選手達もここで遅れるわけにはいかないと対応する。田坂も…


田坂はパニックに陥っていた。


(やばい。体が動かない。体力も心肺もまだ余裕があるのに。脚が前に出ない…腕が重い…)


4キロ過ぎには先頭集団から遅れていく。


残り1キロを切って前の集団のデッドヒートは激しさを増していった。ペースはまだ上がる。


(なんで…なんで…動いてよ!私の脚!腕!体!お願い!)


田坂は20位以下まで順位を落としていた。頭が真っ白になって呼吸も乱れる。


(どうしよう…どうしよう…どうしよう…私のせいで…)



一方こちらは東サイド。


「田坂が苦しんでる。先頭集団から遅れ始めた。東、あいつを助けてやってくれ。お前ならできる」


サポートしてくれている選手から受け取ったスマホからいつものように落ち着いた監督の声が聞こえた。


田坂、何位で来ても私がなんとかしてやる。とにかく襷をもってこい。東は決意を込めて強く自分の胸を叩いて合流地点に向かった。


(なんでこうなった…お願い、夢なら覚めて…)


目に涙を浮かべながら走る田坂は30位以下まで順位を下げた。その目に中継所が滲んで映った。あと200m。


「たさかー!!!!!!待ちくたびれたぞ!!!早くここまで来い!泣いてんじゃねぇぞー!!!」


大声援が包む中継所から一際大きな声が響いた。周りの選手や観客も一斉に東に目を向ける。


(ひがし…)


拷問のような長く苦しい時間を耐え抜いた田坂は東に襷を渡す。


「ひがし…ごめん…」


「任せとけ!」


東は田坂の肩を強く叩くと全力疾走のような勢いで飛び出していった。


その背中を見ながら田坂はその場にくずおれた。


係員に休憩所まで運んでもらった田坂。サポートの選手が見せてくれているスマホの中では2区の選手が走っている。先頭集団は8人。本来ならその中に東もいるはずだった。その時中継が切り替わる。


「東選手が凄まじい走りをしています。区間記録を更新するペースで33位から12人を抜いて現在現在21位。襷を受けた中継所では一際大きな声で1区を走った田坂選手を激励するシーンがありました。苦しんだ仲間のために東選手が全力で前を追っています」


「ごめんね…ごめんね…」


蚊の鳴くような声を絞り出す田坂をサポート選手がギュッと抱き締めた。田坂は子供のように大声で泣いた。サポート選手は田坂が落ち着くまで何も言わずに抱き締めてくれていた。


東は鬼神のような走りをした。有力選手を押さえて区間賞をとり、区間新記録まであと2秒。順位も33位から15位まで押し上げた。


その後の3人も安定した走りを見せ、チームとしての総合順位は12位。初出場の無名校としては快挙だった。


アンカーの選手を迎えたメンバーは大盛り上がり。一方で田坂はその輪に入れなかった。


「みんなお疲れさま。レースってのは良い時もあれば悪い時もある。田坂は苦しんだけど、足掻いて足掻いて襷を繋いでくれたからこそのこの結果だ。サポートメンバー、応援メンバー、みんな最高のパフォーマンスだったぞ。来年は総合入賞しに戻ってこようぜ!」


尾白の言葉にみんな大きな返事をした。田坂以外は。


みんなが帰り支度をしていると、田坂の元に尾白がやってきた。


「お前がいつも通りの走りができていたら3位以内には襷を渡せたはずだ。でも、東が代わりに苦しんだかもしれない。他のメンバーが苦しんだかもしれない。全ては結果論だ。悔しかったら来年また帰ってこようよ。私が鍛え直してやる」


尾白の言葉は田坂の胸に染みた。何も言えず、ただただ頷いた。


宿の部屋では同部屋の東と朝まで話した。


慰めるのではなく、ああなったらどうしたら良いのか、何が原因でああなったのか、どんな準備をするべきだったか。


やっと笑顔を見せた田坂を見た東が号泣したり。


「ごめんね、田坂。なんて声かけていいか分からなくて、でも放っておけなくて、田坂が凹んでるの見てるの辛くて…」


慰める立場が逆になったり。


朝には寝不足と引き換えに2人はすっかり元気になっていた。


そして2人は3年生になり、チームを引っ張る立場になった。

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