学食
「初めまして。ニコラさんは一身上の都合とか言ってどこかに行ってしまったので、代わりに今から私がサポート役となる瀬尾です。どうぞよろしく」
は?
そんな空気が再集合した参加者に漂うなか、瀬尾は我関せずといったマイペースでスタスタと食堂内に入って行ってしまう。
「予約してる泉ゼミの者です!早速始めるからよろしくお願いします!席は…あ、あそこですね!みんな!ショーケースのメニューを見て、口頭で係の方に各々の名前とメニューを伝えてからテーブルに集合!水かお茶はセルフサービスだからね。あー、久しぶりの学食!何にしようかなー」
なんて勢いよくペラペラっとしゃべってショーケースに向かう瀬尾を、
「ちょっと待て瀬尾!今日は僕…じゃなくて私の日だ!仕切るのはよせ!あ、みんなは遠慮なく好きな物を頼んでくれ。それから分かってると思うけど一品だけだぞ」
瀬尾の後を慌てて追いながら最後は冗談めかしてそう言った桜田に続いて真白たちもゾロゾロと中に入っていく。
桜田はどうやら普段は自分のことを僕と言っているらしいぞ。なんてくだらない事に気づいたのは真白だけだったが、他の面々もショーケースに並ぶ幾多のメニューに目を輝かせていた。
その中でも一際大きなラグビー選手のような男子学生がショーケースをひと通り眺めた後桜田に尋ねた。
「桜田先輩、自費でなら2品以上頼んでもいいっすか?自分一品だけじゃ足りなくて」
「あぁ問題ない。ただしその際には食券を自分で買って係の方に渡してきてくれ。すまないな。予算の関係や様々な取り決めの関係で決められた金額しか使えないんだ」
「いえ!とんでもないっす!これから部活なので、その前にがっつり飯を食えるのは有難いっす!ご馳走様っす!」
「そう言ってもらえると助かる。安い方を自分で買うんだぞ」
「はい!ありがとうございます!」
そう言って彼はまず券売機に向かって行った。
あれが体育会系ってやつなのかな。なんて思いながらメニューを眺めると…なるほど沢山ある。真白の通っていた高校の学食とは比べ物にならない数だ。にも関わらずこの中から秒で注文する物を決めた彼はかなりの猛者とみた。
値段は学生目線で決めているのかかなり良心的だ。節約のために基本自炊しようと思っていたけど、たまにはここで食べてもいいかなと思った。何しろどれもこれも美味そうだ。
今日は朝食もゆで卵とフルーツグラノーラだけだったから腹は減っている。ここはガツンとパンチのある物を…なんて選んだのが日替わりランチ。今日は鶏の照り焼き定食だ。ご飯も大盛り無料との事だったからしっかり大盛りにした。これがパンチがあるかはよく分からないけど、野菜も肉も食べられるし、これが一番健康的な気もした。
他の面々も注文を済ませたらしく、皆お茶や水を持ってテーブルに着き、ワイワイと歓談し始めた。そんな中で奇跡的に空いていた一番落ち着く席、そう、端っこをサッと陣取った真白の横に同じくサッと座ってきたのは桜田だった。
「さあみんな、歓談中に失礼するよ。食事が来る前に軽く自己紹介だ。ひとり30秒くらいでいいから好きに喋ってくれ!私や瀬尾もみんなを君じゃなくて名前で呼びたいからね。それではちょうど端にいる体育会系の君からだ。以後は右へ順番に回していこう」
え?それだと俺がトリじゃん…
ちょっと待ってと言いたくて言えない真白をよそに桜田の音頭で自己紹介タイムが始まった。
前述の通り真白が大トリになる事が確定したわけだが、ちょっと待って、何て思う間も無く体育系の彼が衝撃の自己紹介を始めた。
「はい!自分は文学部の入江と申します!部活は書道部です!秋の文化祭ではパフォーマンス書道と展示会を致しますので是非見に来てください!よろしくお願いします!」
は?
何て?
書道?
柔道じゃなくて?
ツアーが始まってから初めての一体感ってやつを3秒くらい感じていたら、桜田が拍手をし、唖然としていた皆もそれに倣った。
まぁ良くも悪くも彼が自己紹介の全てを持って行ってくれたわけで、それから先の当たり障りのない自己紹介は誰も何も覚えていないだろう。真白もしれーっとひとつ前の男子学生がしたのと全く同じ内容に自分のプロフィールを当てはめて難を逃れた。
「みんなありがとう。少し…いや、かなり衝撃的とも言える意外性を出してきた者がいたが…まぁそれはいいだろう。間も無く食事も来るだろうから、ここからは楽しく歓談してくれ。我々も伊達にこの大学に3年以上通っていない。授業や単位、ゼミの事、サークルやその他何でも気になる事があれば聞いてくれ。分かる範囲になるが誠心誠意答えよう」
なんて桜田が先輩風をビュンビュン吹かしながら話していると、
「みんな、桜田は普段こんな感じじゃないからね!今日は初めての自分主催のツアーだから気合い入ってるだけだよ!学内で会ったら私やニコラも含めてフランクに話しかけてねー!あ、きたきた!カツカレーは私でーす!」
なんてニコニコ話す瀬尾を苦々しい目で睨みながら
「だからあいつには頼みたくなかったんだ。この日のために沢山映画を見て先輩っぽい話し方を勉強したのに台無しだ。ニコラも人選が悪すぎるんだよ…」
なんてブツブツ言いながら、真白と同じ照り焼き定食の照り焼きに、どこかから持ってきたらしきマヨネーズをめちゃくちゃかけていた。
かけすぎじゃね?って思いながら見ていると、
「ん?照り焼きにマヨネーズが不思議か?これは普通だぞ。テリマヨってあるだろ?やってみなよ。美味いから」
なんて言ってきた。
ちげーよ。量だよ量!っていうか先輩っぽい振る舞いを勉強した映画って何だよ!
なんて思いながらマヨネーズを受け取っていると、
「なぁ、確かに意外性爆発の奴いたよな!あの見た目で経済学部って…ふふっ」
ってヒップホップな格好をしている男子学生を見てニコニコして真白に話しかけてくるのは、向かいの席の入江。
全然意外じゃねぇよ!
身長190cm以上、体重90kgはあるであろう体型に、坊主頭に顎髭、その見てくれで書道部の奴が何言ってやがる!
もう脳が休まらない。




