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真白のキャンバス  作者: フジ


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4/9

ニコラ

ニコラはウキウキしていた。


桜田の堅っ苦しい話し方も、形式通りの何の独自性もないツアーの計画書を見た時も、参加者は誰も桜田の意図している楽しみ方をせず、ワイワイギャーギャーはしゃいでタダメシ食って帰っていくんだろうと思っていた。


けれどもスーパーやら本屋やらパン屋やらのポイントお得デーの説明まで食い入るように聞いて、気になる店でQRコードを読み込んでお友達登録したりして、夢中になって桜田の策に乗っかっている者がいた。


これまでゼミの先輩達のツアーを手伝ってきたが、一生懸命に企画したものの、明確な指示や誘導なしでは誰ひとりこちらの意図を汲んだ行動をとってくれないことばかりでその難しさをひしひしと感じていた。


プロが企画するツアーは参加者にシャッターポイントだと言わなくても、景色が綺麗ですよと言うだけでそこで写真をとり、ここではこれをやるべきと誘導しなくとも先を争ってやってほしい事をする。


ゼミの先生がそう言っていたけど、先輩達はなかなかそれを達成できず、ニコラ自身も先生が言っている事がいまいち分からなかった。


「こんなつまらない商店街巡りが新入生に刺さるはずないだろ。しかも多摩御陵って…」


そう言った彼女に桜田は


「いや、新生活を始めた学生がまず作りたいのは生活の動線だ。ショッピングモールに行けば全部揃うが駅から少し離れている。ちょっとした物を買うには遠いんだ。かと言ってコンビニは割高だし、専門店に比べて品数も少ない。電車を使う者や駅から徒歩圏内に住む者は駅周辺でなるべくお得に便利に暮らしたいと願うはずなんだ。だから私は駅周辺に何があるか、何がないかを中心にした内容にした。多摩御陵に関しては誰が何と言おうと外さない。僕はあの場所が大好きなんだ」


「入学して数日でそこまで考えてる学生はいないよ。それに自分の好みを押し付けないようにっていつも言われてるじゃん。」


「そうだとしても、私のトークで導いてやる。多摩御陵の魅力は行けば分かる」


「先生が、はいシャッターチャンスですよ!とかみたいなあからさまな誘導は禁止。あくまでも淡々と話すべき事だけ話す事って言ってたじゃん」


「そんな無粋な事はしない。このパン屋はクロワッサンがうまい、この薬局は割引の日が多いとか話せばみんな興味を持つだろ」


浅はかだと思った。


ため息をついて、こいつのサポートをするのは面倒だなと思っていた。けど…


桜田の言った通りの動きをしている奴がいた。


真白だ。


パン屋でSNS登録、薬局で割引の日が記載された張り紙を写真に撮っていた。


そしてそれをみた桜田は何度も小さくガッツポーズをしていた。


ニコラにもやってみたいツアーがある。


そのためには参加者皆がニコラの意図したように動いてもらう必要がある。


観光ツアーとはかけ離れたものだが、それこそ意図した通りに動いてもらわないと危険を伴う類のやつだ。


浅はかな目論見にハマった真白と、それを見て"一応自分もやっておこうかな"みたいな感じで同じ行動をし始めた参加者達を見たニコラは、頓挫しかけていた計画を再度作成することに決めた。


ツアーの途中で他のゼミ生に連絡を入れ、サポート役を交代すると、ダッシュで自身のツアーの根回しに向かったのであった。


「あれをやる時がきた!夏になって暑くなる前にやらないと!あと2ヶ月以内に!先生には怪我のリスクがあるから相応の人をサポートにつけないと許可は出せないって言われたけど、あの人がやってくれるなら問題ない!これを成功させて論文を書くんだ!」


彼女はこの見た目で日本生まれの日本育ちだ。


両親は共にニュージーランド人だが、日本で英語教師として働いている際に恋に落ちて結ばれた2人はそのまま日本で結婚して日本人の友人と共に英会話教室を開業。その3年後にニコラが産まれた。


子供の頃から家庭内では英語、他の場所では日本語という環境で育ち、もちろん保育園から高校まで日本人に混じって過ごした。だから英語も日本語もペラペラである。むしろ日本語の方が話しやすかったりする。


幼い頃から天真爛漫な少女だった。誰にでも臆せず話しかけた。誰とでも仲良くなれる気がしていた。そしてその積極性が彼女の心に深い傷を負わせることになるなんて思いもしていなかった。


ある出来事で深く傷ついたニコラは、他人と深く関わるのを避けるようになる。明るく賑やかだった少女はどこかへ消えて、いつも1人で本を読みながら孤独を求める少女が現れた。でもこの容姿だから嫌でも目立つ。それがコンプレックスになっていた。


大学に入ったら外国人もいるし、もうちょっと周りに紛れる事ができるかなと思っていたけどそうじゃなかった。入学式後のサークルや部活の勧誘で片言の英語で話しかけられた。特定のグループに属するのを好まないニコラを日本語が話せないからひとりなのだと勘違いした学生たちに英語で話しかけられた。日本語が話せると言うと、なんで?という同じ質問。その度に自分の生い立ちから話さなくてはならなくて、もう面倒くさくなって日本語を話せないふりをした。


でもあの店はちがう。ニコラがしょっちゅう行っているしているあの店。


あの店の人達はニコラの全てを受け止めてくれた。あの店のおかげで元気で活発な少女がひょっこり戻って来た。


大好きなあの店。


ニコラはダッシュで家に帰ると、資料データが入ったパソコンを抱えて彼女が最も居心地よく感じる場所へと向かった。


ダッシュで。

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