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真白のキャンバス  作者: フジ


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3/6

ツアー

集合した大学の最寄駅周辺は、田舎育ちだった真白には充実しすぎた環境だった。


スーパーがいくつもある。コンビニもいくつもある。食堂もたくさんある。本屋や薬局、各種病院、何故か隣り合うところもあるほどの沢山の床屋(美容院)、それらが全部入っているショッピングモール。大都市の端に位置し、自然に恵まれていてなんか地元と同じ匂いがする気がしていたけど、駅周辺を数分歩いただけで別世界なのだと実感した。


甲州街道を渡った一行は川沿いの道に入った。


「やっぱりど田舎だな」


「サークルの先輩が言ってたけど、2駅くらい行かないと盛ってないって」


「ここらはベッドタウンだからオフィス街や遊ぶ街じゃないんだよ」


「いやいや、俺の地元からすればここも大都会だぞ」


グループで参加している学生達の会話を聞いて、大学生って色んなところから集まってきてるんだなって思った。


そうやってキョロキョロしながら歩いている一行の前から桜田先輩が話し始める。


「いまチラッと聞こえたけど、確かにこの辺りは遊ぶ街というよりは住む街だ。君たち若者がはしゃぎ回れる俗に言う東京感は皆無と言ってもいい。その代わり静かで比較的治安は良いし、子育てや我々の本分である学業に打ち込むには最良の環境とも言える。近年は駅周辺を中心に再開発が始まってきているものの、あくまでも住む人を増やすための施策と見受けられる。人が増えると面倒な輩も増えるのが世の理だが、繁華街ができるわけではないから街の様相が大きく変わることはないだろうと僕は考える。願わくば…ガハッ」


「桜田、着いたぞ」


駅から30分くらい歩いただろうか。川沿いを歩き、公園を横切り欅並木を通り抜けて、俺の街感を徒然なるままに語り始めた桜田の脇腹に肘にニコラが肘を食らわせて呟いた。桜田は慌てて話の軌道修正をする。


「みんな、ここが多摩御陵だ。歴代の天皇や皇后のお墓がある。歴史は詳しくないからよく分からないが、なんか落ち着くから私は好きだ」


これだけ歩かせといてよく分からないんかい。


そんな言葉をみんなで飲み込みつつ桜田の後に続いて先に進む。


中は神社?みたいな雰囲気だった。子供の頃から何度も来ていたような気がするのは、大好きな神社にあったような迫力がある大木がニョキニョキと、そりゃもうそこらじゅうにニョキニョキと立っているからだろう。


大きな鳥居の先には古墳みたいな形をしたお墓があった。あの中に人ひとりが埋葬されていると思うと構造が気になるところではあったが、エジプトのピラミッドしかり、偉い人は往々にしてそんな弔い方をされるのかなと思った。


敷地内に交番らしき物があり、警察官が棒を持って立っているのには驚かされたが、なるほどこれだけ雰囲気が良くて広いところなら、お弁当を広げてピクニックどころではなく、花見やらバーベキューやらまでする者も出そうではある。この静かな雰囲気を守るためにいるんだろうなと勝手に納得した。


「なあ、悪いんだけど写真撮ってもらっていい?」


さっき会ったばかりの名前も知らない奴にいきなりスマホを差し出された真白は、分取って遥か彼方に放り投げてピカーンとしてやりたくなったが、そんな度胸も肩もないから、大人しく頷いて鳥居の前でおちゃらけたポーズをとる4人組の男女を写真に収めて何も言わずに返した。


「なにあいつ。機嫌わるくね?」


「誘われなかったから?次写真撮る時に一応誘ってやったら?」


なんてボソボソ言っていた。勘弁してくれ。と心の中で呟いた真白の耳に


「勘弁してくれ」


と声が入ってきた。心の声が出てしまったかと一瞬慌てた真白の前にはあからさまにげんなりした顔をした桜田が立っていた。


「ニコラが説明した通り、自由に出入りできるとはいえ、ここは墓地だ。散歩くらいならまだしも、観光地みたいにはしゃいでパシャパシャ写真を撮る場所ではないだろう」


その後もギャーギャー騒ぎながら写真を撮ってる彼らが他の友達同士で来た者たちを巻き込んではしゃぎ回るのを、嫌気がさした目で見ながらそうぼやく桜田に、


「まぁ眠っている皆々様は私たちみたいな小物なんて相手にしないよ。それに価値観や楽しみ方は人それぞれ。今日は空いてるし、彼らは誰にも迷惑をかけていないよ。自分の考えや価値観を物差しに他人を見ない。さぁ次に行こう」


そう言ったのはニコラ。


「むう。その通りだ。ごめん」


そう言ってちょっぴりしょんぼりした桜田の背中をニコラはパンパンと叩くと、先に向かって歩き始めた。心なしか彼女の足取りがさっきまでよりも軽くなっているように見えた。


駅周りの散策から少し足を伸ばして多摩御陵見学を終えた一行は駅からバスに乗り、大学へと戻った。


「みんな、ここまでお付き合いありがとう。簡単ではあったが、最寄駅周辺案内と名所見学ツアーは以上だ。これより学食で昼食をご馳走するので、各自トイレ等を済ませて15分後に大食堂の前に集合してくれ。では一旦解散」


複数のグループで参加していた者が大半の中、いつの間にか仲良くなっていた参加者は、桜田の号令でワイワイと散っていった。桜田はひと足先に食堂へ向かうのか、電話をしながらどこかへ行ってしまった。


参加者の輪には入れなかった真白は、トイレでも行って学食に向かおうと思って少し遅れて動き出すと、


「どうだった?」


背後からそう話しかけられて振り返ると、ニコラが立っていた。


周りを見回して他に誰もいないのを確認して、


「俺に聞いてるんですよね?」


味も素っ気もない返事をすると、


「他のみんなは行っちゃったから君しかいないじゃん」


そうは言っても、こっちに手を振ってると思って手を振り返したら、実は自分の後ろにいた人に振っていたと分かった時の小っ恥ずかしさを経験した事のある真白は慎重になるもんだ。


「そうですね。えーっと…」


コミュ障を発揮して反応に時間を要していると、


「で、どうだった?」


ウキウキした顔でそう煽ってくる。


「駅周辺の案内がすごく有益でした。僕はこの街の土地勘は皆無ですが、今日のツアーである程度の生活における動線ができました」


「そうだよね!よく考えられてるよね!まさか各スーパーのポイントお得デーがいつかまでねじ込んでくるとは思わなかったけど」


ニコラはクスクス笑いながら続ける。


「多摩御陵は?駅周辺だけにすれば良いって言ったのに、"私はあの雰囲気が好きだ。是非新入生にもあの厳かな雰囲気を味わってもらい、新生活への緊張をほぐして貰いたい!"って桜田がねじ込んでさぁ。意味わからなかったけど、発案者権限で勝手にそれで申請書を提出しちゃったんだよねぇ」


言いたい事は色々とあったが、まずは一番気になる事を聞くことにした。


「桜田先輩が発案者なんですか?大学とか生徒会とかが主催かと思っていました」


ニコラはそうくると思った!という顔をして、


「意外?このツアーは大学主催じゃなくて、私達が所属しているゼミの実践講義の一環なんだよ。私も彼もワールドツーリズムゼミに入っていて、こういった実践演習を3年の4月から3月までの間に一度主催して成果や課題を考察して論文にするんだ。だからこの後で配るアンケートにも協力してあげてね。桜田のアンケートはくどいから面倒だろうけど。ほら、桜田の話を全く聞いてなかった子たちには期待できないから。まぁ入学したてで浮かれるなってのが無理だし、桜田の話はくどいし。だから1人でも回答してくれそうな人にジャブ入れとかないとね」


ジャブ?


「今日は桜田主催だから私が協力者。また私が主催のツアーも企画するからその時にも参加してよ」


「あ、はい、無料なら…ですが…」


「基本無料だよ!交通費や食事代は負担してもらう事があるけど、主催者各々に割り当てられた予算があって、今回はその範囲内だから昼食代無料にできたんだ」


「そうだったんですね。でも誰が主催かって俺には分からないですよね」


「大丈夫!アンケートに我がゼミの公式SNSのQRコードを載せてあるから、登録してもらえれば最新の情報をゲットできるよ!あ、このアイデア考えたの私」


さりげなく手柄をねじ込んできたニコラは、じゃね!と手を振ってスキップせんばかりの勢いで去っていった。


トイレを済ませて食堂に着くと、桜田の横にはニコラではなく別の学生が立っていた。

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