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真白-ましろ-  作者: 格之進


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報告

午前中の講義が終わった真白は学食に向かっていた。


ニコラに呼び出されたのだ。


時は少し遡る。





これは灯のお父さんが倒れた次の日の事。


その日に予定していた灯と浅川と行くはずだった登山は延期になった。


そのため予定が空いた真白は、もはや日課となっているジョギングと食料品の買い物だけ済ませてほぼ1日のんびりしてすごした。


晩御飯を出来合いの惣菜とご飯、カットサラダで済ませて、ダラダラとネット配信アニメを見ていると、スマホにメッセージが入った。


"日向くん、もう帰ってきた?"


ニコラからだった。


彼女からのメッセージはいつも端的で、挨拶とかを全て端折っていきなり本題に入る。


"在宅です。登山は延期になりました"


だから真白も要点だけ答える。



……


電話がかかってきた。


「はい。もしも…」


「なんで?なにかあったの?」


「はい。昨日の仕事中に…」


真白から昨日の出来事を聞いたニコラは開口一番に、


「姉さんのお父さん無事で良かったね」


と言った。


ニコラのこういう所が宵の明星のみんなに愛される所以だろう。


「はい。本当に良かったです。登山に関してはまだ計画を立てていませんが、浅川さんが灯さんとシフトを調整してくれるとの事です」


「そうだったんだ。日向くんもお疲れさま。あ、日向くんの都合の良い時に学食で会おうよ。瀬尾ちゃんがソワソワしているみたいで、さっき連絡がきたんだ」


「分かりました。その時に詳しくお話しします」


「うん。じゃあ連絡待ってるね」


「あ、は…あ、切れた」


そう言って真白の返事も待たずに電話を切った。


用が済んだら無駄話などせずにとっとと切る。


いつものせっかちなニコラだ。


しかし、瀬尾はどんな反応するだろう。


色々と予想外となった顛末をどう伝えようか。


考えがまとまらないまま眠りについた。





それから暫くニコラと予定が合わず、連絡をもらってから1週間以上経った今日、ようやく話をする事になった。


あれから時間は経てど考えはまとまらなかったが、瀬尾にとって必ずしも残念な結果ではない…と思っていた。あくまでも真白的には。


休み時間にニコラから食券は買わずに前と同じテーブルに来るようメッセージが来た。確かにまず気になっている本題を片付けないと美味しく食事もできないだろうし、真白は了解のメッセージを送った。


学食に着くと、前と同じテーブルで3人が待っていた。今日は桜田も最初から同席するらしい。


「お待たせしました。いきなり本題に入っていいですか?」


真白が椅子を引きながらそう尋ねると、瀬尾がコクリと頷いた。


「結論から言うと、計画通りにはいきませんでした」


え…?


と切なそうな顔をする瀬尾。となりのニコラが瀬尾の肩をポンポンと叩く。


「瀬尾ちゃん、最後まで聞いてみようよ。日向くん、まさかそれで終わりじゃないんでしょ」


「はい。先週の仕事の後に…」


灯が早退した日。


あの仕事の後で任務を遂行するのは非常に困難であった。


ドタバタの1日を乗り越えたテンションでみんな変にハイになっているし、いつもは浅川と2人で店を出るが、その日はマスターと入江も一緒になりそうだった。


まぁ次の機会でいいか。なんて考えていた真白。


しかしチャンスは訪れた。


ロッカーが狭いので、入江は洗い物を、マスターは在庫確認をするからと真白と浅川の2人が先に着替える事になった。真白はこうなったのも何か意味がある気がして、しっかりと行動に移した。


「あの、浅川さん。これ良かったらどうぞ。ちょっとコネがあって手に入ったのですが、俺はまだ未成年なので」


「ん?クーポンじゃん。別に酒飲まなくても入店はできるし、蒼と行って来れば?」


「いえ、外食は節約のために控えてるんです。それに瀬尾先輩が働いている店なので、色々とおススメとかを教えてくれるのではないでしょうか。瀬尾先輩もこの間のお礼がしたいと言っていましたし」


「瀬尾さんはここで働いてるんだ。せっかくだから真白くん、一緒に行こう。支払いは心配しなくていいから。瀬尾さんがいる日に行けば美味いもの教えてくれそうだし」


「あ、いや、あの…はい。お願いします」


「決まり!じゃ瀬尾さんにシフト聞いておいて」




「…という流れになりまして…」


真白は前に座る女子2人を直視できず、終始テーブルの中心を見つめながら一気に喋った。


しばしの沈黙。


耐え切れずチラッと目だけ2人に向けると、


瀬尾はしょんぼりしている。が、ニコラは腕を組んで斜め上辺りの空間を見ながら何か考えている。


真白が沈黙に耐えかねて何か言おうとしたとき、会話の口火を切ったのは桜田だった。


「瀬尾、僕が思うにそれは悪い展開ではないよ。正直今の関係性で2人で飲みに行くのは時期尚早だと感じていたんだ。まだまともに2人で会話なんかできないだろう?でもこれなら自然に距離を縮められそうだ。しかも一緒に行くのが日向くんなら安心じゃないか。言ってみればペアチケットのような物をもらったのに日向くんを誘ったという事は、浅川さんに恋人がいる可能性は減ったぞ。もちろんゼロではないが。それにその状況なら会話の中で浅川さんを直接外食に誘っても違和感はないぞ」


「私もそう思う。仕事中に雑談しながら、今度浅川さんのおススメのお店に連れて行ってくださいよー。みたいな感じでしょ?」


「それだ。すごく自然だ。頑張ってる感じもない」


俯いていた瀬尾は2人の話を聞きながら顔を上げて、パーっと明るい表情になった。


「そんな気がしてきた。日向くん、絶対に私がいる時に来てね!」


「もちろんです。俺も瀬尾先輩が働いているところを見たいです。よろしくお願いします」


「あーお腹すいた。瀬尾ちゃんも一安心したらお腹空いたでしょ!注文しに行こう!」


「うん。あ、日向くんは待ってていいよ。私が買ってくるから。日替わりでいい?」


「あの…本当にご馳走になっていいんですか?」


瀬尾が期待していた成果をあげられなかったと感じている真白がおずおずと聞くと、


「日向くん、君はすごく良い仕事をしたよ。遠慮なく奢ってもらえ」


桜田が立ち上がりながらそう言って券売機へ向かっていく。


「うん。無茶言ったけど、本当にありがとう。ちょっと待っていてね」


瀬尾とニコラも桜田に続く。


券売機に並んだ3人を眺めていると、近くのテーブルで他のクラスの学生達と食事をしていたクラスメイトから声をかけられた。


「日向、あの人たちと友達なの?こないだも一緒にいたよな?」


「ああ。ちょっと縁があってさ。3年の先輩だよ」


「そうなんだ。前に見た時は俺もサークルの先輩と一緒でさ、先輩曰くあの3人はめちゃくちゃ優秀らしいよ。あの人達が入っているゼミは人気がありすぎて、毎年選考テストがあるくらいなんだと。各学年トップクラスの精鋭が揃ってるらしくて、雰囲気が違いすぎて話せないって。日向がそんな人達と仲が良いってなんか不思議だな。まさかそのゼミに勧誘されてるとか?」


ん?最後に何か失礼な事を言われたぞ。まぁいいか。


それよりあの3人が優秀?


まぁ桜田は分かる。真面目な学生を絵に描いたような男だし、話していても頭が良さそうなのは感じられる。


ニコラが?瀬尾が?


「初めて聞いたな。でも俺はゼミとは全く関係なくてさ。ただの友人だよ。ってかそんなに構えるような人達じゃないぞ」


「俺も日向達の様子を見ていてそう思った。それにな、まぁこれはたまたまかもしれないけど、ゼミのメンバーみんな顔も良いんだって。見た目で選んでるって噂も出るくらい。あの3人も絶対にモテるじゃん」


中身を知っている真白には疑問しかないが、客観的に見て瀬尾も桜田も美形の部類に入るだろう。金髪ちんちくりんは色んな意味で好みが分かれそうだが。


「良い人達だよ。俺にはそれくらいしか分からないな。まだ付き合いも浅いし」


「そっか。邪魔したな。またクラスで」


「はいよ。また」


クラスメイトが真白の元を後にするとすぐに3人が戻ってきた。


「日向くんと私はAランチにしたからね。ミックスフライ定食だったよ」


「ありがとうございます。瀬尾先輩」


「いいって。それにね、私も浅川さんと仲良くなれたら良いなと思っているけど、それ以上の邪な気持ちはないんだよ。あの人は私みたいな世間知らずの子供は恋愛対象に入れてないよ」


「俺はまだ浅川さんと知り合って2ヶ月程度ですが、あの人は自分に正直だと思います」


「そうだよ瀬尾ちゃん。焦らず距離を縮めたらいいよ」


「瀬尾、そんな心にもない事を言ってもここにいる3人はみんな本音に気づいているからな」


瀬尾は顔を赤くして俯いた。


「さあ、切り替えてご飯食べよう。っていうか、今度他のゼミのメンバーも連れて宵の明星に行こうよ」


ニコラが言うと。


「日曜日なら行く」


桜田が真顔でそう返した。


ニコラと真白は顔を見合わせて、


「「今度はこいつか」」


と同時に呟いた。

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