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真白のキャンバス  作者: フジ


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16/39

余韻

「お疲れさまでした。お先に失礼します」


真白はまだ働いている3人に挨拶をして店を出た。


賄いを食べた後の皿も洗わずに帰るのは申し訳なかったが、まとめて洗うからと言われてお言葉に甘えた。


帰路に着いた真白はまだ夢を見ているような気分だった。


宵の明星から真白の住むアパートまでは徒歩で20分くらいかかるが、火照った頭を冷ますにはちょうど良い時間だ。


夜の高尾は駅周辺以外は暗くて人通りが少ない。


静かで良かった。と真白は思った。


おかげで余韻をゆっくり堪能できる。


一つ一つのシーンが写真のように次から次へと浮かび上がる。


疲れた。


けど、働き疲れた後の飯は、そりゃもう…


ハンバーグ定食はめちゃくちゃ美味しかった。


食レポなんてやつは真白にはできないが、あんなに美味しいハンバーグは初めて食べた。


でもあれは味とかじゃないんだよな…


なんだろう。あの感覚は。


体に染み渡るような…そうだ!


あれが大人がビールを飲む時に言う、


「くー!染みるなー!」


ってやつだ!


真白は大人の階段を上った気がした。


仕事は大変だった。


まだ覚えたて…いや、覚えてすらいない初めての事だらけで、真白的には他の3人の足を引っ張っていたとしか思えない働きぶりでだったが、マスターも灯も浅川も"よくやった"と褒めてくれた。


何度もフリーズしたり、逆にわちゃわちゃしたりだったが、逃げ出したくなるような嫌な気持ちには一度もならなかった。


3人には厳しいことも言われた。


自分が情けなくなるような思いもした。


でも3人は必ずフォローしてくれた。


真白に何か言って、そのまま放置なんて事はしなかった。


失敗して下を向いていると、すぐに真白にもできる仕事を振って、それをこなすと褒めてくれた。


中には真白が新人だと思って煽るような言い方をしてくる腹の立つ客もいたけど、一生懸命に働く真白を可愛がってくれたり、激励してくれる客もいた。


「楽しかったな…」


自然と真白はそう呟いた。


あの店で働ける事が心の底から嬉しい。


早く仕事を覚えてあの人達の役に立ちたい。


家に帰ったらメモを整理しないといけないな。


メニューも覚え直して…


いや、今俺に必要なのは経験だ。場数だ。


幸い4月、5月は祝日も多く、沢山シフトに入れる。宵の明星は月曜日と第2、第4火曜日とお盆、年末年始以外は土日祝日に関係なく営業するから、そこでしっかりと動きを身につけよう。


入ったばかりで、そんな我儘を聞いてもらえるかな。次の仕事の時に灯に相談してみようかな。


リュックの中には作務衣が2着。今日着た物と洗い替え用。


一緒に働いた3人も、来店した入江もよく似合うと言ってくれた。


服を始めとするオシャレには興味がないし、容姿にも全く自信はない。けど、みんなに似合うって言われたのは嬉しかった。


浅川の作務衣姿はとてもカッコよかった。入江もあのガタイがあればさぞ貫禄が出ることだろう。


よく似合うって事は俺も彼らみたいにに見えたのかな。なんて考えたらニヤニヤしてしまう。


でもあの働きぶりじゃ見掛け倒しだな…




コンビニが見えてきた。


仕事で学んだ事をまとめる用に小さなノートを買おうと店内に入った。


ノートを取り、レジに向かう。


レジ横の肉まんに吸い込まれそうになったが、散財は給料が入ってからと決めている。ブンブンと首を振って、ノートだけをレジに置く。


「いらっしゃいませ。このままのお渡しでよろしいですか?」


ピッとやりながら聞いてきた店員さんに、


「はい。このままで」


そう言って支払いを交通系ICカードで済ませて店を出た。


「ありがとうございました」


店員さんの声を聞いた真白は振り返る。店員さんはレジで次のお客さんの対応をしていた。


今まで…いや、今日仕事を経験するまでは何にも感じる事はない光景だった。


でも今の真白は違う。


あの店員さんも働いている。


業種は違うが、あの店員さんも真白のように一から仕事を覚えて働いている。


真白が今日したような歯痒い思いもしたのだろう。でもそれを乗り越えて立派に働いている。


負けてられないな。と思った。


そこから10分弱でアパートに着いた。


部屋に入ってすぐにシャワーを浴びた。


今日はもう早く寝ようと思っていた。


シャワーから出て冷蔵庫から水出しした麦茶を出す。コップにそれを注いでいたら電話がかかってきた。母からだ。


バイトどうだった?クビにならなかった?


そんな事だった。そういえば署名してもらいに実家に帰った時に今日から働く事を伝えていたのを思い出した。


楽しかったよ。クビにならなかったよ。


そんな事を簡単に伝えて電話を切ると、入江からメッセージがあった。


「おつかれ!灯さんに頼まれて働いてるところを写真に撮ったから送るな。初心を忘れないようにしっかり保存しておけだって。また学校で」


そんなメッセージと共に3枚の写真が送られてきた。


①メニューだけ持ってお客さんのところに行こうとして、灯に落ち着きなさいと言われているところ。


②お客さんが一気に2組入ってきて、入江のコーヒーを持って立ち尽くしているところ。


③ハンバーグ定食チーズトッピングとアジフライ定食の注文を取り、厨房にそれを伝えているところ。


何で恥ずかしいところばかり撮るかな。


苦笑いをしながら、真白は全ての写真を保存した。


あ、と思いついた真白は1枚だけ母に送った。


最後の1枚。


見ようによってはメニュー票を持って厨房に指示を出してるように見えるやつ。


ちょっぴりカッコつけた。

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