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真白のキャンバス  作者: フジ


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13/36

宵の明星 2

時刻は16時を回ったところ。


夕食にはまだ早い時間だが、適度な運動を行ったからか、昼食をしっかり食べてからまだ数時間しか経っていないものの、確かな空腹を感じていた。


料理が来るまでの間、席に居座った灯さんから時給やシフトに関する諸々の雇用条件についての説明を受けた。


入江から聞いていた内容とほぼ相違はなく、気になっていたシフトに関しても講義がない土日がメインで平日は週に1〜2回に加えて週末どちらかの週に3〜4回。時間帯は平日は講義が終わってから、土日祝日は状況に応じて。という事に決まった。


大学生とはいってもまだ未成年のため、保護者の署名が欲しいとの事だったので、週末に帰省して書いてもらう事にした。バイトを始めるのは早くても来週末からになりそうだ。


「先に言っとくけど、私たちは聖人君子じゃなくてこの商売で食ってるただの人だからね。さっき言った私達の常識ってやつが気に入らないようなら遠慮なく辞めてもらって構わないよ。まぁ蒼ちゃんが推薦するなら大丈夫だとは思うけどね」


ところどころに辛口な表現が見え隠れしたが、むしろこの人の雰囲気に合っている気がした。虚飾を施す事なく本音で話してくれてる。そんな気がした。


灯さんがいう私達の常識がどんなものか分からないが、ニコラや入江が慕っている人達だし不安はない。


そんなニコラも入江も出会って間もないのにこんなに気を許している自分が不思議でもあった。


「話はひと段落つきそうか?飯ができたぞ」


マスターが真白の肉野菜炒め定食とホッケの塩焼きが乗ったお盆を持ってやってきた。


後ろからはこの店に入って初めて目にする3人目の従業員がニコラの注文したものらしきアジフライ定食を運んで来た。


「この人は田坂ちゃん。私達と同じ大学生だよ」


ニコラがアジフライ定食を受け取りながら紹介してくれた。


「田坂です。大学3年です。これからよろしくね」


田坂さんは小さい顔に切長の目、黒髪サラサラロングヘアーをポニーテールにしたお嬢さま風の超絶美女だった。


灯さんは、田坂さんのその美貌にほけーっと見入っている真白の肩をバンバンと叩きながら、


「あれ?もう恋しちゃった?だめだよー。うちの看板娘に手を出しちゃ」


そう言って豪快に笑った。


「そ、そんな事ないです!か、か、彼女とか作るためにバイトするわけじゃないし…いただきます!」


灯はあからさまに動揺する真白を少しからかうと、少しだけ表情を引き締めて、


「まぁ浮いた話は若いもんだけの時にやってもらって、ちょっとだけ仕事の話にもどるね。あ、冷めちゃうから食べながら聞いてね。日向くんはまずはメニューを覚えないといけない。賄いで少しずつ出していくから味とかをしっかり覚えてお客さんに説明できるようになる事。それからでかい声で喋る。挨拶も含めてね。今は誰もいないから静かだけど、忙しい時はめちゃくちゃうるさいからボソボソ喋っても全く聞こえないからさ。とりあえずそれだけ。じゃ、ごゆっくり」


そこまで話して厨房の中に引っ込むマスターと田坂の後を追う灯を見送った。


いただきまーす!とニコラとハモって食べ始めた。


料理は凄く美味しかった。


まず肉野菜炒め。


シャキシャキと適度に歯応えのある野菜は塩胡椒のシンプルな味付けが効いていていくらでも食べられそう。肉野菜炒めというだけあってたっぷり入った豚バラ肉も野菜によく合う。ボリューム満点なのに重くなくてさっぱりしている感じさえする。


続いてホッケにも箸を伸ばす。


シャッと骨を取るとホカホカと湯気が上がる。


うん。めちゃくちゃいい匂い。


はふっと身を口に入れると、油の乗った絶妙な焼き加減で箸が止まらない。


目の前にいるアジフライ定食に添えられたキャベツから完食してターゲットをポテトサラダに移している人を見た。この人は一種類ずつ確実におかずを食べていく派らしい。


厨房から灯が出てきた。


「日向くん。この書類の鉛筆でチェックしてあるところだけ記入してきてね。あ、食べながらでいいよ。個人情報と給与振込口座と誓約書ね。急かしてるようで悪いんだけど、いつから来れそう?」


「来週からでもよろしいですか?一度実家に戻って署名をしてもらわなくてはいけないので」


「じゃあ来週の金曜日は?時間は15時で。そこで研修をしてもらおうかな。バイトの子に付いて実際に働いてもらうからそのつもりで。これが店のメニューとテーブル番号とオーダー表。わかる範囲でいいから目を通しておいて。じゃごゆっくり」


灯さんは一気に喋るとヒラリと厨房に戻っていった。


「せっかちな方なのかな。俺もそうだから親近感が…」


肉野菜炒め、米、ホッケ、米、肉野菜炒め、米、ホッケ…と無限ループを満喫しながら呟くと


「もうすぐ17時だし、めちゃくちゃ忙しくなるからその準備でしょ。私たちも混まないうちに帰るよ」


ニコラはそう言って食べる速度を早めた。いつの間にかポテトサラダを完食し、楽しみにしていたらしきアジフライに移っていた。


その日はニコラが奢ってくれた。


真白が働き始めてからも頻繁にくるから、その際にサービスしてね。と囁かれた。


思わぬ展開ではあったが、今はただワクワクしていて今夜は眠れなさそうだ。


金儲けのためではなく、早くあの人達と働きたいと思った。

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