二十.
一次会が終わるまで、夢ちゃんは現れなかった。幹事を務める同窓生が一次会の終わりと、この後二階にある別のホールで二次会があることを伝えて、この場はお開きになった。
夢ちゃんに逢えないなら、これで帰ろうかな、それとも、彼女が約束を守ることを信じて、二次会にも出席しようか。そんなことを考えながらロビーに出た時だった。
入口の自動ドアが左右に開いて、一人の女性が小走りに入って来た。僕の頬が自然に緩む。
「遅れちゃったぁ。もう終わっちゃったの? あ、久し振り~」
息を切らせて入って来た彼女に、入口近くにいた同窓生たちが彼女に答えた。
「夢ちゃん遅~いっ さっき一次会が終わったとこだよ」
「でもこれから二階で二次会だって。出るでしょ?」
「うん、行く行く」
夢ちゃん、二次会には出るんだ。なら、僕も行こう。
彼女が旧友と話しながら、ちらりと僕に視線を送って微笑んだ。自然と僕の頬が綻ぶ。良かった、今日の同窓会に出席して。
イベントホールの二階での二次会は、丸テーブルを椅子が囲んでいることは同じだが、自由席になっている。既に何人かの同窓生が席に着いて談笑している。僕も適当に、まだ誰もいないテーブルを選んで座った。部屋の入口が見える場所に。
ぱらぱらと同窓生が入って来て、席が埋まってゆく。しばらく待っていると、夢ちゃんが何人かの女友達と一緒に入って来た。彼女は、自然な足取りで僕の着いているテーブルに来て、まだ空いている僕の隣の椅子に座った。
「久し振りだね」
「うん。来られたんだね」
「言ったでしょ。絶対来るって。急用で遅れちゃったけど」
と言うことは、やっぱり夢で約束したことはぼくの夢のではなかったんだ。・・・いや、そうじゃない、夢が夢でないってどう言うことだよ。けれどそれなら、彼女の言葉をどう解釈すれば良いのだろう?
「それじゃ、二回目の乾杯するぞっ 酒は回ってるかっ」
主催した同窓生の声で、二次会が始まった。夢のことは後で考えよう。
「瞬くん、今どうしてんだっけ~?」
アルコールの回って来た幼馴染が僕に言った。口調ははっきりしているが、すこし酔いが回っているようだ。
「まだ親の脛齧り。大学院に行ってるよ」
「へぇ、そんなんだ~」
彼女は腰を少し上げて椅子を僕の方に寄せた。
「瞬くん、彼女とかいるのぉ?」
妙に艶めかしい声で囁く。
「ううん、いないよ」
「ならぁ、あたしと付き合って」
「え?」
僕は耳を疑った。彼女に好意は持っているが、まさか彼女も好意、それも愛情を持ってくれているとは思わなかった。
「えっと、それ、本気」
「うん、本気だよぉ。高校の時久し振りに会ったでしょぉ、あの時から想ってたのぉ」
そうなのか。いやいや、酒に酔った勢いで心にもないことを言っているんじゃ。
「夢ちゃん、酔ってるよ。酔った勢いでそんなこと言っちゃ駄目だって」
「酔ってるけどぉ、あたしの気持ちは本気だよぉ」
彼女は椅子に座り直し、姿勢を正して僕を真っ直ぐに見た。
「瞬くん、好きです。付き合ってください」
夢ちゃんははっきりと言った。
「夢ちゃん、だいた~ん。みんないる場所でぇ」
「瞬く~ん、返事してやんなよぉ」
同じテーブルに着いていた同窓生たちが囃し立てる。けれど、周りの言葉など聞こえないように、幼馴染は真っ直ぐに僕を見つめている。僕も、旧友の声は耳に入っているものの、聞こえてはいなかった。夢のちゃんと僕は、二人だけの世界にいた。あの、夢の中のように。
「僕で良ければ、喜んで」
「やったっ」
夢ちゃんは小躍りせんばかりに喜んだ。それだけに留まらず、僕の腕を取って立ち上がる。腕を引かれて僕も彼女の隣に立たされた。
「ちゅうもーく。あたしから報告でーすっ」
何を言う気だろう。まさか。
夢ちゃんの声に、会場が静まり返り、無数の視線が僕たちに集中する。夢ちゃんは僕の顔を見て極上の笑顔を見せると、会場に顔を向けて、息を吸った。
「あたし、本屋夢乃は、瞬くんとお付き合いすることになったことを、ここに報告しますっ」
一瞬の沈黙。次の瞬間、会場は僕たちを祝福する声に包まれた。




