十九.
同窓会は、実家から自動車で二十分ほどの場所にあるイベントホールで開かれた。ここができたのは四年前、つまりは僕が大学に入学して実家から離れた後なので、来ることはもちろん外観を見ることすら初めてだった。
『どうせ酒入るんだから送ってったげるよ』と言う姉の言葉を素直に受け入れて、イベントホールの正面ロータリーまで送って貰った。この辺りは公共交通機関が乏しいこともあって姉も日頃から自動車を使っているようだから、彼女の運転は慣れたものだ。ペーパードライバーの僕とは年季が違う。
「あ、瞬くんだ、久し振り~」
姉の運転する自動車から降り、軽く手を振って別れてイベントホールに入ると、入口近くにいた女性に笑顔で話しかけられた。
「久し振り。元気だった?」
答えながらも(誰だったかな?)と考える。綺麗な人だ。こんな人、同級生にいたかな?などと失礼なことを考えてしまったけれど、短く会話を交わしたり、他の人と話している様子を観察していると、思い出してくる。さっきの人は、中学までは割合地味だった女の子だ。八年弱で見違えるようになったな。
ロビーに集まっている他の顔を眺める。すぐに判る人もいれば、何となく面影に見覚えがあるだけの人、まったく様子の変わってしまった人と、千差万別。驚いたことに、ほとんどの子が僕のことを覚えていた。小中学校時代、自分は空気だと思っていたのは僕自身だけだったのかもしれない。
しかし、僕との会話を長く続ける人はいない。みんな、挨拶と短い雑談だけで離れて行く。何しろ、これまで他人との関わりを避けて来たせいか、僕は話題に乏しい。相手の言葉に対して上手く言葉を返せない。しかも周りには同い年の旧友たちが揃っているのだから、僕と話すまでもなく話し相手には事欠かない。空気ではないとしても、それに近い存在だろうな。
受付の用意が整ったらしい。ロビーにはまだ、僕の求める女の子の姿はない。彼女が来るまでここで待とうかとも考えたけれど、いくつかの人の輪ができているロビーに一人佇んでいると虚しくなってくるので、さっさと受付を済ませて会場へ入った。
会場には、八人掛けの丸テーブルが十五脚並んでいる。僕らの同窓生は確か百三十四人だから、教諭の参加数を差し引いても、出席率は結構高い。受付で受け取った番号札を見ながら探した自分の席に座って同窓会の開始を待った。
同窓会が始まっても、夢ちゃんは現れなかった。どうしたのだろう。『絶対に行く』と言っていたのに。嘘を吐くような子ではないから、何かの理由で遅れているのだろうか。それとも、急用で来られなくなったか、それともそれとも、途中で事故に遭っていたりなんてことは・・・
いや、と軽く頭を振って自嘲する。彼女がそう言ったのは、ぼくの夢の中ではないか。直に聞いたわけではないのだから、例え彼女が同窓会に出席しなくても、彼女が嘘を吐いたことにはならない。
「瞬くん、どうかした?」
隣に座っていた同窓生が僕の挙動に気付いたらしい。
「いや、このビール、ちょっと口に合わないなって思って」
僕は誤魔化した。
「拘りあるんだ。普段はどんなの呑んでんの?」
「プライベートではほとんど呑まないけど、どっちかって言えばウィスキーが好みかな」
「へえ。ウィスキー党か。こないだ先輩に教えて貰ったバーなんだけどさ・・・」
同窓生の話を聞きながら、僕は意識だけを会場の入口に向けていた。彼女が約束を破るとは思えなかった。たとえそれが、夢の中であっても。




