十六.
「ん、んん、あ、あれ?」
いつの間にか眠っていたらしい。気が付くと、二つに折った座布団を枕に、アパートの自分の部屋に横たわっている自身を見出した。頭の中に霞がかかっている、と思ったのは一瞬で、すぐに脳が覚醒してくる。
「何か夢を見てたような・・・そうだ、夢ちゃんっ」
がばっと上体を起こし、軽く頭を振って少し残っていた眠気を完全に払う。
(本屋次郎が夢ちゃんの叔父さん、じゃなくて叔従父さんで、あの本屋さんが実家だって夢だ)
小学校の図書室に娯楽マンガが所蔵されていた理由も説明がつく。自分の作品を、母校に贈ったのではなかろうか。何年も前に絶版になった単行本を売っていたのは、実家だから。店頭には一冊しか置いていなかったが、倉庫には何冊か、あるいは何十冊か在庫があるだろう。
そこまで考えて、ぼくは自嘲した。何を馬鹿なことを考えているのだろう。あれは夢だ。たまたま、本屋次郎氏と夢ちゃんが同じ苗字だったから、無意識のうちに二人を結び付けてそんな夢を見たのだろう。だいたい、あそこに本屋さんがないことは、子供の頃から何度も確認したではないか。だから、今のはただの夢、それ以上でも以下でもない、はずだ。
独り暮らしをするようになってから意識して整理整頓を心掛けている部屋は、それなりに片付いている。完璧と言えないのはまあ、仕方がない。実家に暮らしていた頃の、本以外はモノの扱いに無頓着だった性格は、そう簡単には治らない。
部屋の隅に置いた机が目に入る。その上に、置いた覚えのないものがある。何だっけ?あれ。立ち上がってそれを手に取る。何の変哲も無い、無地の紙袋。表にも裏にも、何も印刷されていない。丁度、マンガの単行本が入るくらいの大きさと、それが入っているほどの厚み。もしかして。
僕は袋の口を開けた。一冊の本が入っている。
(これはっ)
思った通り、ここ数週間かけて探し回っていたマンガ、本屋次郎の習作にして処女作の単行本が入っていた。いったい、僕はこれをどこで見つけたのだろう。夢の中の、あの本屋さんで。
いやいやいやいや、まさかそんな。だいたい、あの本屋さんは、ここから遠く離れた小学校の傍にあるのだから、自分でも無意識の内に帰省していた、わけはない。そもそも、僕がこの本を探しに訪れていたのは古本屋ばかりだし、あの本屋さんは店構えが古びているだけで古本屋ではないのだから、古本を探す目的で訪れる対象にはならない。けれど、結局のところあの店にあったのだから、その考えは間違っていた・・・
じゃない、あれは夢の中の本屋なのだから、そもそも古本か新刊かに関わらず、探すための対象にはならない。けれど、絶版本であっても返本していなければ本屋さんに残っている可能性はあるわけで、だったら、最初から古本に絞った僕の判断が間違っていたことになる。
・・・って、だから夢と現実を混同してどうする。さっきから同じことをぐるぐると考えているな。取り敢えず今は、これを入手した経緯は置いておいて、せっかく手に入れたこのマンガを楽しもう。
僕は机の前の椅子に座って、待ち侘びたマンガのページを捲った。




