十三.
高校を卒業した僕は、地元から少し離れた大学へ進学した。本命は、家から通える地元の大学だったのだが、見事に落ちた。入試の帰り道の途上で、試験内容を反芻している時に、数学の問題で致命的なミスを犯したことに気付いたものの、既に時遅し。その時点で、地元の大学の合格は半ば諦めてしまい、結果はその予想通りだった。
幸いにも、後期日程に受験したもう一つの大学には無事に合格し、僕は生まれて初めての独り暮らしをすることになった。
最初は不安もあったが、いや、不安しかなかったが、始めてみればそれほど期間も掛からずに、独り暮らしに慣れた。およそひと月に一度の割合で様子を見に来る母も、部屋が綺麗に片付いていることに驚いていた。実家で暮らしていたときの僕の部屋は、本以外の物は結構床に散らばっていたから。って言うか、ひと月に一度って、過保護過ぎないだろうか? 近所に住んでいるなら兎も角、自動車でも電車を使ってもそれなりに時間のかかる距離なのに。まあ、母も初めて家を出た息子の暮らし振りが気になって仕方がないのだろう。姉も、まだ実家で暮らしているし。そう思えば、頻繁に訪れる過保護気味な母を咎める気持ちも湧いて来ない。頻繁と言っても月に一度程度なのだから。
大学生になってからも趣味の読書は変わらず、それでも狭い賃貸アパートに小学生時代から溜め込んだ大量の蔵書のすべてを持ってくるわけにもいかず、特にお気に入りのマンガや小説を厳選して持ち込んでいる。それでも、時々は家に置いて来た本を読みたくなる時もある。そんな時は、次に帰省する時まで我慢する・・・のだが、時々、実家から持って来た机の上に、あるいはこっちに来てから購入した本棚に、気付くと置いてあることがある。カバーの汚れや痛み具合を見ても、間違いなく実家に置いて来たものなのだが・・・多分、他の本に紛れて持ってきたのだろう。
夢の中の、靄の中に浮かぶ、古ぼけた本屋。あの本屋の書棚を介して実家とこことで本を移動している・・・なんてことは、ないよな。・・・多分。




