十二.
『また、あの本屋さんでね』
夢ちゃんは確かにそう言った。最近、と言うより小学校に上がってからこっち、彼女と本屋で出逢った記憶は無い。いや、何年も前のことを正確に覚えているほどの記憶力はないから“絶対”とは言い切れないが、それでも高校に入ってからの一年強の期間では、道ですれ違ったこともないはずだ。僕の知らない所で彼女だけが僕に気付いたことがあれば知らなくて当然だが、それなら『また逢おう』という表現はしないはずだ。どういうことだろう。
けれど、最近、彼女と出逢った記憶は微かに残っている。時々夢に見る、小学校の裏通りから更に入った横道の傍の、古びた本屋さん。古びていても、商品の保管状態は良好で、どこか安心する雰囲気を醸し出している店。あの店で、いや、あの店に行く途中で、僕は彼女に久し振りに逢い、一緒に本屋さんまで歩いた。
けれど、それは僕の見た夢の中の話。現実の世界の話ではない。まさか、彼女が僕の夢に入って来たとか、逆に僕の見ていたのは彼女の夢だったとか、それともあの本屋は別世界にあって夢の中でこの世界と繋がっているとか・・・
いやいや、何を考えているんだ、僕は。マンガや小説の読み過ぎだろう。そんな、フィクションみたいなことが現実に起こるはずはない。
(この本屋さんにはね、欲しいものを心から願った時に、来れるんだよ)
夢ちゃんが話している。本屋さんの書棚を眺めながら。
(どうして?)
僕も書棚に目を走らせながら、聞いた。
(だって、欲しいものがあるのに手に届かないなんて、寂し過ぎるじやない?)
それは答えになっていないような。
(でも、僕、今日は特に欲しい本なんて無かったのに、ここにいるよ?)
(『欲しい本』じゃなくて、『欲しいもの』だよ。瞬くん、今日は『この本屋さんのことを知りたいっ』って思ったんでしょ? だから来られたんだよ)
(じゃ、夢ちゃんは何を欲しかったの?)
(あたしの欲しいものはねぇ、ヒ・ミ・ツ)
(そんなの狡いよ)
(あはは。乙女に秘密はつきものよ)
「っっ!」
ベッドから落ちそうになって目が覚めた。帰ってから着替えて、ちょっと寝転がるだけのつもりで熟睡してしまったらしい。
また夢を見たような気がする。夢の中で、夢ちゃんにまた会ったような。あの本屋さんについて、彼女が何か話してくれた。何だったかな。
(そう言えば、夢ちゃんのフルネームって・・・)
いや、まさかね。
時計を見ると、そろそろ夕食の時間だ。たまには、母に呼ばれる前に食堂に行っておこうかな。
僕はベッドから立ち上がった。




