第5話・夜店とバイトと
今日の夕方から商店街、通称レンガロードにて夜店が始まる。僕と美羽は電車で地元に帰ってきていた。
北口はすでに準備が進み道路は通行止めになっていた。
「んー……今日はいろいろ回ったな。さて今からどうするか。夜店肉には早いし」
夜店は18時からだがその時間に行くと全て回ってしまう。何かないか考えていると美羽はあることを提案した。
「あ、あの私の部屋に来ますか?」
「え? いいのか?」
「もう少しお話したいですし待ち合わせじゃなくて一緒に行けたら嬉しいです」
美羽は少し照れ隠しするかのようにすこし下を向いた。
「それじゃお邪魔しようかな」
「はいっ」
いつものバスで美羽の住むマンションへ向かった。よく考えたら結構な頻度で行っている気がする。
美羽は鍵を開けて部屋に入り続いて僕も入った。
「これどうするんだ?」
服が入った袋を持ち美羽に尋ねると美羽は部屋の隅を指さし「あのあたりに置いておいてください」と言った。僕は邪魔にならないように部屋の隅に袋を置いた。
「何時頃に夜店行くか?」
「もうそろそろ19時になりますね」
美羽は壁に掛けてある時計を見て時間を言った。
「そういえば美羽は晩御飯どうするんだ。僕は親に夜店行くから要らないって言ったんだが」
「翼君は毎年この日は夜店で食べているんですか?」
「いや、今年が初めてだ。毎年早めに軽く食べてから涼たちと待ち合わせして言ってたからな」
「では軽く何か食べていきますか?」
「どこで?」
「ここでです」
一瞬何かと思ったがつまり美羽が手料理を作ってくれるってことなのか? いやいやいや。そんなはずは……でも流れ的にそうなのだろうか? 一応聞いてみるか?
「もしかして美羽が作ってくれるとか?」
「はいっ」
やる気満々のようだ。断るのもあれだからここは頼むとするか。美羽の手料理気になるし。
「それじゃお願いしようかな」
「任せてください」
美羽はエプロンを付けキッチンに入り料理を始めた。何を作ってくれるのだろう? 楽しみだ。なんかこの光景新婚さん夫婦みたいだ――――って僕は言った何を考えているんだ!
「あ、翼君」
「ななななに!?」
突然声をかけられたため凄く動揺してしまった。僕は一旦深呼吸をした。
「どうしました?」
「別に。それでなんだ?」
「大きめのお皿を取ってもらえますか? カウンターの戸棚に入っているので」
「お、おう」
流し台の逆側にある戸棚をあけると数少ないお皿が何枚か置いてあった。
「これでいいか?」
僕は手のひらより少し大きめのお皿を2枚取り出した。
「それです。ありがとうございます」
お皿をカウンター越しに居る美羽に渡した。盛り付けをしているようだ。すごくいい香りがする。
美羽は先に麦茶の入ったコップとスプーンを2組ずつテーブルに置きキッチンから料理を運んできた。
「お待たせしました」
「おー、美味そう」
美羽が持ってきたのは少し小さめのオムライスだった。
「どうぞ食べてください」
「それじゃいただきます」
僕はオムライスをスプーンですくって食べた。ケチャップライスの味がしっかりしていて卵も口の中でとろけるように消えていった。美味すぎる!
「ど、どうですか?」
美羽は少し緊張したように訪ねてきた。美味すぎてつい無言で食べていたみたいだ。
「うん、凄く美味しいよ」
「良かったです」
美羽は嬉しそうに微笑んだ。
オムライスも食べ終わり少しゆっくりしていると携帯電話の着信音が鳴った。
「ん? 涼からだ」
僕が通話ボタンを押したとたん電話の向こう側から涼の声が聞こえてきた。
「お前夜店来てるか?」
「19時頃行こうかと思っていたんだが」
「今から夜店来てくれ」
僕は部屋にあった時計を見ると時刻はまだ18時になっていなかった。
「何かあるのか?」
「詳しくはあとで伝える。他に誰かいるか?」
「美羽なら居るよ。青葉さんとしのぶちゃんは今日は来ないって言ってたし」
「それじゃ今から二人で来てくれ」
「分かったよ。それでどのあたりにいるんだ?」
「夜店の真ん中に十字路あるだろ? 信号機のある。そこの近くに焼きそばの屋台があるからそこに来てくれ」
「分かった」
「それじゃ待っているからな」
「おぅ」
涼はすぐに電話を切った。何やら急ぎの用事らしい。
「なんか涼がもう来て欲しいってさ。準備大丈夫?」
「私はいつでもいいですよ」
「それじゃ行くか」
僕と美羽はマンションを出てバスに乗り涼のいる場所に向かった。
商店街ではすでに人が多くいた。涼がいるという焼きそばの屋台を見つけそこに行くと屋台で準備している涼の姿があった。
「お、やっときたか」
「お前何やっているんだ?」
「バイトだよ。ここの屋台の人俺の親戚のおじさんがやっているんだ」
「それで僕たちを呼んだ理由は?」
「さっきおじさん腰痛めたらしくてさ、代わりに手伝ってくれないか? もちろんバイト代は出るぞ」
「んー、どうしよう。美羽はバイトやってみたいか?」
「やりたいです!」
美羽は物凄く興味深々だった。そういえば美羽はこういうの好きそうだ。
「それじゃ手伝わせてもらうよ」
「ありがとう」
「それで何をやればいいんだ?」
「俺が焼きそば作っていくからそれをパックに入れていってくれ。量は大体これくらいだ」
涼は焼きそばの入ったパックを一つ見せてきた。大体の量は分かった。でもこういうのは初めてだから実のところ結構わくわくしていた。
「わかった。」
「私は何をすればいいですか?」
美羽は目を輝かせていた。まるで今からどこかの遊園地に行くのか? と聞きたいくらいのわくわくオーラが溢れていた。
「それじゃ天野は接客とレジやってくれ。電卓とおつり用の金はそこの箱に入ってるから」
涼が指を指す方には小さくて黒い金庫が置いてあった。金庫は盗まれないようにワイヤーで屋台の柱と繋げてあった。
「分かりました」
そして18時になると各屋台からは威勢のいい声が聞こえてきた。浴衣を着た人や学生の団体、祭りの関係者であろう老人などいろいろな人が大勢やってきた。あっという間に商店街は渋谷のスクランブル交差点のように人が溢れた。
でもなかなか焼きそばを買っていく人が増えなかった。詰めたパックも増えていくだけだ。
「何か作はないか……」
涼は何かないかと考えていると美羽が店前に出て呼び込みをし始めた。
「焼きそばいかがですかー!?」
「おい天野。そんなことしてもこの人混みと騒音の中じゃ……」
すると一人の男性がやってきた。
「あの焼きそば1つ良いですか?」
「ありがとうございます!」
それを始めに次々焼きそばが売れていった。
「一体何が?」
涼は唖然としていた。さっきまであった焼きそばの山が次々売れていくのだ。
パックを次々客に渡していく途中僕はあることに気が付いた。列に並んでいる人は全員携帯で何かを見ていた。もしかしてと思い僕は携帯でとあるSNSを見た。するとそこには地元の祭りのことが書かれていた。そこにはこの祭りに可愛い子が居るとのタイトルだった。コメントには『さっき買いに行った』『めっちゃアニメ声w』『アイドルなのか?』『マジ天使だったわ』などなど書かれていた。途中からは焼きそばとパック詰めが追いつかないくらい売れていき祭りの終了時刻30分も前に全ての在庫が無くなってしまった。
「疲れたー」
涼はその場に崩れるかのように座り込んだ。
「結構早く売れたな。これも美羽のおかげだ」
「私は何も」
美羽は自分がどんなことをしていたかは知らないだろう。今後もその事は秘密にしておくかな。
「さて俺はおじさんのところに金庫渡して片付けするわ」
「僕も片づけ手伝うよ」
「私も手伝います」
「お前たちは夜店でも回って来いって。これ今回のバイト代な」
そう言って涼は金庫の中からお金を取り出し1人3000円ずつ渡してきた。
「こんなに貰っていいのか? 2時間くらいしかやってないのに」
「さっきおじさんに言ったらボーナスだとさ。ほら夜店終わっちまうぞ」
「それじゃお言葉に甘えて」
「ありがとうございます」
僕と美羽は涼から今日のバイト代を受け取り夜店巡りすることにした。美羽と夜店を回るのはこれで2回目になる。
屋台を見て回っているとクレープ屋の屋台を見つけた。
「美羽、クレープ食べるか? 奢るよ」
「いつも奢ってもらっているので今回は私が奢ります」
「それじゃ買ってもらおうかな」
僕と美羽はクレープ屋の前に行った。屋台前にはメニューが書かれた看板が置かれている。4種類くらいだろうと思っていたが予想以上に種類があった。
「翼君は何にします?」
「んー。種類が多くて悩むな……。よし、美羽と同じのにするよ」
「分かりました。すみません、このイチゴ&ブルーベリークリームを2個お願いします」
「はいよ」
屋台のお兄さんはクレープ生地を手際よく作っていった。これは見ているだけでも面白い。あっという間に2個出来上がった。
僕と美羽はそれを受け取ると少し人が少ない場所に行き近く空いていたベンチに座って食べた。
「甘くて美味しいですね」
「だな。クレープ食べるの何年ぶりだろう」
僕は懐かしいクレープを味わっていた。
「去年の夜店では食べなかったんですか?」
「ここのクレープ屋は毎回出てないんだよ。最後に出店してたのが2年前だったかな? でもその頃はなぜか食べなかったな」
そういえばここに涼や青葉さん、しのぶちゃんが居ないのなんて何年ぶりだろう。小学生の頃から一緒にいるから今までそれが当たり前になっていたな。
そのあともいろいろな夜店を巡りあっという間に時間になった。空は完全に暗くなり町は街灯の明かりに包まれた。そして夜店も終わり僕と美羽は近くの公園で休むことにした。
「楽しかったですね」
「そうだな。来年こそはみんなで行こう」
「はいっ」
すると突然美羽の目の前に光の塊が現れた。このパターンはもしかして……。光は徐々に消え中から黄色い羽が出てきた。
「今回は橙色の羽根なんだな」
「そうですね」
「ところで今回の条件って何だったんだ?」
「えーっと橙色は〝好奇心〟ですね。今日一日楽しんだのでそれで出たんです」
美羽は嬉しそうに羽根を月にかざした。
「知らない間に達成していたんだな。でも言ってくれればいろいろ出かけたりしたのに」
「この羽根の条件にはもう一つあって本当に楽しむことなんです。なので故意で達成は出来ないんですよ」
「そういう条件もあるんだな」
「そうですね。それじゃさっそく」
そう言うと美羽は羽根を胸に当てた。羽根は吸い込まれるかのように美羽の体へと入っていった。
「そろそろ行くか」
「そうですね」
僕と美羽は公園を出てバス停がある駅へ向かった。
ども藤桜です
最近作詞もしていてなかなかこちらに手が回らなくて……
いよいよ次回は学校2学期です
@huzizakura




