第3話・美羽と青い羽根
時刻は午前10時前。今日は羽根集めを手伝おうか考えていた時、携帯電話が鳴った。
『美羽かな?』
画面を見てみるとそこには〝涼〟と書かれていた。
遊びの誘いか何かだろう。僕と涼は最近新しいゲームの新シリーズを買ってやっている。ネットで通信も可能だが実際に集まってやった方が何かと楽しいからな。
僕は携帯の通話ボタンを押した。
「もしもし、なんだ?」
「今日暇か?」
「まぁ暇だけど」
さすがに美羽の羽根集めの手伝いなんてことは言えないからな。
「ちょっとお願いがあるんだけどさ」
一瞬アイテム集めか? と思ったが僕は察した。毎年夏休み終了間際にある出来事を……
涼は中学の頃から長期休暇の最後の方に電話をしてくるのだ。一応僕は涼に聞いてみた。
「もしかして宿題か?」
「お、よくわかったな! それじゃ――――」
「断る」
僕は一方的に電話を切った。
さて美羽のところに電話でも――――とおもったら再び涼から電話が来た。
しかたない一応出てやるか。
再び通話ボタンを押すと「いきなり切るなよ」と涼が言ってきた。
いきなり切るようなことを言う方が悪い。と言おうとしたがさすがにかわいそうか。
「どうせ手伝って欲しいってことだろ。それなら青葉さんに手伝って貰えよ」
正直言うと手伝うのが面倒だ。青葉さんなら面倒見が良いからやってくれるだろう。
「実はもう終わってるって言っちまってよ」
「自業自得だな」
「だから頼む!」
電話越しだがその気持ちがなぜか伝わってきた。
「しょうがないな。あとどれくらいだ?」
「問題集が残り5ページあるんだ」
「5ページって…… 夏休あと1週間以上あるんだから余裕で終わるだろ?」
「実は今日の午後に青葉に見せる約束をしててだな……」
その時、僕はあの時のことを思い出した。
先日涼は宿題を終わらせる代わりにテキストのページ数を減らしてもらう約束をしていたのだ。
「そう言えば今日が期限か」
「そうなんだよ。翼はもう終わってるだろ?」
たぶん涼は僕が終わってることを期待してるのだろう。終わってたら写すつもりだな。まぁそんなことは無い。何でかと言うと――――
「でも残念ながら僕もまだ終わってないんだ」
「写せねーじゃん!」
やっぱり。こうなることは分かってる。
「慌てるなって。助っ人を呼んでやるよ」
「マジか! さすが親友! 11時にはそっち行くわ」
「はいよ」
そう言って涼は電話を切った。
そのあと僕はすぐに助っ人に電話をした。
「もしもし? 今から家に来てもらって良い? 実は――――」
助っ人はすぐに話を受け入れた。あの人ならすぐに受け入れるだろうと思った。まぁ別の目的で来ることくらいは分かっている。
時刻は午前11時。部屋で待っているとインターホンが鳴った。1階に下り、玄関のドアを開けると涼が立っていた。
「ういーっす」
「ん? 何しに来たんだ?」
少しボケてみた。
「いやいやいや! 宿題手伝ってくれるんだろ!?」
ちっ、覚えていたか。あわよくば忘れてくれたらよかったんだが。さすがに数時間前のことを忘れるほどこいつは馬鹿じゃないか。
「そう言えばそう言ったな」
「ったく……そんで助っ人は?」
「今部屋で待ってもらってるよ」
「3人ならすぐに終わるぜー!」
3人? 僕は手伝う気は無いというか自分の分があるからそんな余裕は無いのだが突っ込むのが面倒だったからスル―した。
僕と涼は部屋に向かった。部屋には20分ほど前から居る助っ人が待っている。
僕は部屋のドアを開けた。部屋からは冷たい空気が流れ込んできた。
「涼を連れてきたぞ」
「ういーっす……って、あれ?」
涼は部屋に入る直前で立ち止まった。
「どうしたんだ?」
「えっと、助っ人って……?」
涼は見てはいけないものを見たかのような表情だ。確かにこの助っ人は涼にとってある意味天敵だ。
その助っ人とは――――
「うん、青葉さんだよ」
「ハロー」
青葉さんは涼に対してニコやかに小さく手を振った。涼は夏だというのに顔が青ざめていた。
「俺ちょっと用事がー」
静かに引き返そうとしたが「涼、待ちなさい」という優しいようで怖い言葉が聞こえた。
「はいっ!」
涼はその場で固まった。まるで蛇に睨まれた蛙るのようだ。
「宿題終わったって言ってたわよね?」
「えっとそれはその……」
涼は眼をそらした。それに対して青葉さんは涼の眼をじっと見つめた。そして決断が下った。
「罰ね」
そういうと青葉さんは涼に対し見事な関節技を決めた。これはあの有名な関節技。まるで本物のプロレスを見ているかのような気分になったが涼はそうではなかった。
「ぎゃーーーーーーーーー!!!ごめんなさいごめんなさい!」
痛さのあまり床を手のひらで叩いて降参を求めた。
「でも宿題をやろうとしたことだけは認めてあげる」
そう言って青葉さんは関節技を解いた。
まるで魂が抜けたように涼はその場に倒れた。こんなの漫画でしかない光景だがこれが僕たちの日常の一コマにあるんだ。
「翼これはないだろ……」
涼は床にうつ伏せになりながら言った。
「ごめんって。僕も終わってないから一緒に頑張ろうな」
「うん……」
青葉さんもすこしは手伝ってくれることになった。
僕と涼は問題集をやってい青葉さんは分からないところを教えてくれた。
刻々と時間が過ぎていく。
先に終わった僕は漫画を読み、青葉さんは涼の宿題を手伝った。
気がつくと時刻は午後12時を回っていた。
青葉さんは涼の問題集と答えを照らした。
「うん、大体正解かな。これで問題集は終わりね」
「んーーーー……終わったーーー!」
涼は伸びをしたまま叫んだ。
「おつかれー」
僕は読んでいた漫画を本棚にしまった。
「俺、腹減ったー。昼食べに行こうぜ」
「私はどこでも良いけど」
「涼はどこが良いんだ?」
「俺は翼に任せるよ。思いつかね―し」
「それじゃハンバーガーにしよう」
「決まりだな」
僕と涼と青葉さんは駅前のファーストフード店に来た。ここは夏休みに入ってすぐの時に美羽と来た場所だ。あれから色々あったな。
各自注文を終えてテーブル席についた。やっぱりこの時間は混んでいるな。近くにシネマもあるから子供連れの親子やたぶん高校生だろう集団も居た。
「このあとどうする?」
僕は涼と青葉さんに質問した。
「私は14時から楓と買い物に行く約束してるの」
さすがはお姉さんって感じだ。ほんと姉妹仲が良いな。
「俺は少し寝ようかなって」
「寝る? お前もしかして」
僕は昨晩涼が徹夜でゲームをやると言っていたことを思い出していた。
「そのもしかしてだ。おかげで欲しかった装備は出来たぞ――ふわぁ~~……」
涼は大きなあくびをした。
「あの装備をそろえるってどれだけやったんだよ……」
普通1週間かけてゆっくり揃える装備を涼は一晩で出したみたいだ。
二人が忙しいとなると僕はどうするか……。考えていると携帯が鳴った。見てみると美羽からだ。内容はテキストを教えてほしいとのこと。それと羽根を出すことができるかもしれないと書いてあった。
「美羽がテキスト教えて欲しいそうだから行くよ」
「そう。それじゃまた今度みんなで遊びましょ」
「そうだな。久々にどこか行くか。涼、場所考えといて」
「俺かよ。まぁ良いか。そんじゃ決まったらメールするわ」
「おう、それじゃ」
僕は飲み物を一気に飲み干し、先にファーストフード店を出て駅に向かった。今日は自転車ではなくバスで行こう。
美羽の住むマンションまで行くバスは僕らが住む南口は逆の北口にある。
バスで15分ほどでマンションに着いた。
部屋のインターホンを押すと美羽が出てきた。
「どもー来たよ」
「こんにちわ。突然すみません。どうぞ上がってください」
美羽は真っ白なワンピースを着ていた。なんと夏らしい格好。
「おう」
部屋に上がりいつものテーブルの前に座った。相変わらずそれほど物がなく片付いた部屋だ。
僕は麦茶を貰い少し飲むと本題に入った。
「それでテキストやれば羽根が出るのか?」
「はい。今回出る羽根は青色なんです。青は”知識“を象徴していて」
美羽はテキストをテーブルの上に置き向かいに座った。
「なるほど。つまりテキストで知識を高めれば良いてことか」
「そうです。でもどれくらいやればいいのか分からないので……」
「出るまで勉強付き合ってやるよ」
「良いんですか?」
この笑顔はいつも思うが恐ろしい。
「羽根集め手伝うって言ったからには最後までやりたいからな」
「ありがとうございます!」
美羽はテーブルにテキストを広げ、僕の隣に座った。
なんという良い香り。じゃない、テキストを手伝わなければ。
「美羽は勉強できる方じゃないのか? てっきりそうかと思ってたが」
そう言えばいつも何気ない会話しているがこの世界のことや夏休みの最初にゲームセンターでやったクレーンゲームなど呑み込みが早い気がするんだが。
「数学や物理などはほとんど同じですが歴史や地理などは全く違うものなので。でもある程度は分かります」
そういえば美羽は毎年この世界に来てるって言ってたな。それなら多少は分かるだろう。それじゃ高校の範囲と一応中学後半の範囲を教えてやろう。
「それじゃ始めるか」
美羽は歴史と地理を集中に勉強をした。
「この世界は歴史が面白いですよね。日本は日本の歴史がありますし」
美羽はテキストを見ながらクスッっと笑った。
「そうか? 向こうの世界はどんな問題なんだ?」
「えーっとですね。確か一応向こうのテキストを――――」
美羽は立ち上がると前に買った本棚から一冊のテキストを取りだした。それを見た僕は驚いた。
「えーっとこれは……」
問題どころじゃない。そもそも文字が違うのだ。僕は美羽にそのことを言った。すると美羽は「あ、今読めるようにしますね」と言ってテキストに手を当てた。すると文字は徐々に僕たちの知る日本語になった。
「これで読めますか?」
「読める読める。えーっとなになに……」
問題を読むとこれは歴史だな。問題内容はほとんど理解できないものだった。
「だ、大天使教会? なんだそれ」
「これはこの世界でいう国会みたいなものですよ。ちなみに答えは3番です」
美羽があっさり答えた。答えのページを見てみると当たっている。このレベルならきっとこっちの問題も覚えるのすぐだろう。僕は歴史の年号問題などの覚え方や地理を教えた。美羽はハイペース覚えていった。
あっという間に2時間は経っただろう。気がつくと美羽はテキストの歴史と地理をほとんど終えていた。
「答えこれで良いですか?」
美羽は終わったテキストを見せてきた。答えと合わせてみるとほとんど正解していた。これはある意味恐ろしい。
「覚えるの早いな。それにしても羽根はどうだ?」
「出る気配はありませんね」
でもここまで完璧なのに一向に羽根が出てこない。何かが間違えているのか?その後も僕と美羽は他の科目の問題を解いたりしていった。
気がつくと時間はもう16時を回っていた。
「出ないな……」
「そうですね」
やっぱり元から知識のある美羽には無理があるのだろうか? 勉強以外で何かないかな……。僕は辺りを見た渡したがそれらしきものはもちろん無い。
「喉渇いた。麦茶貰って良いかな?」
「良いですよ。冷蔵庫の中にあるので」
「分かった」
僕はコップを持って立ち上がりキッチンに向かった。と言ってもすぐ目の前にキッチンがあるが。冷蔵庫を開けて麦茶を取りだそうとした時ある物が目に入った。
それは熱を冷ますシートだ。しかも1枚だけなぜ冷蔵庫に? どう見ても間違えて入れたってわけでもないし……そもそも美羽がそんな間違いはしないだろう。一応聞いてみるか。
「美羽、なんでこれが冷蔵庫に入っているんだ?」
シートを出して美羽に見せた。
「そうやって冷蔵庫に入れておくと効果が増すらしいんですよ。この前お昼にやっている〝ヒルデスヨ〟って番組でやっていました」
「なるほど」
あの番組か。確かに色々面白いことを紹介してくれるし雑学が覚えられるよな。
その時僕の脳裏にある考えが浮かんだ。もしかして……
僕は持っていたコップに麦茶を注ぎそれを一気に飲み干すとコップを流し台に置き、先ほどの位置に戻った。
「なぁひとつ聞きたいんだが」
「なんですか?」
「アイスに賞味期限も消費期限無いこと知ってるか?」
僕は先日テレビで見た雑学を言った。
「そうなんですか? はじめて知りました~」
美羽は驚いた表情を浮かべた。
僕が思った可能性とは雑学だ。いくら勉強ができる人でも雑学までは勉強していないだろう。
僕は知る限りの雑学を教えてみた。美羽は興味心身に教えた雑学をこまめにノートに書き込んでいった。
さすがに一人の人間が持ってる雑学もここまでか……僕が最後の雑学を話し終わった瞬間美羽が書いていたノートが青白く光った。まさか……
そのまさかだった。光が徐々に消えていき青い羽根が出てきた。
「やっと出てきたな~」
羽根はノートの上で微かに光を放っていた。
「それじゃさっそく」
そういうと美羽は青い羽根を手に取りそれをそっと胸に当てた。青い羽根は美羽の体の中にスッと入っていった。
「これで3枚目だっけ?」
「はい、これで黄と赤と青ですね」
美羽は嬉しそうに微笑んだ。あとは4枚か。そのうち1枚はまだ思い出せないのだろうか?でももしかしたら――――
「そういえば最後の羽根は分かったのか?」
すると美羽は一瞬戸惑いつつ「えっと、あの……まだ思い出せないです」と答えた。
実は分かっているのではないだろうか?まぁ最後の1枚になった時は言うだろう。
「思い出したら言ってくれ」
あまり深くは探らないでおこう。美羽も人には知られたくないことくらいあるだろうし。
「分かりました」
「それじゃ僕は帰るわ」
僕は立ち上がり玄関に向かった。美羽も見送りのため立ち上がり玄関に来た。靴を履きドアを開け「また明日」と言うと美羽は「はい」と言って小さく手を振った。
まだ日が伸びている。明るいから歩いて帰るか。僕は家まで歩いて帰った。
どうも~藤桜です
3話読んでいただきありがとうございます
2話の後編にする予定でしたが話の内容から別のタイトルになりましたw
やっと羽根も3枚です
残りの4枚の羽根と思いだせない1枚とは一体!?
次回もよろしくお願いします!




