45 美術館
モモは本を閉じる。
「はぁ〜読み終わっちゃった」
周りには少女漫画が散乱している。
どうしたらこんな出会いができるんだろう?
私もバイトとかしたら出会えるかな?
スマホでバイトを調べてみるが、ピンと来ない。その時、着信音が鳴った。
表示に珍しい名前が浮かぶ。
「武尊さん?」
電話に出るモモ。
「モモちゃん、今暇?」
武尊の軽い声が聞こえてくる。
一時間後、モモは駅前で武尊を待っていた。
「ごめん、待った?」
お決まりのセリフを言いながら、武尊が走ってきた。
「今きた所です」
またまてお決まりのセリフをモモは伝える。本当に今着いたところなのだが。
「じゃあ行こうか」
二人は美術館へ向かって歩き出す。
武尊からのお誘いは、美術館だった。巡りたいと言っていたのは嘘ではなかったらしい。
「いい美術館ないかと思って探してたら、今日までの展示会見つけちゃって。モモちゃん誘ってって言ってたから、電話しちゃった。本当に予定なかった?」
武尊が心配そうな顔を向ける。
「なかったです。丁度、暇だなって思ってました」
「なら良かった」
武尊が笑う。
その美術館はこの前の場所より小規模だったが、落ち着いて見られた。
常設展示は、現代絵画が飾られている。人物画が多い。
どうしてこんな色彩にして描けるんだろう?
絵を習った事もないモモである。しかし、見ていると何故か心が動かされるのである。
期間限定の展示はお面だった。
世界のお面や、日本のお面が沢山並んでいる。
「武尊さん、お面興味あるんですか?」
モモは意外だった。いつも軽い雰囲気の武尊が、こんな伝統的で重厚感のある展示に興味があるとは……
「職業柄ちょっとね。っていうかモモちゃん、今失礼な事考えたでしょ?」
武尊がモモを睨む。
「えへへ、バレました?」
武尊さん、鋭いんだよなぁ。
展示を見るスピードが二人は似ているらしく、互いがストレスなく進む。
最後の方に「絵付け体験」の看板が出ていた。
「狐のお面? やってみたいです」
モモが武尊を引っ張る。
「え? そう?」
武尊は少し複雑な顔をして、すぐいつもの顔に戻った。
「じゃあやろーか」
並んで座ると、真っ白な狐の面を渡される。
「筆で描いてくださいね。コチラは見本ですが、好きなように描いてみてください」
見本の面は、まなじりと口が赤く、目は金色。
迫力がある狐面である。
モモは何色にしようか考える。
「モモちゃんどんな面にするの?」
「そうですね、カッコいいよりはかわいいに振り切ろうかと思います!」
そう言うと、ピンクの筆を取る。
「かわいいかぁ。それもいいね」
武尊は考える素振りも見せず、色を塗っていく。
モモはそっと武尊を盗み見る。いつもの姿よりも、なんだか神聖な雰囲気だ。
「なに? 俺に見惚れてるの?」
武尊が軽口をたたく。
「そんなんじゃ……いや、そうかもしれません」
モモの言葉に動揺する武尊。
「え?」
「冗談です。いつもと違うから気になったんです」
そう言うと、面制作へと戻る。
「……」
ちょっとムッとして、武尊も面に色を塗る。
小さい時から、狐のお祭りには面を付けていった。自分で色を塗った狐面。武尊からしたら、久しぶりの作業で見慣れた物である。
この前舞った時に付けていた狐の面は、代々受け継がれてきた面だ。
あの時は満月が綺麗だったな。
「できた!」
隣からの元気な声で、はっとする。
「武尊さんもできました?」
モモが面を覗き込む。
「うん、出来たよ」
武尊も筆を置く。
「すごい……!」
モモは感動した。すごい以外の言葉が出てこない。
「お兄さん、上手ですね! 美大の方ですか?」
展示を運営している人も驚いている。
「いえいえ、普通の大学生ですよ。お面は少し馴染みがあるだけで」
武尊が笑って対応している。
その狐面は、一般的な赤の部分が紫になって、目は笑っているようだ。今にも動き出しそうで、触れてはいけないような、恐れをいだかせる。
「モモちゃんの見せて?」
武尊はモモの狐面を見て吹き出した。
「なんで笑うんですか!」
「だって、そんなピンクの狐……!」
モモの狐面は、ほぼピンク。目はウィンクしているようだ。確かに、武尊の面と比べると大人と子どもである。
武尊はツボったらしく、ずっと笑っている。
二人はお面を入れた袋を持って、美術館から出る。
「モモちゃん、お願いがあるんだけど。俺のお面と交換しない?」
武尊がお願いのポーズをしている。
「え? あんなに笑ってたのに?」
モモは驚いてついタメ口になってしまった。
「バカにして笑ってた訳じゃないよ、可愛くって笑ってたの」
武尊が頭を掻く。
モモはドキっとする。今、かわいいって言った……
「だって、そんなかわいい狐面初めてみたからさ」
お面がかわいいってことね!
少しムッとするモモ。自分の事をかわいいと言われたと思い、少し嬉しくなった自分が恥ずかしい。
「ね、交換して?」
「いいですよ!」
「やった!」
武尊は嬉しそうにモモの面を受け取った。
「武尊さんのお面の方が絶対上手なのに、いいんですか?」
自分が美術に疎いことは知っている。
「いいの。これ見ると元気になる」
そう言うと武尊は嬉しそうに笑う。
「それなら良かったです」
小さい声で答える。そんなに褒められると照れるものである。
「いやー楽しかった! また行こうね?」
嬉しそうな武尊である。
「はい!」
モモは嬉しくなって、元気よく答えた。
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