44 風鈴
カイさんが彼氏になった。
その事実にまだ心が追いついていない。しかし、気付くとニヤけている自分がいる。
スマホの通知音
『おやすみ』
その一言だけで、ソラは何とも言えない幸せな気持ちになる。
恋愛って恐ろしい……
◇
翌日、モモに打ち明けた。
「おめでとう〜! まぁ、側から見てたら両思いなのすぐ分かったけどね」
「え! そうなの!」
ポカンとするソラ。本人同士は、なかなか気が付かないものらしい。
「おはよー」
ヤマトが後ろから挨拶してきた。
「おはよー」「おはよ」
通り過ぎていくヤマト。
「ん? ヤマト君ともなんかあった?」
モモが小声でソラへ聞く。
「実は、昨日保健室でばったり会って、告白されて断ったの」
「ええ! やっぱ諦めてなかったのか」
「ソラってモテるよね〜。羨ましい」
上を見るモモ。
「そんな事ないって」
手を振るソラ。しかし、幸せオーラがとても出ている。
こりゃ、ますます可愛くなって、モテちゃうなあ。
友達として心配するモモである。
「学校では私が守ってあげるからね!」
「どうしたのモモ?」
二人は仲良く教室へ着いた。
◇
カイは部屋でぼーーっとしていた。
だめだ、ニヤけが止まらない。
今日は授業がない。お店は、玲央が買い出しついでに寄ってくると言っていた。つまりオフである。
トントン
ドアがノックされる。
「どうぞ」
起き上がり声をかけると、ドアが開いた。
「カイさん、おはようございます。今日は狸の集まりがありまして、お暇をいただきます。ご挨拶に来ました」
いつぞやの狸君である。
だいぶ仕事も言葉も勉強も、出来るようになった。もうすぐ一人立ちになるだろう。
「分かりました。気をつけて行ってらっしゃい」
カイが声をかける。
「はい。ありがとうございます。カイさん、狸縁の神社で秋祭りをしてるので、良かったら覗いてみてください」
チラシを差し出す狸君。
神社の宣伝も忘れないなんて、武尊に似たのかもしれない。
「ありがとう。行ってみるね」
狸君が去ると、チラシを見る。
風鈴が沢山奉納されているらしい。チラシの写真は色とりどりの風鈴か揺れていて、さぞ映えそうである。
これ、男一人で行きずらいな……
そして、閃いたのであった。
◇
ソラのスマホが震える。
カイさんからだ!
ドキッとするソラ。
『土曜日、時間あったら一緒にここ行かない?』
メッセージのURLをクリックすると、神社と風鈴の写真が現れた。とても綺麗だ。
『行きたいです』
メッセージを送るソラ。
土曜日が待ち遠しくなった。
◇
土曜日当日、カイさんがソラの家まで迎えに来てくれた。
神社の境内には、何千もの色とりどりの風鈴が揺れていた。
「わぁ」
なんて幻想的なんだろう。
手水の中には花が浮いている。
モモがかわいー! と話していた神社の手水を思い出す。
画像で見るのと、実際に見るのとでは、やはり違う。とても可愛らしい。
「狸君の紹介で行こうと思って。ちょっと男一人だと浮きそうだったから……付き合わせてごめん」
カイは少し困った顔で言った。
「いえ、とても素敵な神社ですね! 誘ってもらってありがとうございます」
ソラはウキウキしながら、花が浮いている手水を写真に撮っている。
楽しそうでよかった。
「風鈴の所も行きましょう!」
早歩きで向かおうとするソラ、石畳で躓いた。
あ!
カイがソラの手を掴む。
「おっと! セーフ」
ニコッと笑う。
「ありがとうございます」
小さい声でお礼を言う。
びっくりした!
「ソラちゃんて、ほっとけないんだよね」
そう言うカイは、手を繋いだままだ。
「カイさん、手……」
「うん、嫌?」
首を大きく振るソラ。
「嫌じゃないです」
「良かった」
カイはソラを見て微笑んでいる。ソラは恥ずかしくて、俯いている。
「ソラちゃん、上見て?」
ソラが顔を上げると、いつの間にか風鈴の中に来ていた。
「すごい!」
感動するソラを見守るカイ。チリンと軽やかな音がする。風が吹いた。一斉に鳴り出す風鈴。
その光景と音に圧倒される。
「すごいですね」
「すごいね」
二人はしばらくそのまま佇んでいた。
水みくじをやってみた。
水に紙を浸すと、吉凶が浮かび上がる仕組みだ。
「俺、吉」
「私、中吉です!」
「それってどっちのがいいんだっけ?」
考え込むカイ。
「えっと……どっちでしょう?」
顔を見合わせて笑う。
「狸君は元気ですか?」
「うん。家で働きながら勉強してるんだけど、大分様になってきたよ」
ソラは狸君が困っていた時、助けた事がある。
「それは良かったです!」
「この後どうする?」
カイが訊ねる。
「えっと」
困るソラ。
特に予定は無いが、プランも無い。
「帰る?」
歩き始めるカイ。ソラは急に寂しくなった。
「あの!」
カイの服の裾を捕まえる。
振り向いカイには、照れているソラが見えた。
「一緒にいたいの?」
顔を覗き込むカイ。
「うっ……」
目を逸らすソラ。
「ソラちゃんかわいい」
カイがソラの頭をポンポンしながら微笑んでいる。
「お昼食べに行こっか?」
「はい」
カイがソラの手を握る。
二人は手を繋いで歩き出した。
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