29 お祭り
カイは新幹線の窓から外を眺めながら、肘をついて不貞腐れている。武尊に連れられて、狸会議に出る事になったのだ。
「狸君が、カイの事を恩人だって家族に話したらしくて、それを聞いた狸の方々がぜひ招待したいって」
「ええ?」
武尊を睨むカイ。
「橘家は時々出席するし、カイも一回くらい行っといてもいいかなって会長も玲央も言ってたよ」
自分のいない所で、勝手に決められていた事実にまた不機嫌になる。
「狸会議って具体的に何するのさ?」
「宴会」
「はぁ〜」
盛大なため息をつくカイ。自分は酒豪ではないし、愛想のいい顔をずっと貼り付けておくのも疲れる。そもそも飲み会も好きではないカイである。憂鬱しかない。
「ソラちゃんも愛媛にいるんでしょ? もしかしたら会えるかもしれないよ?」
武尊が囁く。
「愛媛って言ったって、狸会議は旅館貸切だろ?」
「まぁ、そうなんだけど〜」
武尊はニッコリ笑う。
「俺は色んなお酒飲めるから、結構楽しみだなー」
武尊はかなりの酒豪である。酔ってるところを見たことがない。
「楽しそうで何よりだよ」
ご機嫌な武尊と、不機嫌なカイは愛媛に到着したのだった。
◇
翌日の夕方、ソラとリクとミツキは三人で神社のお祭りへ行く事にした。
おばさんがソラにどうしても着せたいと、浴衣を着付けてくれた。白地に紫の朝顔が描かれている。
「ソラちゃん似合う〜」
おじさんがニコニコしながら頷いている。
「女の子はいいわねぇ。着せがいがあるわ!」
おばさんが職場の人から貰ったらしい。
「浴衣着るの子どもの時以来です」
鏡の前の自分を見る。この前の、霊の桜に少し似ている気がする。
自分は生まれ変わりだって言ってたけど、じゃああの霊は思いとか、かつての未練とか、そういう物なのだろうか?
「ソラ浴衣姿もかわいいなぁ」
リクの発言に我に帰るソラ。
「ミツキ兄、お祭り友達や彼女と行かないの?」
ソラはリクの発言を無視して聞いてみる。
「地元すぎて最近行ってないな。あと、今彼女はいねーからな」
「珍しい! ミツキって中学の時からずっと彼女いたのに」
リクとソラが不思議そうにミツキを見る。
「最近別れたんだ」
少し寂しそうな表情の従兄弟に、ソラは驚いた。まだ未練がありそうな顔だ。
「まあ、そういう事もあるよな! 元気出そう」
リクは何だか嬉しそうだ。恐らく彼女がいない自分と同じだからだろう。
お祭りは歩いて行ける距離だ。花火の音が聞こえる。
浴衣を着てお祭りなんて、モモに言ったら大興奮しそうなシチュエーションだなぁ。
結構人で賑わっている。子ども連れや、カップル、女の子同士ではしゃいでいる姿。ソラもウキウキしてきた。
「お兄ちゃん何食べる?」
「俺はからあげ」
「私もからあげ食べたい」
「おっし。買ってくる!」
兄はそそくさと、からあげの屋台へと走る。
「相変わらず妹に甘いな」
ミツキは呆れている。
「ミツキ兄は何食べる?」
「なんで食べる限定なん?」
「え? お祭りって食べる以外することあるの?」
本気で目を丸くするソラに、ミツキは吹き出す。
「ソラって天然だよな」
「ミツキ君?」
前から来た女性の二人組が足を止めた。
「おー」
ミツキが少し驚いて、静かに対応する。
「なんか久しぶりだね」
おかっぱの髪型で、ワンピース姿の女性が声をかけてきた。
「そうだな」
ミツキは辿々しい。
「そちらの方は、もしかして彼女?」
「えっと……まぁな」
ソラがギョッとしてミツキを見る。
「ほーなん。ミツキ君も元気そうでよかった。じゃあね」
手を振って去っていく二人組。
見えなくなった所で、ソラはミツキを問い詰める。
「彼女って?」
「ごめん! あれ、最近別れた元カノでさ……見栄張った」
気まずそうに俯くミツキ。
「……なんで見栄張るの?」
「別れた原因が、向こうに好きな奴ができたって急に。だから、俺だってもう次の彼女いるんだぞって見栄だよ」
頭を掻きながら悲しそうに笑うミツキ。
「そんな」
それは切なすぎる。ソラが何も言えないでいると、ミツキは笑った。
「ソラが気にする事ないぞ。ほら、からあげが走ってきた」
指差す方向にリクが見えた。
せっかく好き同士でいたのに、そうじゃなくなってしまう事もあるんだな。
少しミツキが大人に見えたソラであった。
◇
神社の奥は屋台がなく、比較的静かだ。
ベンチを見つけ、そこに座るソラ。
ミツキは地元の友達と会って話しており、リクは綿飴の列に並んでいる。
あんず飴を食べながら、時々上がる花火を見上げる。
カイさんと見たかったなぁ。
ふと思った自分の気持ちに自分で驚く。その時誰かが隣に座った。横を向くと、袴姿の白い少年が座っていた。
「あれ? かくれんぼの時の」
思わず話しかけてしまったソラ。でも、確信があった。この少年は人ではない。
「あぁ、あの時の迷子の子だね」
少年はソラを見て微笑む。
「あなたはこの神社に住んでるの?」
「そうだ。時々人と話したくなってね」
ソラに怖さはなった。不思議な現象に慣れたからなのか、この少年が怖くないのか。
「あの時は、助けてくれてありがとうございました」
ソラがお礼をする。
「ふふ。時々いるんだよ。かくれんぼしてて迷子になる子ども。だから気にしないで」
こちらへ向かってくる足跡が聞こえた。ソラが遠くにリクとミツキを見つける。
隣を見ると、あの少年はいなくなっていた。
神社を後にした三人。
「ちょっとコンビニ行きたい」
ミツキが手を挙げる。
「俺も行きたい」
リクも手を挙げる。
ソラはコンビニ前で兄達を待つ。お祭り帰りの人達もチラホラいる。スマホゲームを真剣にやっていると、
「ソラちゃん?」
頭上からの声に顔を上げる。そこには見慣れた顔が。
「カイさん!」
驚きすぎて、スマホを落としそうになる。
「わぁ、浴衣かわいいね」
横から武尊がひょっこり現れた。
「あ、武尊さんも? なんで?」
カイの顔しか見ていなかった。
「狸会議に参加する事になって、まさかソラちゃんと会えるなんて」
カイさんが嬉しそうに笑う。
ソラも自然と顔がニヤける。
「そうだったんですね!」
「うちの妹に何か?」
リクとミツキがコンビニから出てくる。
「あ、お兄ちゃん、ミツキ兄。先帰ってて!」
「え?」
リクがポカンとしている。
「知り合いに会ったから、じゃあ!」
ソラはカイと武尊を押してコンビニへ入る。
「ソラちゃん? お兄さんに説明しないと……」
焦るカイ。
「お兄ちゃん、今カイさんに会ったら絶対面倒くさい事になるからいいんです!」
カイを敵対視しているリクだ。なぜ愛媛にいるのか、たまたま会ったなんて信じないに決まってる。
「じゃあ、僕が少し話してくるよ」
そう言うと武尊は、兄達に説明に行った。
兄とミツキは先に帰って行った。武尊が戻ってくる。
「なんとか説明したよ。ソラちゃんも連絡しといてね? きっと親御さんも心配するから」
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ俺も旅館戻るわ。カイ後でな」
武尊はそそくさと帰っていく。
「おっおう?」
二人になると、少し照れ臭い。
武尊のやつ、気を遣ったな……
「カイさんは帰らなくていいんですか?」
「うん、会議は明日だから。ソラちゃん送ってくよ」
二人で祖母の家まで歩き出す。
「お祭り行ったの? 花火上がってたね」
「はい。お兄ちゃんと従兄弟と。神社で不思議な事もあって……」
少年の事を話すソラ。こんな不思議な話も、カイなら馬鹿にしないし、信じてくれると分かっている。
「それは、神社の主かなぁ? 武尊ならわかるかな?」
二人はゆっくり歩く。
「ソラちゃん足痛くない?」
「大丈夫です。下駄じゃなくて、サンダル履いてきたので」
「よかった。あの、言うの遅れたけど、浴衣似合ってるね?」
「へ?」
不意打ちに心臓が跳ねる。
「あ、ありがとうございます」
小さい声でお礼を言う。
あ!
つまずくソラ。
「っと!」
手を握り、身体を支えるカイ。
「危なかった……」
「ありがとう、ございます」
危うく転ぶ所だった。目が合う。カイが何か言いたそうにこちらを見つめる。
「気をつけて?」
それだけ言うと歩き出す。
カイはソラの手を握ったままだ。ソラはまた心臓が跳ねる。
二人は手を繋いだまま、歩いて行くのだった。
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