28 帰省
狸君が庭で桜と話している。
桜は現れた時よりも執着が薄れたのか、穏やかに見える。時より現れ、橘家の様子を見ているようだ。
武尊はカイの離れに向かう。今日はある予定にカイを連れて行こうと、橘家へ寄ったのだ。
「カイ、入っていい?」
部屋の前で声をかける。
「どうぞ」
カイは縁側に座って、本を読んでいた。
「カイ、今日は遠出するぞ!」
「遠出?」
◇
昨日、バイトの休憩中のこと。
「カイさんすみません。お盆の間、お休みいただきたくて……」
ソラが申し訳なさそうに、カイに伝える。
二人はカウンターに向かい合わせで座っている。
「休み大丈夫だよ。どこか行くの?」
「祖母の家に。愛媛県なんですけど、毎年行ってて」
祖母の家、母の実家である。
夏休みにそちらの家に行くのは恒例行事であり、今年もそんな季節がやってきた。
祖父は早くに亡くなっており、今は祖母と母の兄家族が住んでいる。
「四国かぁ。そういえば家の狸君が、年に一度の狸会議が、今年は愛媛でやるって言ってたなあ」
ん?
「狸会議ってなんですか?」
聞いたことのないワードである。
「狸達が集まって近況報告とか、宴会したりするんだって。俺も参加した事ないから、武尊に聞いた話だけど。もしかしたらバッタリ会うかもね?」
狸達にバッタリ会うのは、ちょっと面白そうである。
「カイさんは、お盆どこか行ったりしますか?」
「俺はないかなぁ。家には親戚やら、誰かしら来てちょっと面倒だから、俺はここに避難してようと思ってる」
悪い顔で笑うカイ。カイはちょっとした、イタズラ心が芽生えた。
「でも……ソラちゃんとしばらく会えないのは悲しいかな」
ソラはカイから目を逸らす。
「……それは、私もです」
ソラが消え入りそうな声で言った言葉に、カイは固まった。思わぬ答えにこっちが赤面する。
「あの……そっか?」
しどろもどろになるカイ。
「やっほ〜」
猫のミルクこと、みーちゃんが入ってきた。
びっくりしたぁ!
「どうかしたか?」
みーちゃんはマイペースである。
二人とも思っている事は一緒である。
ドキドキが治まるまで、しばらくかかったのだった。
◇
ソラは愛媛県の祖母の家に帰省する。
この少し懐かしい気持ちにさせる匂いに、おばあちゃん家に来たなぁと、しみじみ思う。
「なんか久しぶりだな〜」
リクが言う。
「去年来てないもんね」
ソラが思い出す。
リクはバイト、ソラは受験があったし帰省しなかったのである。
「今年はいいの?」
ソラがリクへ訊ねる。
「今年はバイト先変えたから、お盆は休みなんだよ。ソラこそいいのか? あの店長の……」
「大丈夫だよ。行ってらっしゃいって言ってくれてたし」
「行ってらっしゃい? なんだその彼氏気取り発言は?」
やばい、お兄ちゃんは私のことになると少しおかしい。
「店長としてだよ! 深い意味はないって!」
「ならいいが……」
兄は疑いの眼差しである。
「ほら、早く行こ! おばあちゃん待ってるよ!」
ソラは早足で家へと向かう。
途中、小さな神社を通った。
そういえば、ソラは遠い記憶を思い出す。
小さい頃、ソラと兄のリク、いとこと一緒にかくれんぼしていた時、
「夕方にかくれんぼはしちゃいけないよ。神隠しにあうからね?」
祖母が言っていたのに、遊んでいるうちに夕方になっているのに気付かなかった。
海の見える神社の境内、そんなに広い場所ではないが探しても探してもソラが見つからず、リクが半泣きになりながら母に伝えに行った。
大人達が探しに行こうとした直後、ソラは何事もなかったように戻ってきた。
ソラいわく
「迷子になったけど、知らないお兄ちゃんが一緒に来てくれた」との事であった。
当時六歳のソラである。近所の子どもが面倒を見てくれたのか、という話になったが、近所のお兄ちゃんが見当たらず、お礼は言えず終いだった。
その時の少年は、今思えば不思議だった。
袴姿で髪の毛や瞳は白くて、年齢は同じ位に感じたのに、とても大人びた話し方だった。
最近だと、動物が話したり、狸が化ける姿を目の当たりにしているソラである。
あの少年は、おそらく人ではなかったのではないかと思う。
瓦屋根の二階建ての木造家屋が見えた。生垣に囲まれた家は、いつ来ても懐かしい気持ちになる。
ガラガラと鳴る引き戸を開ける。
「おかえり〜」
おばあちゃんが出迎えてくれた。
「ただいま」
「久しぶり!」「お邪魔します」
ソラ達家族は家の中へと進む。
家には母の兄家族も住んでいる。
「ソラちゃん! 相変わらず美人さんで、リク君も、またカッコよくなったんじゃない?」
おじさんの隣でおばさんがお世辞を言っている。
「あはは、ありがとうございます」
リクが答えて二人は頭を下げる。
「おー久しぶり」
従兄弟のミツキが階段から降りてきた。
彼はリクと同い年だ。幼い時から外で駆け回るのが好きで、リクの色白とは対照的に健康的な肌色である。髪は茶色く染められており、見た目はとても、何というか、チャラそうに見える。
「ミツキ兄、久しぶり」
「ミツキは相変わらずアウトドアな感じだな〜」
「いや、二人がインドアなだけやろ」
皆んなで食卓を囲む。久しぶりの一族団らんである。料理の量もすごい。
「ここ来るとお盆って感じするよな」
リクが呟く。
「俺は、この料理の量見るとお盆って感じする」
ミツキがお腹を押さえながら呟く。
「今日花火上がる?」
ソラがミツキに訊ねる。
毎年お盆の季節になると、どこかしらでお祭りがあって、花火が上がるのが定番である。
「明日上がるぞ。神社で祭りもあるから、三人で行くか?」
ミツキの提案に乗る事にした。
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