27 梅雨
梅雨の季節。
紫陽花が生き生きと咲いている。連日続く雨で、カフェのお客さんはあまりいない。
「お客さん来ませんね?」
「うん、暇だね。買い出ししてきてもいいかな? 猫のおやつが残り少ないんだ」
カイがソラに訊ねる。
「はい。行ってきて下さい。私は留守番してますね」
「すぐ戻るね!」
カイさんが出かけて行った。
ソラはぼんやり窓の外を眺める。雨がしとしと振っている。
その時ドアが開いた。
「こんにちは?」
「こんにちは」
そこに居たのは緑色の甲羅を背負っていて、頭にはお皿が乗っている。いわゆる河童だった。
本物、初めて見た。
有名人に会った時のようにソラは感動した。
「あなたは……河童ですか?」
そしてストレートに聞いていた。
「あぁ。驚かないんだな」
河童はソラを珍しそうに見ている。
カイはレジに並んでいた。
意外と混んでいて、中々進まない。何か異質なものが入り込んだような、変な感覚がした。
足早にお店に戻り、急いでドアを開ける。
「ソラちゃん!」
「カイさん、お帰りなさい。こちら、河童さんです」
ソラがカウンターの奥で立っていた。
「どうも、噂に聞いて来てみました」
河童はカウンター席へ座っている。
「あ、どうも。おくつろぎください」
一瞬驚いたカイ、すぐにお店用の顔になり頭を下げた。
「お茶何にしますか? お湯だけ沸かしました」
ソラがカイに訪ねた。
「ありがとう。そうだね……フルーツティーがあったからそれ淹れるね」
カイは息を整えると、仕事を始めた。
「河童さんは普段もここに住んでるんですか?」
カイがお茶を淹れながら確認する。
「いえ、山の方から来ました。こんな市街地に来たのは久しぶりで、緊張します」
「それは、お時間かけて来てくださって、ありがとうございます」
お礼するカイ。
「実は、私のお嫁さんを探してまして、街に行けば見つかるのではと……」
「お嫁さん?」
ソラが首を傾ける。
「はい。若い女性で、かわいい人が好みです」
「今は結婚してない?」
カイが思わず問う。
「しておりません。でも、結婚したいのです」
「同じ河童ではなくて、人間がいいのですか?」
少し警戒するカイ。
「河童はもう殆どいなくなってしまって、この際人間でもいいかと……」
ソラを見る河童。目を合わせないよう逸らすソラ。
このお店は悪意ある者は入れないはずである。つまり、この河童は悪意はなく、純粋に婚活に来たのだ。
「フルーツティーです。ちょっと電話してくる!」
紅茶を出すカイ。一瞬外に出る。
ドアは薄く開いたままである。雨の音が聞こえる。
「河童のお友達はどなたかいるのですか?」
ソラは疑問に思った。なぜ婚活を? と聞きたいが、それは失礼だろうか。
「一人だけいたんだが、早くに結婚していて、最近子どもが産まれました。私と遊んでる暇はないのです」
「ほぅ。だから河童さんも誰かと結婚を?」
「はい」
なるほど、寂しいということなのか。
「そちらの界隈に詳しい者を呼びましたので、ちょっとお待ち下さいね!」
少し雨に濡れたカイが戻って来た。
「カイさん。濡れてますよ? 使って下さい」
ハンカチを渡すソラ。
「いいよいいよ、これくらいハンカチ濡れちゃうよ」
「ハンカチはその為にあるので!」
「あはは、そうだね。ありがとう」
微笑んでハンカチを受け取り、肩を拭くカイ。
その様子を見ていた河童、
「あなた方はご夫婦ですか?」
「へ?」「はい?」
二人は揃って変な声を上げる。
「とてもお似合いでしたので……」
河童はそう言いながら、紅茶を飲む。
目が合い逸らす二人。少し照れた顔で俯く。
ノックの音、ドアが開く。
「こんにちは〜」
入って来たのは武尊だ。
その界隈に詳しい人といえば、彼である。
「初めまして、狐の親戚です。河童さんの相手候補、お探ししますね!」
武尊がにこやかに挨拶する。
何でも屋さんみたいだ。
ソラは武尊を見ながら思うのであった。
◇
河童が比較的多い場所を教え、武尊の知り合いの河童の連絡先も教える。
「ご親切にありがとうございました」
そう言って河童は出て行った。その姿を見送った後、カイは小さく息を吐く。
「大丈夫ですか?」
ソラがカイを見上げる。
「うん。何だかハラハラしちゃってね。ソラちゃんのこと気に入ったらどうしようかと……」
「え? 私ですか?」
ソラは自分を指さして首を傾げる
「河童はね、気に入ったら執着する。大事にしてくれるって思えば聞こえはいいけど、好きでもないのに、好かれて付き纏われるなんて、大変でしょ?」
武尊が説明してくれた。確かに、心当たりがある。
「武尊助かったよ。河童の知り合いなんていたんだな?」
「まぁね。昔の知り合いらしくて、俺も会った事ないけどーーきっと大丈夫でしょ」
外はまだ雨が降っている。
ソラは雨の音を聞きながら、紅茶を飲んだ。フルーツのいい香りがする。
カイさん、私のこと心配してくれたんだな。
急いで戻って来たり、ドアを閉めないでいたり……カイの行動を思い返して、心が温かくなるのであった。
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