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見るからに生真面目なヒビキと、見るからに不真面目な火車ではもっぱらウマが合わないようで、へらへらと笑ってのたまう火車にヒビキの冷たい視線が突き刺さる。
しかしそんなものはどこ吹く風と言わんばかりに、火車はまた大口開けて欠伸を漏らした。
「ふあぁ〜……んじゃ、ぼくは今度こそ帰るよ。遊び疲れちゃった」
「早々に離脱したくせに何を言う」
「カリカリすんなよ、カルシウム足りてないぜ〜雷龍くん! ちゃーんと二体仕留めたんだから上々だにゃ。またね、真面目三人衆!」
蔑称とも賛称ともとれない言葉を残して、化け猫は煙とともに消えていく。
登場、退場、気まぐれな性格、常識外れの戦い方まで、まさに妖怪のような男であった。
ついさっきまで火車がいた空間を睨んで、ヒビキが肩を落としてため息をついた。本日二度目である。
「悪いな、シブキ、勇輝。火車のやつはいつもああなんだ」
「なんつーかあの幻獣、なかなか……」
「……ぶっ飛んでますね」
「幻獣の中でも相当な変人さ、あの化け猫は。契約者が心底哀れだ」
火車を形作る波動はもっぱら善を示していたが、あれほど突飛な言動では周囲は振り回されてばかりだろう。傍若無人さだけでいえば、ただの猫よりたちが悪い。
「それはそうとして……お前たちの戦闘、いい動きだったぞ。センリ様の見込み通りだ」
ふとヒビキから振られた話題に、シブキたちは目を丸くする。
「見てたんです? 確かヒビキさん、一人で二体相手してたような」
「余所見をしているくらいの余裕はあった。百々目鬼は火力も機動も低い上、拘束力も大したことはない。あの程度なら片手でもいなせる」
「……すっげぇな、後ろで見てて改めて思いましたけど……ヒビキさん、めちゃくちゃ強いですよね?」
「それは経験の差だ。若者にそう易々と追い抜かれるわけにはいかないからな」
ヒビキはさらりと言ってのけると、雲が晴れて茜に染まった空を一瞥する。
「俺は事務所に戻って報告する。報酬金はお前たちが次に来た時に渡そう」
「金は気にしなくていいですよ。特に困っちゃいねえし」
実際、勇輝の叔父から定期的に送られてくる生活費はあまり多くないとはいえ、やりくりができないほどの額ではない。任務達成の際に支部から払われる多額の報酬金と合わせれば、十二分に余裕ができる。
しかしヒビキはシブキの返答に対し、首を横に振った。
「タダ働きをさせるなど、事務所の看板に傷がつく。筋はしっかり通すのがセンリ様の方針だ、黙って受け取っておけ。じゃあな、帰りは気をつけろよ」
これについて議論をする気はないようで、一方的に言い残してヒビキは路地を引き返し去っていく。
その背を見送ったシブキの表情が、わずかに険しく変わった。しかしその原因は無論、金の話ではなく。
もう一つ、彼には気になることが残っていた。
「……にしても、また目玉鬼と百々目鬼か。しかもあんだけの数」
相棒と二人だけになってようやく、シブキは先ほどからずっと黙っていた違和感を口にした。
彼の言わんとしていることを察した勇輝も顔を顰める。
「そういえば、取り逃したままだったか。目目連」
「そうだな……」
落ちた陽の紅に覆われていく、閑静な住宅街。穏やかな日々はいつだって一瞬だ。
「次こそは、きっちり討伐しねえとな」
「ああ。必ず」
きっと未だこの町に隠れている害意に、今度こそは決着をつけようと胸に決め、水龍と龍使いは帰路についた。
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第十話では、あの異獣が再来。ご期待ください!




