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程なくして煙は晴れた。しかしそこにいたのは、先ほどまでのただの猫ではない。
色や模様こそ同じだが、それは二本足で立つ、大体百五十センチくらいの猫の獣人だった。
死装束を連想させる白い着流し、背後には火炎を纏った牛車の車輪。車輪は獣人の膝から頭のてっぺんほどの大きさで、仏像の光背のように浮遊して獣人に従っている。
獣人がにこりと笑って首を傾げると、首についた赤紐の鈴がチリンと鳴った。
「あはは、捕まっちゃった。なかなか楽しかったよ、雷龍くん、水龍くん、それに龍使いの少年!」
無邪気な高い声で喋る獣人から、悪意は感じられなかった。
「……幻獣、ですか? ヒビキさん」
「如何にも!」
シブキからヒビキへの質問に、獣人本人が答える。
「ぼくは幻獣、猫又の火車さ! 好きなものは楽しいことと火葬、嫌いなものは退屈と土葬! 以後お見知り置きを!」
「火葬って……」
不謹慎極まりない自己紹介だが、なるほど合点がいった。
火車といえば遺体を奪いに来るという日本の妖怪だ。死装束に燃える車輪。確かに、伝承と通ずるものはある。
「なんだい水龍くん、その顔は! 失礼だなあ、葬り方ってのは大事だぜ。なんせ土葬だと、異獣が遺体を喰いに来る! そういうのを追っ払うのが昔のぼくの仕事だったんだけど、なんでかぼくが泥棒みたいに伝わってる! 解せないよねえ! でも火葬なら骨しか残らないから異獣もあんまり喰いに来ないし、葬儀の真っ最中に襲ってきたりしたらぼくの独壇場! 炎があると、ぼくの車輪も強くなるからね!」
「はあ……」
困惑気味のシブキたちなどお構いなしで、火車は矢継ぎ早に話し続ける。面倒だといった様子でヒビキが小さく舌打ちをこぼした。
「こいつは契約済みの幻獣なんだが……いかんせん気まぐれすぎてな。よく契約者の元からうちに探索願が出される。実力も実績もあるのに、残念な奴だ」
「しかたないじゃない、だってぼくは猫だもの。きみみたいな忠犬じゃないんだにゃん」
小馬鹿にしたような言い草だが、依然悪意は見てとれない。悪気はなくて、ただそういう性格なのだろう。それもだいぶ問題な気はするが。
言いたいことを言い終えると、火車はくあっと欠伸をしながら歩き始める。
「さーて、捕まっちゃったからぼくは帰ろうかなあ。いい暇潰しになったよー、きみたち」
「……待て、火車」
「ん〜? なあ、に……」
ヒビキに止められ、火車が欠伸で閉じた目を開けると、彼の目の前で空間が揺れた。
ぐわり、と歪に捻じ曲げられたそこから現れたのは、合計六体の百々目鬼。
後ろのシブキたちが瞬時に戦闘態勢をとっている中、火車は子どものようにパッと顔を明るくする。
「おお、おもちゃが増えたあ! けどこの数はめんどくさいなあ、途中で飽きちゃう。なあきみたち、ちょいと手伝っておくれよ」
「馬鹿を言え、臨戦態勢も取ってないのは貴様だけだぞウスラトンカチ!」
「失礼だなあ〜。ぼくはいつでも準備万端さ」
やはり間延びした声で、口元には妖しげな三日月を湛えて。
べろり、ザラついた舌を出す。
「さ、楽しもっか」
火車の挑発を合図に、百々目鬼たちは一斉に襲いかかった。しかし全員が火車を狙ったわけではなく、火車に飛びかかったのは二体の百々目鬼だ。




