13/13
それがどういうことなのか、シブキにわかったのだから、娘である菊理にも当然伝わったのだろう。
菊理はセンリに頭を下げた。九本並んだ尻尾も、綺麗に扇を作っている。
「今日は本当にありがとうございました。あなたに、――あなたたちに、頼んでよかった」
そうして慈悲を宿した狐の視線は、シブキと勇輝にも向けられた。シブキはやんわりと首を横に振る。
「いえ、俺たちは何も。むしろ……」
「いいの」
玖徳を死なせてしまったことを謝罪するよりも、菊理の否定の方が早かった。
「父はちゃんと生き抜いた。最後まで。あなたのせいじゃない」
謝るどころか、依頼人であり父を亡くしたばかりの菊理に諭されてしまって、シブキは閉口する。彼女には敵わないと悟ったのだ。
朗らかな笑みを浮かべて、菊理は目を閉じる。薄らと立った火のない煙とともに、九尾の狐は人のかたちをとる。
それから、懐から茶封筒を取り出し、ソファの前の長テーブルにそっと置いた。
「これ、今回のお代。また何かあったら来ます。それじゃあ元気でね、探偵さんたち」
後腐れのない、出会ってからこれまでで一番柔らかな笑顔を残して、黒髪の女性は――菊理は、事務所を出て夜の闇の中へと消えていった。
「……芯の強い娘さんじゃのう。あれは玖徳以上の大物になりそうじゃ」
そう呟くセンリの表情は、娘を見守る父親のそれに似ていた。
それから彼はシブキと勇輝の方を見やる。二人はまだ、煮え切らないような顔のままだ。
「これ、二人とも。悔やむでない。我々は最善を尽くした。例えそれが納得のいかない結末だとしても、理不尽なものだとしても。それでもそれは真実じゃ。受け入れねばならん」
柔らかくも鋭い言葉が二人に突き刺さる。
シブキは余計な心配はかけられないと無理やり苦笑いでも作ろうと思ったが、どうにも上手く笑えない。
「わかっちゃいるんです、けど。やっぱ、飲み込みきれなくて」
「まだまだ青いのう」
センリはゆっくりとシブキの前に歩いていって、立ち止まる。全てを見透かす黄金の眼差しが、シブキの海色を射抜く。
「よいか。悔やむなら、先を見よ。後ろには、おまえの求めるものはない」
いつの間にやら呼び方が変わっていた。センリのことだからわざとだろう。
彼はいよいよ、シブキの師となるつもりだ。
はっとしたように目を瞬かせるシブキに、センリはにこりと、狐目を思いきり細めて笑う。
「まあ、少しずつじゃな。おまえはこれからじゃ。なに、すぐ私なんぞ追い越すさ」
「…………それは、わかんねえですけど。がんばります」
つられるようにシブキも笑う。隣に在る勇輝も笑った。事務所に戻る途中、シブキがずっと暗い顔をしていたのを、勇輝は誰よりも心配していたからだ。
ようやく、彼らの顔に晴れが戻った。
事務所の外、闇色の空の下。
街灯は、明るく夜道を照らしていた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
探偵・センリと九尾狐の親子を巡る物語、いかがだったでしょうか。
お楽しみ頂けましたら評価やブクマ、感想等頂けると励みになります!
次回の第九話では、ヒビキが活躍する様子。ご期待あれ!




