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「やっぱりアイツが喰ってんの、玖徳さんですか」
「間違いないじゃろう。恐らく玖徳が奴に喰われたことで、玖徳の波動と奴の波動が一体化し、玖徳の張った結界も異獣のものと同一とみなされたのじゃ」
黒い狐を忌々しげに睨みながら、センリは続ける。
「悔やんどる暇はないぞ。奴は中位種の異獣、シノサキじゃろうが……玖徳を喰らい、力量だけなら上位種並みになっておる」
センリが言い終わるや否や、黒い狐――シノサキがこちらを振り向いた。
ぎょろりと飛び出た目玉が二つ、三人を睨みつける。裂けた口で咥えていた玖徳の脚を無理やり飲み込み、長い爪の生えた両の腕を広げて威嚇の姿勢を取る。
シブキと勇輝は草陰から飛び出し、センリを背に庇うようにそれぞれの武器を構えた。化け物との睨み合いが少しの間続いたのち、痺れを切らしたのは化け物の方だった。
ぐわり、と風を歪める音とともに、鉤爪を振りかざしてシノサキがシブキたちに襲いかかる――はずだった。
雲だ。
この空間にあったのは薄い、光を隠すためだけにあるような薄い雲だった。しかしその雲は――雷雲は突如、シノサキの真上に現れた。
落雷。
稲光が眩く走る。耳を裂くような轟音、空気の痺れる感覚、肉と骨と体毛が焦げた臭い。
あまりの光に一瞬目を瞑ったシブキが再び開眼すると、雷に貫かれたシノサキはすでに消滅していた。
「……なん、だ、今の」
焼かれたのは自分ではないのに、動悸が止まらない。水の眷属である故、雷は元来苦手だが、それだけではない。空から落ちた迅雷は、とてつもない出力で放たれた。
紛れもなく今のは自然発生ではない。雷、と改めて認識してようやく雷龍の司の存在を思い出し、驚愕を隠さぬままばっと振り返るが、視線を受けた赤毛の探偵は首を横に振った。
「天罰じゃ。私は祝詞を使っとらんからのう」
天罰。確かに、そういう言葉がいかにも適していそうなほどの雷だった。普通の雷龍の比ではない、厄災のような雷。
センリの声は妙に冷めていた。まるで驚いた様子もない。不気味なほどに静かで冷静な金の眼が、焦げた地面を見下ろしている。
しかしすぐにセンリはいつもの表情に戻った。余裕を残した、裏の読めない穏やかな笑顔だ。
「さて、仕事は終わった。色々と腑に落ちんことはあるじゃろうが、とにかくまずは報告じゃ。事務所に戻るぞ、二人とも」
やっと金縛りが解かれた二人は、センリを追って慌てて参道を駆け降りる。
異獣がいなくなった世界はすでに奥の方から崩壊を始めているが、光源を覆い隠していた瘴気の雲はすっかり晴れ、温かな日差しが豊かな緑を照らしている。
――玖徳の創った本来の幻は、呆れるほど美しかった。
夜の帳が下りた。都会の夜は暗くない。街灯が照らす街を抜けて、三人は事務所に到着した。
「帰ったぞ〜」
「おかえりなさいませ、センリ様」
緩く間延びしたセンリの声に対し、まるで執事のようにかしこまって出迎えるヒビキの声はやはり対照的である。
センリに続いて室内に入ったシブキは部屋の中を見渡す。依頼人の菊理はまだ残っていたが、一人欠けている。
「あれ……由紀は?」
「日暮れごろには帰した。一般人、それもまだ子どもだからな」




