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「お弟子さんの言う通り、覚えていたとしてもすごかった。ここまで早く解かれるとは思わなかったわ」
「ははは、恐悦至極じゃのう」
「……じゃあ。次が最後よ」
しかし依頼人も、まだ切り札を残していたらしい。凛とした、鋭い視線がセンリに向けられる。
「とある神の名前が答えです。正解できたら、正式に依頼を申し込むわ」
「よほど自信があると見た。楽しみじゃ、受けて立とう」
センリの目の色が変わった。穏やかながらも鋭く、静かな波動だ。
「では、答えて」
ゆっくりと。依頼人の口が開かれる。
「――"清めれは 口説くすももに ありし縁"」
芯のある、落ち着いた声が四つめのなぞをかける。今度はセンリも即答ではなかった。探るように金色の目をぐっと細めている。
「ふむ、聞いたことのないなぞじゃのう。きみが考えたものかな」
「ええ」
「なるほど。……では、解いていくとしようか」
言いながらも、センリの中ですでに見当はついている。揺らぎを見せない彼の狐目がそれを表していた。
「まず"清め"るというのは濁点を除くこと。"清めれば"ではなく、わざわざ"清めれは"と詠んでいたからのう。となると"口説く"は『くとく』と読めるか。で、すももときて、最後は縁、と」
その声は謎解きの最中というより、解き明かしのようだった。もう決着はついている。
「縁の神といえば数多いるが、『く』と『く』……『くく』と読めばあとは察しがつく。李という漢字は『り』とも読める。『くくり』に縁の神。これで完全に絞れるのう」
探偵の口元に、薄く三日月が浮かぶ。
「よって答えは――菊理媛神。日本神話においてイザナギとイザナミの仲を取り持ったという、縁結びの神じゃな」
センリが答えを出してから、三秒間の沈黙の後。依頼人はついに感嘆のため息を漏らした。
「……正解。おみそれしたわ」
そういって彼女は変化を解いた。黒髪が徐々に明るい稲穂の色となる。
しばらくして、そこにあったのは人間の女性ではなく、美しい毛並みを持つ九尾の狐だった。顔や体のところどころには鮮やかな朱の紋が描かれている。
「私は幻獣・九尾狐の菊理といいます。鳴神探偵、あなたに依頼があって参りました」
最後の問いの答えと同じ名前。姿こそ全く違えど、その凛とした声は確かに先ほどの女性と同じ音色だ。
ふと、由紀が菊理の言葉に首を傾げる。
「……シブキくん、幻獣ってなに?」
「龍とも異獣とも違う種族だよ。肉体は本来はなくて、波動だけの生命体だ。顕現してる時は身体つけてっけどな。人や龍の善の波動から生まれたって言われてて、龍みたく人と契約して異獣と戦ってる奴もいる。まあわかりやすく言えば、いい妖怪みてえなもんだな」
「へ〜……いろんな種族がいるんだね」
確かに菊理の姿は妖怪そのものである。九尾の狐というのは定番だ。とはいえ、彼女はとても恐ろしいものという感じはしない。だからシブキは、幻獣を「いい妖怪」と喩えたのだろう。
彼女の正体を最初から見破っていたセンリは特に驚くでもなく、にこりと柔らかい笑顔を浮かべる。
「では、菊理殿。きみの依頼というのは?」
「父を――玖徳という九尾狐を、探してほしいの」
狐の真っ直ぐな瞳が、窓から差し込む陽光に照らされて淡い輝きを放つ。




