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「なるほど。ここまですぐに見抜けたのはあなたが初めてよ。噂通りの凄腕ね」
彼女の言うように、その変化は類稀なるものだった。
若いとはいえどそれなりに経験を積んだシブキでさえ、彼女の正体を一発で見抜けなかったのだ。
しかしセンリは迷いなく、平然と彼女の本性を見破ってみせた。
「だけどまだ、判断材料が足りない。……ねえ、探偵さん。なぞはお好き?」
それでも狐は疑り深い。妖麗な笑みを浮かべ、試すようにセンリに問いかける。依頼に移る前にセンリの技量を見極めようとしているのだろう。
「たまにそういうのもいいのう。どれ、聞こうか」
対するセンリも、動揺ひとつ見せない。細い金の眼はやはり緩く弧を描いている。
「じゃあさっそく、ひとつめ」
状況が飲み込めていないシブキたちを差し置いて、依頼人はなぞを出し始めた。
「"十里の道を今朝帰る"」
「濁り酒」
「……へ?」
出題を聞き、不要な間を一切置かずセンリは答える。
あまりの速度と難解な問いに由紀は間抜けな声を漏らしたが、センリはにこにこと笑ったまま説明する。
「"十里"というのは二つの五里、と置き換えられる。二の五里、つまり『にごり』じゃ。"今朝帰る"は『け』と『さ』をひっくり返して『さけ』。で、合わせて濁り酒、じゃな」
「……えぇ?」
解説を受けても由紀は未だ頭を傾げている。シブキや勇輝も驚愕を隠せていなかった。外野で唯一、ヒビキだけはセンリの実力を知っているからか、顔色を変えていなかったが。
依頼人は手応えありといったように、にやりと不敵に口角を上げる。
「正解。さすがね。じゃあふたつめ」
無駄を好かない性格なのだろう。所感はそこそこに、すぐ次の問題に移る。
「"上消したる雪ぞ絶えせぬ"」
「狐」
当たり前のように、これも即答だ。
「"雪"の上、つまり頭文字である"ゆ"を消して『き』。"絶えせぬ"は常と言い換えられるので『つね』。よって『狐』じゃ」
「ほぇ〜……」
由紀はもはや理解することを諦めたらしい。脳がパンクしたのか、表情が若干虚ろである。
「これも正解。なら次はどう?」
由紀たちの困惑には目も暮れず、依頼人は淡々と問いを出し続ける。
「"命は笛の間"」
「猫。干支で"いのち"、つまり亥の後は『子』。いろはうたで"ふ"と"え"の間は、けふこえて、じゃから『こ』。二つを合わせて読めば『猫』となる」
「さっ……ぱりわかりません」
ハイテンポで駆け抜けた謎解きに、いよいよ由紀が白旗を上げた。いつもなら「これだから猪は」だとかなんとか罵倒するはずの勇輝も、今回ばかりは由紀と同意見だ。
「全て正解よ。それにしても早かったわね。もしかしてご存知だったかしら?」
冷静に振る舞う依頼人も驚嘆していたようで、いつの間にか出されていた茶を口にしてから尋ねる。
対するセンリは、未だ余裕綽々である。
「うむ。いずれも後奈良院御撰何曽からの抜粋じゃな」
後奈良院御撰何曽とは、室町時代に後奈良天皇が集めた日本初のなぞなぞ集のことだ。見聞の広いセンリは当たり前のように知っていたらしい、が。
「それにしてもあの速度は……」
珍しく驚きが顔に出ている勇輝が呟くと、依頼人も長い髪を揺らして頷く。




