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苦笑を浮かべるシブキだったが、内心楽しみな心持ちだった。探偵業など全く不向きではあるが、鳴神千里という不可思議な龍の仕事は見てみたいと思ったのだ。彼から学べることは少なくないだろう。
まだ見ぬ世界への期待を密かに抱きながら、水龍と龍使いは帰路につく。
日曜。李渦駅のホームには、そこまで人だかりもできていない。都心から外れたこの駅では、朝の通勤時間ですら満員電車にならない。特に今日はイベントも何もないし、ホームはだいぶ空いている。
まばらな人の中に、一人の少女がいた。淡いピンクのカーディガンを着た、化粧っ気のない短い茶髪の少女――田村由紀である。
彼女は人影に見覚えのある姿を二つ捉えると、ぱっと顔に花を咲かせ駆け寄っていく。
「シブキくーん! やっほー!」
「おー、元気そうだな、由紀。元気なのはいいが声でけえよ」
自分の元に笑顔で近づいてくる由紀と、あからさまに機嫌が下降した隣の相棒に内心呆れながらシブキが答える。
「……チッ」
「ちょっと黒神、人のカオ見た途端舌打ちってどーなのよ」
「ただでさえお前の存在が面倒だというのに、会うたびに厄介ごとを引き連れてこられたら、舌打ちくらいしたくなる」
「はぁ〜⁉︎ 人を疫病神みたいに〜!」
「お前らなぁ……」
また始まった、少年少女の合戦が。シブキにとってはこれが一番の「厄介ごと」である。
「はいはい、公共の場だ静かにしやがれ」
「むー……」
不満げに頬を膨らます由紀だったが、単純なので興味の対象はすぐに移った。
「それでシブキくんたち、どこ行くの?」
「李雨日市の鳴神探偵事務所」
「探偵⁉︎ なにそれかっこいい! 事件?」
案の定、いい食いつきである。
「色々あって助手になったから呼び出されてんだよ」
「え〜いいなあ! 私もついてっていい?」
「いやお前の用事はいいのかよ……」
「それは大丈夫、ショッピングは逃げない! 探偵っていうほうが気になるからそっち!」
「またついてくるのか、お前……」
由紀の勢いに早々に諦めて事情を吐いたシブキ。どうやら勇輝も面倒になってきたらしく、もはや文句とか牽制ではなく呆れた声になっている。
「まあいいだろ、勇輝。ぶっちゃけ俺、コイツから逃げられる気しねーんだわ」
「……それはそうだな」
「私の扱いひどくない⁉︎」
由紀の顔には不服だと書いてあるが、風を切って電車がやってくるとすぐにパッと明るい表情になる。喜怒哀楽がここまでわかりやすいのも珍しい。
確かに大いに面倒くさいが、彼女がいると少し場が和むのも事実だ。ひとまず前向きに捉えようと思いながら、シブキは二人の少年少女を連れて電車に乗り込むのだった。
事務所に着くと、扉を開けたヒビキが怪訝な顔をした。
「遅いぞ、二人とも。……そっちの方はご依頼ですか?」
彼の鋭い視線は由紀の方を向いている。由紀が口を開く前に、シブキが「いや」と答える。
「俺の友人です。探偵に興味があるみてーで」
「……社会科見学じゃないんだぞ」
「まあまあヒビキ、通してやれ。なかなか面白そうじゃからのう」




