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そう尋ねる探偵の隣で、一番弟子は鋭く睨みを効かせている。まさか断るつもりではあるまいなという言葉が、波動越しに聞こえてくるような錯覚さえあって。
……正直、断ったら殺されそうである。
「わかりました。よろしくお願いします」
三秒ほどに渡った無言の駆け引きの末、折れたのはシブキだった。
数多の戦場を駆けてきた彼とて、こんなことで争いたくはない。それにセンリの言う通り、情報交換と訓練が同時にできるのはメリットとして大きい。悪い話でないのは事実だ。
対する勇輝はどうにも腑に落ちない様子だったが、シブキがやるならしかたがないと腹を括ったらしく、シブキの一礼に合わせて頭を下げる。
「うむ、決まりじゃな。ではこれから頼むぞ、シブキ、勇輝」
満足げにそう宣言するセンリ。これにて、晴れて二人は鳴神探偵事務所の二番弟子三番弟子、というわけだ。
「しかし、今日はもう帰って休め。シブキ、きみは傷の完治もまだじゃろう」
「……さすがにバレますか。けど平気です、もう大した傷じゃ――」
「動けばまた広がるぞ。無駄に修復を繰り返して、体力を浪費するのは得策ではなかろう?」
食い下がろうとするシブキだったが、センリはそれを許さない。柔らかな口調で諭すように言いながらも、薄ら覗く金色の双眸には有無を言わせぬ圧がある。
ヒビキが放つ威圧感よりも鋭く、しかしささやかで優しい独特の波動。一種のカリスマのような気配を前にして、シブキは言い返す言葉を失った。
「じゃ、お言葉に甘えて。今日はこの辺で失礼します」
「うむ。気をつけて帰れよ」
軽くお辞儀をした後、二人はソファから立ち上がって事務所を出る。
空には日が高く上がっていて、じんわりと湿気が体に纏わりつく。水龍であるシブキにとっては、湿度が高い方が傷の治りも早くなるし好都合だ。とはいえ、まだ本調子ではないのは紛れもない事実だった。
「見事に気づかれていたな、お前」
歩き出しながら、からかうように勇輝が言う。
「あー?……いやまあ、確かに驚いたけどな。初対面の相手にバレるとは思ってなかったからさ」
実際、普段のシブキを知らないなら気づけないような不調だ。派手に骨をやったとはいえど、龍の治癒力というのは脅威的なものである。まだ戦闘には向いていないという程度で、日常生活に違和感が出ない程度には治っていた。
ヒョウから話を聞いていたのであれば合点がいく。しかしセンリは、まるで透視でもしているかのようにシブキの負傷した部分を見ながら彼の不調を指摘したのだ。
勇輝もセンリの視線に気づいていたようで、シブキの言葉にこくりと頷く。
「相手が上だったな。相当な観察眼だ」
「ヒビキさんもそうだけど、波動も他とは格が違ったしなあ。まともに戦ったら勝てる気しねえぜ」
「味方なら心強いだろう。……にしても」
少し大きめのため息を漏らした勇輝の表情は、どことなく辟易しているように見えた。
「助手とはいえ、探偵なんてできるのか? 俺たちに」
「さあな。やってみねえことにはわかんねーよ。ま、向いてる気はしねーけどさ」




