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センリの解説を聞きながら、二人は角獣の唱えていた呪詛を思い出す。
天の狭間、瘴気の神。確かにセンリの言うカタラなる存在は、例の言葉に一致する箇所が見受けられる。
龍の中には、いわゆる龍界伝説といわれる、龍や人、異獣たちの誕生にまつわる昔話がある。カタラはそこで述べられている異獣の神だ。一匹の龍の負の波動から生まれ、強大な瘴気で龍たちを惑わし、次元の狭間に追放されたという暴れ者。
――もし、呪詛の中で呼び掛けられていたのがカタラだとしたら? 段々とシブキの中で組み上がっていく推測は、明るいものではなかった。
「……まさか、」
「そのまさか……ではないといいがのう。しかし、詠唱の内容を聞く限り、"狂化"というのはカタラの力を術者に降ろす術式か何かじゃろうな。角獣以外の者は詠唱をしなかったのじゃな?」
「中位種のクレナイスズメとオオアゲハの例は、どっちも詠唱なしです」
「となると、他者に降ろすことも可能なのやもしれんのう。龍や人に影響が出ていないのは不幸中の幸いじゃが、もう少し様子を見ねばならんな」
顎に手を当てながら、センリは神妙な面持ちで言う。
「呪文がある以上、今後も"狂化"現象が発生する可能性は高い。こちらでも調べてみるとしよう」
一区切り話したセンリは、卓上の湯呑みに手を伸ばす。緑茶は少し温くなっている。対面のシブキたちはまだ、表情を曇らせたままだった。
飲もうとしていた茶の湯呑みを右手で持ち上げたまま、センリは元の穏やかな笑顔に戻る。
「これ、そう暗い顔をするでない。未知は好機と心得よ。勝率が不確定というのはすなわち、いくらでも勝ち筋はあるということじゃ」
「……前向き、ですね。すごく」
少し信じ難いという感情の滲んだ声で、勇輝が零す。それに一瞬ヒビキが怪訝な顔をしたが、センリの方は全く意に解していないようだ。
「これでも長生きしとるもんでのう。……じゃが、どうしても気に病んでしまうというのなら、ひとつ提案がある」
ぴんと人差し指を立てるセンリの微笑みが、少しだけ意地悪く歪んだ。
「ここの助手をやる、というのはどうじゃ?」
「……は?」
何を言い出すかと思ったら。唖然としているシブキと勇輝だったが、センリもヒビキも平然としている。
……否、ヒビキは少し、気に入らないらしく。
「センリ様、あなたの右腕は俺だけで務まります。こいつらはまだ青い」
「安心せい、お前の弟弟子として取るんじゃ。それに、若者の発想も参考になるやもしれんぞ?」
「……なるほど。仰る通りで」
納得がいったのか、ヒビキはこくりと頷く。何故に彼は、センリに対してそこまで心酔しているのだろうか。
ヒビキを説き伏せたセンリは、再度シブキたちの方を向く。
「きみらはすべての"狂化"事件を目撃しておると聞いた。常に前線で戦う戦闘員の協力が得られれば調査も捗る。きみらにとっても、探偵業というのはいい訓練になるじゃろう。もちろん本業に支障がない範囲で、手が空いたときに少し来てくれればよい」
それから、にこりと人好きのいい笑顔を浮かべて。
「損はないと思うが……どうじゃ?」




