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噂通りだ。
蘇芳の髪、黄金の眼、独特の古臭い話し方。格好の露骨さも相まって確かに妖しさはあるが、彼が相当な切れ者であることは間違いないと確信できた。それほど彼の波動は研ぎ澄まされている。ただの龍でないのは明らかだ。
ヒビキが盆に載せた湯呑み三つを長テーブルに置いていく。自分の分は用意していないらしい。
センリは立ったままでいようとするヒビキに礼を告げ、自身の隣に手招きして座らせる。
「ほれ、おまえも名乗ってやれ」
「わかりました」
センリには妙に聞き分けのいい彼だが、シブキたちに顔が向くとがらりと事務的な雰囲気に変わる。
「……春河響。蛇龍族雷龍だ。雑務や戦闘を主に請け負っている」
「私の助手であり一番弟子じゃ。少々愛想は悪いがの」
穏やかに笑うセンリと、仏頂面でシブキたちを睨むヒビキは真逆だ。しかしヒビキもまた、他の龍とは質の違う波動を纏っていた。
まず自分よりは格上であろうと、頭を下げて挨拶を返しながらシブキは思う。彼らが龍使協会に友好的だったのは幸いなのかもしれない。
「さて、そろそろきみらの要件を聞くとしよう。異獣関連と聞いておるが」
マイペースに緑茶を啜ったセンリが、単刀直入にそう尋ねる。答えたのはシブキだった。
「はい。先日から、他よりも優れた特異個体の異獣が現れてまして。昨日撃退した上位種異獣・角獣は、その現象を"狂化"と呼んでいました」
「"狂化"、とな。……ふむ。詳しく聞こう」
センリの表情から笑みが消え、狐目が鋭くシブキを見据える。
「波動が大きく揺らいで……その後、波動だけ視えなくなるのが特徴で。角獣の場合は、纏っていた瘴気が濃くなって、黒い霧のかたちで実体化したんです」
「角獣……何か、唱えていたよな」
口を挟んだのは今まで黙っていた勇輝だ。鮮烈に脳裏に焼きついた光景を再生しているのだろうか、眉間にうっすら皺が寄っている。相棒の指摘を受けたシブキも、同じように昨日の事象を思い返した。
「あー……あの詠唱か。覚えてるぜ。確か……『天の狭間、廻るは』――」
「おっと、その辺でやめておけ」
記憶に従って復唱しようとしたシブキだったが、センリの静止で口を閉じる。
「恐らくじゃが、そいつは我々龍や龍使いがするような、波動を集中させるための言葉ではない。俗に言えば呪文だとか、そういう類じゃろう。迂闊に口に出さんのが賢明じゃ」
至って落ち着いた調子の警告で、シブキの背筋に寒気が走る。わざわざ止められるような呪文というのは、なかなかに危険なものと察せられた。
「しかし気がかりではある。掻い摘んで話してくれ」
「確か……『瘴気の神』とか、『顕現せよ』とか、あとは『贄』とも」
「なるほど……」
慎重に言葉を抜粋したシブキの回答に、センリは思考を巡らせ始めたようだ。
しばらくして何か思い浮かんだのか、伏せていた顔を上げて勇輝に目を向ける。
「さて、勇輝。異獣の神、というのを知っとるかの?」
「異獣の……?」
「最初の異獣であり、異獣たちの根源でもある存在。次元の狭間に住み、そこに流れ着いた人や龍の負の波動――すなわち瘴気の源から異獣を生み出し、世に送り出す怪物。名を、『カタラ』という」




