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 日向の手には、炎の色をした鮮やかな弓が握られていた。火を宿した矢を絞る日向の目の先、狙いすますは、水龍と戦う異獣の背。


 炎龍が走り出す。それと同時に、日向の矢は爆炎を纏い--放たれた。


 矢を受けた角獣の視線は日向の方に向く。角獣にターゲットを向けられていないうちに、グレンはシブキと合流した。


 隣に立った弟が回復しきっていないのを見て、シブキは顔を顰める。


「お前、傷は」

「……おまえなら戦うだろう。おれも同じなだけだ」

「はあ……バカだな、お前。俺と似て」


 呆れて思わず頬が緩む。自分のことを引き合いに出されては、文句を言おうにも言いきれない。


 水龍と炎龍の波動は反対の色をしながらも、共鳴するように同じ波を打っている。


 角獣の警戒は日向からシブキたちに戻った。その波動を異質に感じたのだろう。だが角獣が注意を戻したときにはすでに、兄弟は剣を構え角獣を見据えていた。


 何か企んでいる。察したはいいものの、油断ならざる者が、あと一人。


 背後に控えていた勇輝が、伏せた目をゆっくりと上げる。淡く紫に光るそれと角獣の憎悪の眼差しが交差し――角獣の脳を、勇輝の波動が締めつける!


 異獣が動きを止めたのと、シブキとグレンの準備が整ったのは、ほぼ同刻だった。


 青色と赤色の波動が、混ざり合う。


「――"クリムゾン"、」

「"スプラッシュ"‼︎」


 息を合わせた言の葉。激流を身に纏う水龍と、爆炎を引き連れる炎龍が、青と赤の軌跡を描いて駆け出す。


 最初に届いたのはシブキの斬撃だ。剣の刃は水の流れに圧され、角獣の脚を斬り伏せる。


 そして彼の後ろから、天高く飛翔した紅の炎龍が、剣を振り下ろす。


 炎が角獣に移った瞬間、すかさずシブキが己の武器に残っていた水を飛ばした。派手に起こった水蒸気爆発が、異獣の傷口に追い討ちをかける!


 兄弟の呼吸の合った連携の前に、ついに角獣が横転。しかし角獣を覆う瘴気は未だ彼を死なせようとせず、負傷した箇所に入り込み無理やり回復させている。


 そして、暫しの時を経て。また、その悪龍は立ち上がった。


「グ、ゥ……マダ、我ハ……!」


 体の一部を失いながらも、禍々しく可視化された瘴気を纏ってそびえ立つそれは、もはや龍というより鬼のようだった。


――しかし。


「もうよい、黒角。一時退け」


 低く、低く。


 深海のように低い声が、開けた場所だというのに響き渡る。


 角獣の纏うそれよりも強い、雨雲のような瘴気が、辺り一帯に立ち込めた。


 それは顕現してはいなかった。


 肉体のない、波動だけの輪郭。普通の人間には見えない、しかし龍使いには目視が可能なほど濃い色をした波動がつくるかたちは――八つの頭を持つ、蛇の怪物。


「八岐大蛇様……!」

「この程度とは腕を落としたか、黒角?」


 即座に姿勢を低くし服従する角獣の口が発した名は、彼の主人たる大罪龍。上位種の中でも特別強い封印が施されているはずの化け物、八岐大蛇。


「申し訳ございません。侮っておりました」

「……まあよい。先に帰っていろ」

「御意……!」


 深々と頭を下げ、角獣の気配が消えていく。


 残った八岐大蛇は、四人の龍と龍使いたちを品定めでもするような目で一瞥し――その視線を、シブキに固定した。

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