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肋骨の何本かはいかれただろうか。むしろそれだけで済んだのは奇跡かもしれない。幸いツノは刺さらなかったが、それでも彼の口から漏れ出た血液は普通の量ではない。
一瞬飛びかけた意識をどうにか手繰り寄せ、空中で姿勢を整える。吹っ飛ばされた先にあった木の幹を気配で察知し、それを蹴って跳ぶ。
腹を襲った痛みは尋常ならざるものだったが、それでも気にしている暇はなかった。そんなことに気を取られれば、次に待つのは死だ。
上空から、シブキは高圧の水流--"プレッシャーレイン"を放つ。牽制のためのそれに紛れながら、勢いをつけて角獣の頭上へ突っ込む。
角獣はその巨体に見合わぬ機敏な動きで横にかわし致命傷を逃れたが、それでもシブキの斬撃は左のツノをきっちり落としていく。
着地してすぐさま追い討ちを狙うシブキに、角獣も黙ってやられてはいない。周囲の岩石を磁力に似た己の波動で持ち上げ、シブキに向かって撃ち出す。
数が多く避けきれない――否、シブキに避けるつもりはなかった。
「"メイルストローム"ッ!」
シブキの周囲に凄まじい渦潮が発生する。轟々と音を立てるそれが飛んできた岩を受け止めて砕く。
そのまま渦潮はメガホンのような形になり、角獣の方へ縦に九十度向きを変えたかと思うと、渦の中に蓄えた岩の破片を角獣に跳ね返した。
破片とはいえ結構な大きさだ。岩の吹雪を受けて角獣が怯んだその隙に、右手に握った剣を勢いよく振り上げて突き上げ――ようと、した。
まただ。命を揺さぶる、強烈な大咆哮。
ただでさえ危うかったシブキの意識が、一瞬途切れる。ぐらり、と大きくその体が揺れる。倒れる前に目覚めたものの、思うように動けない。
角獣がそれを見逃すはずはなかった。巨大な前脚をのっそりと上げ、水龍を踏み潰さんとする。いくら耐久力に優れた龍であっても、核ごと潰されてはひとたまりもない。
寸前、鋭い声が飛んだ。
「しっかりしろ、相棒‼︎」
怒号がシブキの意識を、今度は完全に覚醒させる。放たれた勇輝の"射光線"が角獣の気をわずかに逸らす。
間一髪。押しつぶされる前に、シブキは角獣の足下から逃れた。
勇輝の声が奮い立たせたのは、シブキだけではなかったらしい。
彼らが戦っていた裏、少し離れた場所で浅い呼吸を繰り返していたグレンがゆっくりと目を開け、剣を杖代わりに立ち上がる。幾分か小さくはなったものの塞がりきってはいない腹の穴から、ぼたぼたと血が垂れる。
「おいグレン、お前はまだ……」
「……言ってられるか」
苦しみの滲んだ声は、しかし確固としていた。
「あいつも、勇輝も……まだ戦ってる。おれも行く」
「……」
止めるべきかと日向は悩んだ。だが相棒の目を見れば、止めても聞かないことは明白だ。
であれば。
「まったく……しかたないやつだな」
ため息とともに不安を逃し、日向の淡いオレンジ色をした双眸がグレンに向けられる。
リングルの龍結晶が暖かな光を放つ。
「龍術――"炎舞"」
落ち着いた言葉の直後、グレンの波動が力強く燃え上がる。
「悪いな誠司。心配するなよ、死ぬ気はない」
「わかってる。……オレも、全力で援護する」




