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炎龍の龍使いは角獣の妨害を許さない。即座に撃たれた爆炎の弓矢が、異獣の操る岩石を砕き破る。
わずかに火の移った破片がシブキに降り注いだ。服の一部が焦げることさえ、今のシブキは厭わない。
ついに実力行使に出ようと、角獣がもう一度突進を繰り出さんとする。
だがそれよりも、シブキの相棒の方が速かった。
「波動術――"精神拘束"」
落ち着いた声とともに、勇輝のアメジストが淡く光る。同じ色をした波動が角獣の脳を締めつける。角獣が意識を失う。
そして、次の瞬間。
シブキの波動が、青く、波打つ。
「"ストリームスプラッシュ"」
ぽつり、と。
背筋が凍るほど冷徹に落とされた言の葉は、音もなく波紋を広げていく。直後彼を呑み込むのは、海の荒波、川の奔流。万水が渦を巻く。
水龍はまるで地を泳ぐように駆け出した。標的の一歩手前、跳び上がる。
青い輝きが角獣の背を滑る。深く、深くその皮膚を抉り取って。尾を伝い、青空に跳ねる水飛沫が、きらきらと輝く。
場違いな美しさだった。
シブキがすらりと着地する。角獣が倒れ込む。背中は荒れた流れに削られた川底のようだった。
シブキは警戒を解かぬまま振り向く。眼は依然冷酷だ。
角獣は消滅していない。数秒後、それは性懲りもせず立ち上がる。
「……まだやるかい」
相棒である勇輝でさえも恐怖を覚えるような声が落とされた。もはや彼の感情は、憤りなどという陳腐な言葉では表せないのだろう。
もっとも、この世の理から自ら外れたバケモノには、威圧など意味を成さないが。
「……フ、クク……さすがに筋がいい。やはり貴様には才があるぞ、龍魔の水龍よ。本気の我をここまで追い詰めるとはな」
余裕の見える声色。この獣は、奥の手を残している。憎しみを滾らせた眼球に死の影は見えない。
それどころか、闘志が増している。
「貴様の健闘を称して、異獣の限界の先を見せてやろう。――"狂化"の秘術をな」
「テメェ、何を、」
角獣の波動が揺れた。その先は? クレナイスズメの特異個体について、グレンたちはなんと語っていた? 波動が揺れて、それから、視えなくなったと。
つまりこの現象は。
止めなければならない。本能がそう告げていた。焦燥を滲ませるシブキたちだが、角獣が突如放った強烈な瘴気が彼らの動きを制限する。
瘴気に包まれた角獣が、詠唱を始める。
「――天の狭間、廻るは混沌、虚無の域。隠り世の主は瘴気の神。顕現せよ、顕現せよ、顕現せよ。贄は『黒角』、捧ぐ我が身に狂騒を――!」
唱え終えると同時に、角獣の波動が大きく波打ち――不可視となる。
瞬間、角獣の放つ瘴気がより濃く、毒々しい霧のようになって実体化した。
「ハッ、特異個体の正体はコレかよ。……笑えねえな」
弟がダウンしてから初めて、シブキが弱音を吐く。憤怒を恐怖が塗り潰す。剣を持つ手がわずかに震えている。
彼らの前に立ちはだかるのは、瘴気の使徒、狂える獣だ。
開幕、空気をぴりつかせる咆哮。先刻以上の、波動ごと揺らすそれに、シブキは息をすることすらままならない。
そこからほとんどノータイムで繰り出された突進。避ける術を持たないシブキの腹に、異常なまでの衝撃が走る。
「が、はッ……」




